関西地方の無職男性(71)は、右目の視野中心部にゆがみや暗さを感じ、新聞を読んだり、テレビを見たりするのも難しくなった。大阪大病院で、加齢黄斑変性症と診断され、臨床試験中の新薬で治療を受けたところ、1年後には症状がほぼなくなり、新聞やテレビも楽しめるようになった。
眼球内の「黄斑」は、カメラのフィルムにあたる網膜の中央部にあり、直径約1・5ミリ。視覚の中枢で、人が何かを注視したり、文字を読んだりする時は、黄斑に光の中心が当たるように視線を向けている。
この黄斑が、加齢に伴って変形したりするのが「加齢黄斑変性症」だ。高齢化で、患者が急増している。
加齢黄斑変性症には、黄斑部が徐々に委縮する「委縮型」と、黄斑部に新たにできた血管(新生血管)が異常に増殖し、湾曲・変形する「滲出(しんしゅつ)型」がある。委縮型の病気の進行は緩やかだが、滲出型は発症後、数か月〜2年で視野中心の視力が急速に悪化し、最悪の場合は失明に至る。滲出型の新患患者は年間5万人以上と推定されている。
早期に治療することが必要で、病変部に弱いレーザー光を当て、新生血管の増殖を抑える「光線力学療法」が主流だ。ただ、効果は限られ、周囲の正常組織も破壊してしまう難点もある。
この難点を克服すると期待されるのが、今年7月に認可(10月発売予定)された滲出型の加齢黄斑変性症治療薬「マクジェン」だ。眼球内に薬を少量注射し、血管新生を促進する「血管内皮細胞増殖因子(VEGF)」のうち、悪玉の「VEGF165」のみを抑える働きがある。
大阪大など国内14施設が実施した臨床試験で、患者95人に対し6週間に1回ずつ、1年間薬を注射したところ、4割以上の患者で視力改善か、現状維持が確認できた。注射に伴う眼内炎などは起きたが、症状は一時的で、重大な副作用はみられなかった。
光線力学療法では2泊3日の入院が必要なのに対し、マクジェンは注射1本で済み、通院で治療できる。来月以降、加齢黄斑変性症を専門とする全国の主な眼科で治療を受けられる。薬価は1回分約12万円で、検査料や技術料は別途必要。保険適用される。
マクジェンは、国内初の「核酸医薬」としても注目される。DNAを構成する核酸は、自在に合成することができる。マクジェン同様に、VEGFを狙った加齢黄斑変性症の治療薬に、抗体医薬「ルセンティス」がある。「抗体」というたんぱく質が材料となっている医薬品で、マクジェンより治療効果が高いとされ、日本でも製造承認の審査中だ。
大阪大教授の田野保雄さん(眼科)は「マクジェンは抗体医薬に比べ、効果はやや低いが、安全性は高いと言える。抗体医薬は心筋梗塞(こうそく)などの副作用の恐れもあり、今後は両者をうまく使い分けることが大切」と話している。
(加齢黄斑変性症-視力回復 新薬で安全に)
加齢黄斑変性とは、加齢に伴い網膜の中心にある「黄斑」と呼ばれる部分に異常が生じる疾患です。網膜の中心部は黄斑とよばれ、ものを見るときに最も大切な働きをします。この黄斑の働きによって私達は良い視力を維持したり、色の判別を行ったりします。つまり、この部分に異常をきたすと、長い間かかって視力が低下していきます。
加齢黄斑変性は「萎縮型(新生血管の関与がなく、網膜色素上皮細胞や脈絡膜毛細血管板の萎縮を来す)」と新生血管が関与する「滲出型」とがあります。このうち主に治療の対象となり、また高度の視力障害をきたすために問題となるのは滲出型です。
滲出型では、増殖組織を伴った新生血管から黄斑に出血や滲出を生じ、最終的には瘢痕化して、視力の著明な低下や中心暗点をきたします。
原因としては、活性酸素の関与が考えられています。活性酸素によるダメージを受けると、やがて網膜の細胞の一部がはがれ落ち、老廃物となって網膜の下にたまっていきます。この老廃物が、「ドルーゼン」と呼ばれるものであり、ドルーゼンができると、網膜の奥から新しい血管(新生血管)が生えやすくなる、というわけです。
症状としては、視力低下,中心暗点などが現れてきます。黄斑は、自分が最も見たい視野の中心を見るために必要な部分であるため、この部分に異常をきたすと、視野の中心がぼやけ、日常生活に大きく支障をきたしてしまいます。最初は物がゆがんだり小さく見えたり暗く見えたりします(変視症といいます)。
また、急に視力が低下する場合もあります。黄斑部に病気が限局していれば通常見えない部分は中心部だけですが、大きな網膜剥離や出血が続けばさらに広い範囲で見えにくくなります。
