歌手の宇多田ヒカルは5年前に「卵巣のう腫」で手術を受けた。その時のことについて、2008年10月31日のブログでつづっている。

腹部(それもデリケートな女性の生殖機能に関わる部分)の手術は「いろいろな意味で大変だと分かった」と、振り返る。術前に、手術の詳細や術後についていっさい聞かされておらず、後からいろいろと知って驚いたようだ。

それ以降、宇多田のもとには婦人科系の病気に関する相談がたくさんくるようになった。まわりにも、子宮内膜症や子宮筋腫、子宮がんにかかっている女性が「けっこういる」。だからこそ、「婦人科に定期的に検診に行くのは、すごく大事」「アメリカでは初潮の前から婦人科に通うくらい当たり前」と主張する。

また、婦人科系の病気にかかると、将来、妊娠できるのだろうか不安に思う女性も多い。自身については、「私は子供を生む事に関しては、全く問題ないの」。そうはいっても、予期せず妊娠することもあるし、望んでもできないこともある。

「私自身、予定されなかった妊娠で産まれた子だし。(親は避妊してたってことね。昔聞かされたけど。しょうがないから産んだみたい。)そんな子もいるわけだしさ」のんびり構えているようだ。
(宇多田ヒカル 「私自身、予定されなかった妊娠で産まれた子」)


卵巣嚢腫とは、卵巣に発生する嚢胞性の良性腫瘍を総称したものです。病理組織学的には、漿液性嚢胞腺腫serous cystadenoma、粘液性嚢胞腺腫mucinous cystadenoma(ムチン性嚢胞腺腫)、成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢胞腫)が含まれます。臨床的には充実部分を欠き、嚢胞部分のみからなると考えられる卵巣腫瘤に対しても、一般的に用いられています。

漿液性嚢胞腺腫とは、水のようにサラサラとした液体(漿液)が貯留した嚢腫です。全卵巣腫瘍の約50%を漿液性腫瘍が占めており、そのうちの70%が良性の漿液性腺腫であるといわれています。単房性の嚢胞(1つ嚢胞がある状態)を形成します。腫瘍細胞は線毛をもつ、卵管上皮あるいは立方型の卵巣表層上皮に似ます。

粘液性嚢胞腺腫は、ネバネバした液体がたまる嚢腫です。多くの場合、表層上皮性間質性腫瘍に属する良性の粘液性腫瘍です。頸管腺型と腸上皮型の2型があります。

一般に、閉経期から高齢者に多くみられますが、若年者にも発生します。約5%の粘液性腫瘍では奇形腫成分が混在することがあり、そのような例では胚細胞由来が考えられます。多くの場合、多房性の嚢胞を形成するため、超音波診断や腹部CTなどの画像で診断が推定できるといわれています。

成熟嚢胞性奇形腫は、毛嚢、皮脂腺、汗腺などの皮膚付属器を含む表皮に被覆された嚢胞です。内容として皮脂、角化物、毛、骨、軟骨などが含まれています。成熟型奇形腫は分化成熟した組織だけからなり、これらの組織が雑然と入り乱れて全体として塊状を呈しています(部分的に一定の臓器組織のような形を示すこともあります)。成熟型奇形腫のうちで、最もよく観察されるのは卵巣の皮様嚢腫です。

成熟嚢胞性奇形腫では、約10%に両側発生が認められます。比較的に強靭な嚢胞壁(カプセル)で被包され、正常な卵巣組織とは明確に境界されています。自然破裂する場合もあり、放置すれば茎捻転や、二次的な悪性転化(2%程度)をすることもあります。悪性化した場合は扁平上皮癌が多いです。稀ではありますが、自己免疫性の溶血性貧血の原因となることもあります。

卵巣嚢腫は、一般に無症状のことが多く、内診や超音波検査などで偶然発見されることが多いです。また、婦人科特有の症状も乏しいといわれています。一般的に、月経異常や不正性器出血は少ないそうです。

症状としては、下腹部膨満感、下腹痛、腫瘤の触知などが最も多く(約20〜30%)、腫瘤が大きくなると腰背部痛や直腸・肛門の圧迫感などを自覚しますが、単に太った(肥満)と感じている場合もあります。

胸腹水の貯留もみられることがあり、特に線維腫で比較的高頻度にみられます(Meigs症候群と呼ばれます)。非血性で、こうした症状は腫瘤摘出により自然消退します。

性ホルモン分泌による症状としては、エストロゲンやアンドロゲンを産生するホルモン産生腫瘍(莢膜細胞腫、門細胞腫、類副腎腫)では男性化、脱女性化、早期女性化、再女性化などがみられることがあります。

腫瘍の茎捻転、破綻・出血、周囲との癒着などもみられることがあり、特に茎捻転では下腹部の激痛、腹膜刺激症状、ショックを呈することがあります。こうした状況になると、ほかの急性腹症(子宮外妊娠、急性卵管炎、急性虫垂炎、腸閉塞、尿路結石など)との鑑別が重要であり、超音波検査で卵巣腫瘤の存在を確認する必要があります。

診断や治療としては、以下のようなものがあります。
内診では双合診により診察し、他の腫瘍との鑑別および性状(嚢胞性か充実性)、腹水の有無、可動性などをみます。超音波断層法は、経腹法と経腟法とがありますが、経腟法は前処理が不要で内診と同時に実施可能なので、特に内診で触知できないものには必須となります。経腹法は大きな腫瘤に適しており、画像所見の解析により腫瘍の大きさ、腹水の有無、性状(良悪性)の鑑別を行います。CTやMRI検査では、特にMRI検査は腫瘤の性状診断に有用となります。

血清学的検査では、血清腫瘍マーカーは多くの場合正常域内にあり、上昇している場合には多くは悪性と考えられます。ただ、類皮嚢胞腫ではCA19-9が、内膜症性嚢腫ではCA125が軽度上昇することがあるので注意が必要となります。

腫瘤径が5〜6cm未満の腫瘤では、類腫瘍病変との鑑別が困難な場合が多いです。この場合は、定期的な経過観察を行い、腫瘤の大きさや症状の変化をみます。腫瘤の増大や症状の出現をみれば治療対象となります。また、腫瘍の大きさに関係なく悪性が疑われるもの、充実性のものは治療対象となります(5〜6cm以上の腫瘤は原則として治療対象)。

治療法としては、原則として腫瘍のみを摘出(腫瘍核出術)し、手技的に困難な場合にのみ卵巣または付属器を摘除します。腹腔鏡下手術では、巨大なものや癒着が高度なもの、さらに悪性が少しでも疑われるものは除外し、腹腔鏡下に腫瘍核出術を行います。腹腔鏡下手術の適応外のものは開腹して、腫瘍核出術を行います。悪性が疑われるものには腫瘍内容が漏れないように注意し、腹水あるいは腹腔洗浄液の迅速細胞診、腫瘍の迅速組織診を行います。

術中迅速病理診断が境界悪性、または悪性となった場合は基本術式として、単純子宮全摘術、両側付属器切除術、大網切除術を行い、進行期の確定のために横隔膜下面以下の腹腔内の視触診、腹腔細胞診、腹腔内生検、後腹膜リンパ節の郭清術または生検、次に腹腔内に腫瘍が広がっている場合は可及的腫瘍縮小術を行います。

上記のように、ある程度大きくなるまで症状はみられにくい疾患です。婦人科に定期的に受診することや、乳がん検診、子宮がん検診などを受けることは重要なことであると考えられます。

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