子供のかぜに、医療機関で抗菌薬(抗生物質)が処方される割合が減っている。小児科の開業医らで作る日本外来小児科学会の調査でわかった。「ほとんどの風邪に抗菌薬は効かない」という常識が浸透してきたことの表れだが、ほぼ全員の患者に処方する医師もおり、ばらつきが大きい。

同学会の調査チームは、会員を無作為に抽出し、昨年10月に、37・5度以上の発熱や、鼻水、せき、のどの痛みで外来を受診した子供に、どの程度、抗菌薬を処方したかを尋ねた。161人(回収率25%)から回答を得た。

受診者に薬を処方した割合は、前回の2002年の調査では47%だったが、昨年の調査では26%に激減。発熱した患者への処方率も、66%から38%へ減っていた。

調査をまとめた「よしだ小児科クリニック」(石川県能美市)院長の吉田均さんは、抗菌薬の処方が減った理由について、「すぐに結果が出る細菌や血液検査が普及したことや、診療指針の影響が大きい」と話す。

抗菌薬は細菌の増殖を抑える力があるが、ウイルスには効かない。かぜの大部分はウイルスが原因であり、抗菌薬は無効だ。それにもかかわらず、従来は「念のため」といった理由や、かぜをきっかけに肺炎などを起こす「二次感染」の予防を目的に、抗菌薬が出されることが多かった。

だが、海外では抗菌薬を飲んでも二次感染の予防効果はない、との研究が多数ある。のどのかぜは、溶連菌という細菌によって起きることがあるが、外来で簡単に診断できる検査キットが普及し、鑑別しやすくなった。

抗菌薬を使い過ぎると、薬が効かない「耐性菌」が増える。日本は欧米に比べて抗菌薬の使用量が多く、子供の中耳炎が治りにくいなど、耐性菌が問題になっている。

2004年、日本小児呼吸器疾患学会と日本小児感染症学会は、溶連菌など細菌感染が明らかな場合を除く大部分のかぜ(上気道炎)には、抗菌薬は原則として不要とする診療指針を発表した。吉田さんら有志のグループも翌年、かぜや急性中耳炎などを対象に、抗菌薬をなるべく使わずに治療する指針をまとめた。

もっとも、抗菌薬の処方率は医師によってばらつきがある。今回の調査で、熱があっても0〜5%の患者にしか抗菌薬を出さなかった医師は48人(30%)いたが、95〜100%の患者に出したという医師も22人(14%)いた。

処方理由に、「家族の希望」を挙げた医師が20%いた。
東京・広尾で外国人の子供も診療する「スワミチコ こどもクリニック」院長の諏訪美智子さんによると、英国人やドイツ人の親は抗菌薬の処方を嫌がる。一方、中国人は抗菌薬の注射、日本人は飲み薬を望む親が多いという。

吉田さんは「通常のかぜは抗菌薬ではなく、安静と水分補給で治すよう、小児科医は親の理解を求めていく必要がある」と話す。
(子供のかぜと抗菌薬)


かぜ症候群(上気道症候群、急性上気道炎)とは、上気道粘膜の急性炎症をとりまとめて総称しています。くしゃみ、鼻汁、咽頭痛や咳嗽、喀痰などの呼吸器症状とともに発熱、関節痛などの全身症状、時に悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状を伴うこともあります。

軽い鼻症状の普通感冒から、全身症状の強いインフルエンザまでさまざまです。最も罹患頻度の高い疾患で多くの人が1年に1回以上罹患し、ことに小児において罹患回数が多いです。

通常約1週間の経過で治癒する予後良好の疾患であり、その原因は多岐にわたりますが、その多く(少なくとも70%以上)はウイルスが病原となります。鼻かぜはライノウイルス、RSウイルス、コロナウイルスが原因となりやすいです。

また、のど風邪はアデノウイルス、コクサッキーウイルス、パラインフルエンザウイルス、気管支かぜはアデノウイルスやパラインフルエンザウイルスのほかマイコプラズマやクラミジアが起こしやすいとされます。

診断としては、発症時期や経過、流行状況などの問診が重要となります。また、膿性鼻汁、喀痰、耳閉塞感の有無などは、合併症の診断に有用となります。検査としては、白血球数、CRPなどの炎症所見に加え、伝染性単核球症などの鑑別のため、肝・腎機能などもチェックする必要が生じるときがあります。最近では、インフルエンザを初めとする迅速診断キットもあり、診断に有用とされています。

治療としては、以下のようなものがあります。
基本として安静、栄養補給、水分補給、そして咽頭痛や咳などの症状などへの対症療法を行います。ウイルスが原因であることが多いため、上記のようにかぜ症候群に対し抗菌薬は効果があまりありません(むしろ耐性菌などの発生リスクの原因となる)。

ですが、その一方で抗菌薬投与が必要な場合もあります。高熱が持続する場合や、膿性喀痰や鼻汁がみられる場合、膿栓・白苔を伴う扁桃腫大、中耳炎・副鼻腔炎の合併、高齢者や糖尿病などの基礎疾患を有するハイリスクグループなどでは、抗菌薬の使用を考えます。

小児の場合でも、機嫌がよく、水分が摂取できていれば(十分な水分摂取を心がけましょう)心配はないと考えられます。安静・栄養・保温が基本となります。また、室内を乾燥し過ぎないように注意することも重要です。ただ、けいれんや繰り返す嘔吐、呼吸困難、意識障害(とろとろしている)などが出現したら、再受診を要すると考えられます。

抗菌薬を使用する必要のあるケースもありますが、上記のように、抗菌薬は風邪そのものに対してはあまり効果がありません。医師が抗菌薬を処方していないことに対して、不信を抱いたり、処方を強く願い出ることは、あまりなさらないで下されば、と思われます。

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