加齢黄斑変性は、50歳以上であり、かつ、蛍光眼底造影での脈絡膜新生血管の存在があった場合、診断を確定します(滲出型の場合)。一方、萎縮型では直径175μm以上の境界鮮明な網膜色素上皮−脈絡膜毛細血管板の萎縮といった病巣の存在によって、診断をします。
上記の蛍光眼底造影では、インドシアニングリーン蛍光眼底造影が有用であるといわれています。これは、インドシアニングリーンを静注して、赤外線蛍光を撮影する方法です。脈絡膜血管(脈絡膜とは、眼球血管膜のうち、眼球の後ろほぼ5/6に相当する部分で、網膜と強膜の間にある黒褐色の膜)の造影に適しているといわれています。
治療としては、以下のようなものがあります。
眼球内の「黄斑」は、カメラのフィルムにあたる網膜の中央部にあり、直径約1・5ミリ。視覚の中枢で、人が何かを注視したり、文字を読んだりする時は、黄斑に光の中心が当たるように視線を向けている。
この黄斑が、加齢に伴って変形したりするのが「加齢黄斑変性症」だ。高齢化で、患者が急増している。
加齢黄斑変性症には、黄斑部が徐々に委縮する「委縮型」と、黄斑部に新たにできた血管(新生血管)が異常に増殖し、湾曲・変形する「滲出(しんしゅつ)型」がある。委縮型の病気の進行は緩やかだが、滲出型は発症後、数か月〜2年で視野中心の視力が急速に悪化し、最悪の場合は失明に至る。滲出型の新患患者は年間5万人以上と推定されている。
早期に治療することが必要で、病変部に弱いレーザー光を当て、新生血管の増殖を抑える「光線力学療法」が主流だ。ただ、効果は限られ、周囲の正常組織も破壊してしまう難点もある。
この難点を克服すると期待されるのが、今年7月に認可(10月発売予定)された滲出型の加齢黄斑変性症治療薬「マクジェン」だ。眼球内に薬を少量注射し、血管新生を促進する「血管内皮細胞増殖因子(VEGF)」のうち、悪玉の「VEGF165」のみを抑える働きがある。
大阪大など国内14施設が実施した臨床試験で、患者95人に対し6週間に1回ずつ、1年間薬を注射したところ、4割以上の患者で視力改善か、現状維持が確認できた。注射に伴う眼内炎などは起きたが、症状は一時的で、重大な副作用はみられなかった。
光線力学療法では2泊3日の入院が必要なのに対し、マクジェンは注射1本で済み、通院で治療できる。来月以降、加齢黄斑変性症を専門とする全国の主な眼科で治療を受けられる。薬価は1回分約12万円で、検査料や技術料は別途必要。保険適用される。
マクジェンは、国内初の「核酸医薬」としても注目される。DNAを構成する核酸は、自在に合成することができる。マクジェン同様に、VEGFを狙った加齢黄斑変性症の治療薬に、抗体医薬「ルセンティス」がある。「抗体」というたんぱく質が材料となっている医薬品で、マクジェンより治療効果が高いとされ、日本でも製造承認の審査中だ。
大阪大教授の田野保雄さん(眼科)は「マクジェンは抗体医薬に比べ、効果はやや低いが、安全性は高いと言える。抗体医薬は心筋梗塞(こうそく)などの副作用の恐れもあり、今後は両者をうまく使い分けることが大切」と話している。
(加齢黄斑変性症-視力回復 新薬で安全に)
加齢黄斑変性とは、加齢に伴い網膜の中心にある「黄斑」と呼ばれる部分に異常が生じる疾患です。網膜の中心部は黄斑とよばれ、ものを見るときに最も大切な働きをします。この黄斑の働きによって私達は良い視力を維持したり、色の判別を行ったりします。つまり、この部分に異常をきたすと、長い間かかって視力が低下していきます。
加齢黄斑変性は「萎縮型(新生血管の関与がなく、網膜色素上皮細胞や脈絡膜毛細血管板の萎縮を来す)」と新生血管が関与する「滲出型」とがあります。このうち主に治療の対象となり、また高度の視力障害をきたすために問題となるのは滲出型です。
滲出型では、増殖組織を伴った新生血管から黄斑に出血や滲出を生じ、最終的には瘢痕化して、視力の著明な低下や中心暗点をきたします。
原因としては、活性酸素の関与が考えられています。活性酸素によるダメージを受けると、やがて網膜の細胞の一部がはがれ落ち、老廃物となって網膜の下にたまっていきます。この老廃物が、「ドルーゼン」と呼ばれるものであり、ドルーゼンができると、網膜の奥から新しい血管(新生血管)が生えやすくなる、というわけです。
症状としては、視力低下,中心暗点などが現れてきます。黄斑は、自分が最も見たい視野の中心を見るために必要な部分であるため、この部分に異常をきたすと、視野の中心がぼやけ、日常生活に大きく支障をきたしてしまいます。最初は物がゆがんだり小さく見えたり暗く見えたりします(変視症といいます)。
