読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
正座する機会が増えたら、くるぶし付近に水がたまり、膨らみました。整形外科で滑液包炎と言われ、液を抜きましたが、約半年後に再発しました。「繰り返すなら手術」と言われたのですが、手術は必要ですか。(61歳主婦)
この相談に対して、順天堂大病院整形外科教授である黒沢尚先生は、以下のようにお答えになっています。
滑液包とは、関節の骨が出っ張っている部分(膝の前側、肘の後ろ側、内と外くるぶしなど)で、皮膚と関節のあいだに存在する小さな袋状の組織です。

その袋の中には通常、少量の液体が入っていて、骨の出っ張り部分を覆い、皮膚がスムーズに動くようにする装置です。

それらの部分に圧力がかかる動作を繰り返すと、滑液包が炎症を起こすことがあります。例えば、〈1〉膝をついてふき掃除をした〈2〉肘をついて作業を続けた〈3〉正座を繰り返した――などの動作です。

炎症が起きると内部に水がたまります。膝などの関節内に水がたまるのとは違います。50歳〜60歳代の女性は特に起こしやすいようです。
骨や軟骨、靭帯、筋膜に包まれた筋や腱などは、運動器官として互いにあるいは周囲の器官との間で摩擦を生じます。

運動範囲が小さい場合には、疎性結合組織の介在によってこれを吸収しますが、大きい場合には滑液を分泌する滑膜の嚢(滑液包)を形成して、摩擦を減少させています。

滑液包炎とは、この滑液包に生じる炎症のことを指します。急性、亜急性、慢性のものに分けられます。肘、膝、足関節の伸側などの滑液包において、反復性の慢性刺激によって生じる慢性のものが多いようです。上記のケースでも、慢性的に起こった刺激によって生じていると考えられます。こうした物理的な刺激や細菌感染、時には結核性の場合もあります。

部位としては肩関節部が多く、そのほかに肘や膝関節部、踵部、第一中足骨骨頭部、さらに大転子部などにみられます。

治療としては、以下のようなものがあります。
お尋ねの外くるぶしの滑液包炎は痛みなどの症状はなく、気にならなければ放置していて構いません。

しかし、あまり大きくなるとじゃまになるうえ、外見も悪くなるので、その場合は注射器で水を抜きます。ただし、袋はそのままですので再発はありえます。再発しにくくするには、正座する際に、足首にサポーターをして圧迫する方法があります。

通常、手術をしなければならないことはほとんどありません。手術では、手術後に傷がひきつれるなど、不快な症状が残ることがあります。腫れて大きくなったときだけ、注射で抜く方がずっと手間も少なく、安全です。また、正座の動作に慣れてくれば腫れなくなるのが普通です。

無症状のこともありますが、疼痛や水腫などが生じた場合には局所安静、消炎鎮痛剤投与、穿刺排液などの治療の対象となります。細菌感染を伴った化膿性滑液包炎の場合には速やかに排膿を行い、抗生物質投与を行う必要があります。

難治性の場合は、滑液包切除術(外科的に滑液包の切除する)を行うこともあります。ただ、合併症が起こることもあります。上記のように半年に1回程度の穿刺排液で済むのであれば、経過観察の上で大きくなったら再び穿刺を行う、といったことで良いのではないか、と考えられます。手術をお望みならば、上記のような起こりうる合併症を主治医とご相談の上で決められることが重要であると思われます。

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