読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
11歳の娘が1ヶ月に1回程度、鼻血を出します。痛みはないようです。先日は就寝中に枕が10cm2ほど血に染まりました。出血は左側からだけです。元気にしていますが心配です。(46歳母)

この相談に対して、大久保病院耳鼻咽喉科医長である古宇田寛子先生は、以下のようにお答えになっています。
小児の鼻出血はよくみられ、鼻をほじる、こする、強くかむなどの刺激が原因のことがほとんどです。左右の鼻のしきり(鼻中隔)の前の方に血管が多く集まっている場所があり、ここから出血することが多く、圧迫すれば簡単に止血できます。鼻中隔が曲がっていると、片側のみの鼻出血が起きやすくなります。

また、小児はアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などにより、鼻粘膜のただれ、かさぶたができることが多く、無意識に鼻こすりや鼻いじりをすることで鼻出血が起こりやすくなります。

しかし、まれに血液の病気などによる出血のほか、鼻腔に誤って入った異物による出血があります。鼻出血が週1回以上、頻繁に起こる場合や、タオルがびっしょりになるほど出血量が多い場合は、一度耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。

鼻腔粘膜は血流に富んでおり(鼻腔の血流は主に外頸動脈、一部内頸動脈から供給される)、機械的刺激、炎症による血管拡張、外気温・湿度の変化、血圧の変動などの要因が加わると容易に出血が起こりうるといわれています。

特に、鼻中隔前下部のKiesselbach(キーゼルバッハ)部位は、5つの動脈によって構成されており(外頸動脈系の血管としては蝶口蓋動脈、大口蓋動脈、顔面動脈の枝である上唇動脈、内頸動脈系の血管としては眼動脈の枝である前・後篩骨動脈)、血管網が豊富であるため、鼻出血の最好発部位(特に子供)となっています。

出血している部位によっては、注意が必要なこともあります。
上記のように、大部分の鼻出血の部位は鼻中隔前方のKiesselbach(キーゼルバッハ)部位であり、座わった状態では鼻から血液が流れ出ます。多量の出血が持続する場合は、やや頭部を前屈させた状態で、冷却した生理的食塩水で鼻腔洗浄したりします(これによって、出血の減少や止血が期待され,その後の処置が行いやすくなります)。

ですが、後方からの出血では前鼻孔から血液が流出せず、多量の血液が後方から咽頭へ流出し止血が困難となります。この場合は血管と気道を確保して、専門医への紹介が必要となります。こうした場合、側臥位として気道を確保し、重篤な呼吸困難では挿管を必要とすることもあります。

こうした局所の要因のほかに、血友病などの凝固因子欠乏症、血小板減少症、Osler病、鼻腔腫瘍などの基礎疾患があったり、アスピリン、ワーファリン、などの抗凝固薬を服用している場合には、しばしば反復性・難治性となる鼻出血が起こりえるため、注意が必要になります。

このような出血部位の同定のほかに、出血量の推定や全身状態を把握することも重要です。重篤な貧血の臨床症状・所見があった場合では、血管を確保し輸液を開始し、適時、止血剤を投与する必要があります。同時に、血液検査や血液型適合検査の後、必要があれば輸血を行います。

鼻出血において、一般的に必要な処置としては以下のようなものがあります。
鼻出血を起こした場合には、座って顔を下に向け血液を飲み込まないようにして、鼻翼部(小鼻)を指でつまみ、5分から10分程度押さえて鼻中隔の出血部位を圧迫します。

のどや口にたまった血液を飲み込むと吐き気をもよおすことがありますので、軽く吐き出させるようにしましょう。多くはその状態でしばらく様子をみると止まります。

ご質問者のお子さんの場合には、頻度も少なく出血量もそれほど多くないと思われますが、出血を繰り返すのであれば、念のため耳鼻咽喉科で診察をしてもらうとよいでしょう。

前鼻からの出血の場合は、上記のように鼻翼をつまむ(3〜5分間)だけでも止血する場合は多いようです。エピネフリン(ボスミン5,000倍希釈)を浸して、鼻入口部に挿入して鼻翼をつまむとさらに効果的です(ただし小児には慎重投与)。

出血部位が確認でき出血量が多量でないものに対しては、10%硝酸銀溶液、電気凝固、レーザーなどによる焼灼を行います。ただ、電気凝固や硝酸銀は痛がって処置できない場合が多いため、ほとんど止血できていて、血がにじむ程度であれば、サージセルなどを小さく切って貼りつけるといったことも行われているようです。

流れ落ちる血液は、飲み込まないように座位もしくは側臥位にして、はき出すように指導します。また、一度止血した部分に痂皮(かさぶた)が形成されると、鼻閉、鼻前庭湿疹を生じて、さらに鼻をいじって出血させてしまう、悪循環をきたすことがあります。そのため、鼻いじり、鼻こすりは止めさせるようにしてください。

出血を繰り返す場合、上記のような物理的な原因のほかに何か原因があるのかも知れません。そうした場合は、しっかりと耳鼻咽喉科を受診して調べていただいたほうがいいかもしれませんね。

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