また、急に視力が低下する場合もあります。黄斑部に病気が限局していれば通常見えない部分は中心部だけですが、大きな網膜剥離や出血が続けばさらに広い範囲で見えにくくなります。
加齢黄斑変性は、50歳以上であり、かつ、蛍光眼底造影での脈絡膜新生血管の存在があった場合、診断を確定します(滲出型の場合)。一方、萎縮型では直径175μm以上の境界鮮明な網膜色素上皮−脈絡膜毛細血管板の萎縮といった病巣の存在によって、診断をします。
上記の蛍光眼底造影では、インドシアニングリーン蛍光眼底造影が有用であるといわれています。これは、インドシアニングリーンを静注して、赤外線蛍光を撮影する方法です。脈絡膜血管(脈絡膜とは、眼球血管膜のうち、眼球の後ろほぼ5/6に相当する部分で、網膜と強膜の間にある黒褐色の膜)の造影に適しているといわれています。
治療としては、以下のようなものがあります。
治療としては、新生血管と中心窩の位置関係により方針が異なります。中心窩下に新生血管が存在しない場合では、レーザー光凝固の有効性が証明されています。熱レーザーで脈絡膜新生血管を強めに凝固し、消退させます。
中心窩下に新生血管が存在する場合では、自然経過は著しく不良で、多くの症例で視力は低下して、4年で約90%の症例が視力0.1以下になるとされます。現在の所、光線力学的療法が第1選択となる症例が多いようです。
光線力学療法とは、「ベルテポルフィン」という薬を静脈に点滴注射後、レーザーを照射する治療法があります。「ベルテポルフィン」という薬は、新生血管に集まり、レーザーが当たると化学反応を起こして活性酸素を発生、血管内から破壊します。発熱しにくいレーザーを用いるので、網膜への影響がほとんどないという利点があります。
ほかにも、経瞳孔温熱療法(近赤外光の半導体レーザーで弱い照射を行う)や、外科的治療法(新生血管抜去術、黄斑移動術などの手術法があり、適応を選べば良好な結果が得られることがある)などがあります。
現在では、抗血管新生薬などが用いられており、今後期待される治療法となっています。分子標的薬と呼ばれる新しいタイプの抗癌薬に属するアバスチン(一般名:ベバシズマブ)が注目されています。
アバスチンは、癌への血液供給を遮断するようデザインされた薬剤 (血管新生阻害薬)の最初のもので、血管の新生を促進する蛋白である血管内皮増殖因子(VEGF)の作用を阻害することで効果を発揮します。
ですが、アバスチンは血栓や心血管障害、腎障害などの副作用を起こす恐れがあると指摘されています。そこで、上記のようなさらに選択的にVEGF165を抑えるマクジェンが期待されているようです。
果たして、効果はどれくらいなのか、そして気になる副作用はどの程度なのかなど、気になるところです。
【関連記事】
生活の中の医学
降圧薬や抗生物質などと、注意すべき食品の飲み合わせ
中心窩下に新生血管が存在する場合では、自然経過は著しく不良で、多くの症例で視力は低下して、4年で約90%の症例が視力0.1以下になるとされます。現在の所、光線力学的療法が第1選択となる症例が多いようです。
光線力学療法とは、「ベルテポルフィン」という薬を静脈に点滴注射後、レーザーを照射する治療法があります。「ベルテポルフィン」という薬は、新生血管に集まり、レーザーが当たると化学反応を起こして活性酸素を発生、血管内から破壊します。発熱しにくいレーザーを用いるので、網膜への影響がほとんどないという利点があります。
ほかにも、経瞳孔温熱療法(近赤外光の半導体レーザーで弱い照射を行う)や、外科的治療法(新生血管抜去術、黄斑移動術などの手術法があり、適応を選べば良好な結果が得られることがある)などがあります。
現在では、抗血管新生薬などが用いられており、今後期待される治療法となっています。分子標的薬と呼ばれる新しいタイプの抗癌薬に属するアバスチン(一般名:ベバシズマブ)が注目されています。
アバスチンは、癌への血液供給を遮断するようデザインされた薬剤 (血管新生阻害薬)の最初のもので、血管の新生を促進する蛋白である血管内皮増殖因子(VEGF)の作用を阻害することで効果を発揮します。
ですが、アバスチンは血栓や心血管障害、腎障害などの副作用を起こす恐れがあると指摘されています。そこで、上記のようなさらに選択的にVEGF165を抑えるマクジェンが期待されているようです。
果たして、効果はどれくらいなのか、そして気になる副作用はどの程度なのかなど、気になるところです。
【関連記事】
生活の中の医学
降圧薬や抗生物質などと、注意すべき食品の飲み合わせ