国が治療法の研究などを優先的に進める難病として、患者会などが要望していた7疾患が今年、新たに「難治性疾患克服研究事業」に指定された。

指定の要望があった病気は20種類以上あるが、住宅の内装材などの微量化学物質で体調不良が起こる化学物質過敏症や、原因不明の体の痛みに襲われる線維筋痛症などは選ばれなかった。いずれも、研究している医師らがまだ少ない病気だ。

神奈川県の杉崎順子さん(53)は、化学物質過敏症のため、車で寝泊まりする生活を始めて3年になる。自宅にいると、頭痛や胸苦しさ、めまい、鼻血などに悩まされるからだ。

発症は、隣家が壁紙の張り替えや外壁の塗り替えをした2005年夏。異臭が入り込み、頭痛や吐き気などで寝込んだ。

内装材などの化学物質により、体調不良が起こるシックハウス症候群ではないかと考え、新潟県の実家に避難した。体調は次第に回復したが、柔軟剤入り洗剤を使った洗濯物をたたんだりすると、気分が悪くなった。洗剤や防虫剤に含まれる化学物質にも、敏感に反応するようになったのだ。

同年秋、北里研究所病院(東京都港区)で、化学物質過敏症と診断された。患者は、平衡感覚が鈍ったり、物を追う眼球の動きが滑らかでなくなったりする。杉崎さんも検査でそれらの異常が見つかった。

特効薬はなく、ビタミン豊富な食事や転居で対処するしかない。北里大医学部名誉教授の宮田幹夫さんは「重症者は電車や病院内の化学物質にも反応し、受診もできない」と話す。

シックハウス症候群について、国は使用量が多い揮発性化学物質の室内濃度に指針値を作った。だが、日用品などの化学物質にも反応する化学物質過敏症は、国際的な疾病分類でも病名として認められておらず、対策は手つかずだ。

杉崎さんは、周辺に緑が多いアパートや一軒家にも移り住んだが、隣家が使う洗剤や農薬、除草剤などで、めまいや頭痛が起こり、長く居られなかった。

「洗剤を代えてほしいと頼んでも、頭がおかしな人と思われて無視される」
結局、中古車を買い、化学物質を減らすため内装をはがし、寝泊まりしている。

杉崎さんらは昨年、厚生労働省を訪ね、窮状を訴えた。こうした新しい病気に対処するため、厚労省は来年度から、研究費を助成する難病を、研究者からの公募で選ぶ方針だ。今も家を探し続ける杉崎さんは「社会的な理解を得るためにも、難病に指定してほしい」と訴えている。
(「化学物質過敏」手つかず)


化学物質過敏症とは、化学物質曝露が契機となり、多種類の化学物質微量曝露により自律神経症状を主とする、多臓器にわたる自覚症状が誘発される慢性的状態を指します。

発症としては、大量の化学物質に曝露し急性中毒症状が発現した後、もしくは低濃度でも長期にわたり曝露した後に、化学物質に対する寛容を失い、少量の同種または他種類の化学物質に再曝露して多彩な症状を呈すると考えられています。

原因となる化学物質は、ホルムアルデヒド、有機溶剤などの揮発性有機化合物、有機リンが主なものであり、曝露場所は住宅が多いですが、職場や一般環境でも起こりえます。

男女比では1:4であり、40歳代の女性に多いといわれています。症状としては、自律神経、神経・精神、上気道、消化器、感覚器、循環器、生殖・泌尿器と多臓器にわたたものが生じます。具体的には、集中力の低下や不眠、近方視困難、倦怠感、思考力の低下や関節痛、持続あるいは反復する頭痛などが見られます。

検査や治療としては、以下のようなものがあります。
まず、問診が重要となります。化学物質曝露歴と症状の関係について、住居生活、一般環境、食生活、職業歴を中心に聴取することになります(とくに新築、改築、家具の購入に関する生活歴など)。

検査としては、化学的に空気の清浄度の高いクリーンルーム内でマスキングを外したうえで、ガス負荷室において疑わしい化学物質を微量曝露させる試験が診断に有効と考えられています。こうした経気道曝露のほか、舌下や皮下注射による曝露試験が行われています。

Cullenの診断基準としては、
1)環境由来の化学物質暴露により発症する。
2)2臓器異常の症状を認める。
3)原因と思われる物質に対する反応により再発したり減弱する。
4)症状は構造の異なる化学物質の暴露により起きる。
5)症状は低濃度だが検出可能な暴露により生じる。
6)症状を発現する暴露はきわめて低いレベルである。
7)一般に行われている検査で症状は説明できるものはない。

また、厚生労働省アレルギー研究班による診断基準があります。

治療としては、できるだけ化学物質を日常生活環境から排除することが予防的に重要となります。室内換気、建材のベークアウト(室内の温度を上げて揮発性物質を発散させる)、衣服、食品中化学物質に注意し曝露を減らすことが必要です。ほかにも、栄養療法、運動・温熱療法、酸素療法、中和療法、心理療法などが試みられています。

患者さん以外は症状を起こすことはなく、理解が難しい疾患でもあります。ですが、実際に患者さんは自覚症状により苦しんでおり、周囲の方はできるだけ配慮していただければ、と思われます。

【関連記事】
生活の中の医学

睡眠障害の原因にも−むずむず脚症候群