日本産科婦人科学会は31日、東京都の妊婦が複数の病院に受け入れを断られ脳内出血で死亡した問題を受け、舛添要一厚生労働相に周産期医療と救急医療の連携強化や、医師の勤務環境の改善を求めた緊急提言を出した。

舛添厚労相と懇談した吉村泰典理事長は「母体の救命救急の取り組みは十分ではなかった。新しいシステムづくりをしなければいけない」と要望。舛添厚労相は「具体策がほしいと思っている。検討を進めたい」と話した。

提言では、医師不足や偏在の解決、病院の適正配置、新生児集中治療室(NICU)不足の解消などを求めている。
(【妊婦死亡】産科と救急の連携強化を 産婦人科学会が緊急提言)


上記のケースの詳細は分かりませんが、妊娠における子癇により、脳内出血が生じる可能性があります。子癇とは、妊娠高血圧症(妊娠中毒症)によって起こった痙攣発作のことを指します。発生時期により、妊娠子癇、分娩子癇、産褥子癇に分類されます。妊娠子癇がいちばん予後不良であり、産褥子癇は比較的予後が良いとされています。

子癇では、妊娠、分娩、産褥の経過中に突然に強直性けいれん(突然に四肢、頸部、体幹などの筋を伸展させこわばらせて突っぱる)を、次いで間代性けいれん(四肢の屈曲と伸展が交互にみられる)を起こし、多くは浮腫、蛋白尿、高血圧を伴います。

発作中・発作後しばらくは、意識喪失し昏睡を示します。けいれん発作は1回のみのことも、反復して発生することもあり、反復性の強いものほど予後は不良であるといわれています。血圧は多くは200mmHg以上となり、乏尿〜無尿で、眼底は網膜血管の異常(拘縮、交叉現象)のほか出血、浮腫がみられます。

痙攣発作の原因は不明ですが、脳血管の攣縮と脳浮腫によるものとされ、妊娠高血圧症における全身の細小血管病変と機序が似ているのではないか、と考えられています。

妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)とは、「妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧がみられる(血圧が140/90mmHg以上)場合、または高血圧に蛋白尿(蛋白尿が300mg/日以上)を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が偶発合併症によらないもの」と定義されています。

妊娠高血圧症候群の原因はいまだ不明ですが、絨毛の脱落膜への浸潤不全(胎盤形成不全)という概念が一般的となりつつあります。結果、子宮胎盤循環不全および母体循環不全に陥ると考えられています。

予後は、重症化して高血圧脳症、子癇、HELLP症候群〔溶血(hemolysis)、肝酵素の上昇(elevated liver enzyme)、血小板減少(low platelet count)を伴うもの〕、肺水腫、常位胎盤早期剥離、DIC、急性腎不全などを合併し、母体の生命が危険にさらされることもあります。

重症妊娠高血圧症の子癇では、意識消失、痙攣、高血圧などがともにみられ、脳内出血と鑑別が必要となります。ポイントとしては、頭蓋内出血では頭部CT検査で、頭蓋内の出血が認められます。

他にも、てんかんとの鑑別が必要になります。てんかんでは妊娠前に既往があることと、妊娠高血圧症の3主徴候(高血圧、蛋白尿、浮腫)はあまり認められないといった点が鑑別で重要となります。

子癇の症状としては、頭痛や眼華閃発(目の前に星がちらつくような所見)などの前駆症状に始まり、チック期、強直性痙攣期、間代性痙攣期を経て昏睡期に入ります。発作が頻回にわたる場合は、予後不良となります。子癇の1/4には高血圧性脳出血が存在し、その場合の予後は不良となるといわれています。

子癇の治療としては、以下のようなものがあります。
母体の救命が原則となります。けいれんを抑え、母体の一般状態を改善し、できるだけ速やかに胎児胎盤を娩出させる必要があり、ときには胎児死亡でも帝王切開が行われます。

けいれんの抑制を行い、けいれん時に舌をかまないようマウスピースを使用します。ジアゼパム、ペントバルビタールの静注、硫酸マグネシウム1〜2g/時間 で点滴静注し、または挿管のうえ塩化スキサメトニウム(サクシン(R))を使用することもあります。そして、刺激を避け、暗室で安静とします。

そして、血圧を下げ、安全に帝王切開ができるようにフロセミド(ラシックス(R))、マンニトール製剤、塩酸ヒドララジン(アプレゾリン(R))が使用されます。こうした鎮静薬、鎮痙薬、降圧薬のほかに、強心薬(肺水腫、心不全がある場合)、利尿薬(肺水腫、乏尿のある場合)、播種性血管内凝固(DIC)および多臓器不全(MOF)に対する治療も必要になることもあります。

脳内出血の治療としては、一般的に脳圧降下薬(脳浮腫の除去)としてグリセオール、マンニトールなどが用いられ、止血薬(血管強化薬および抗プラスミン薬)が用いられることもあります。

出血と診断された場合には、積極的な降圧をすべきであると考えられます。収縮期圧が180mHg以上、拡張期圧が105mmHg以上であれば、注射薬による降圧を行います。目標は最高血圧150mHg前後です。ニトログリセリン(ミリスロール)や塩酸ジルチアゼム(ヘルベッサー)、塩酸ニカルジピン(ベルジピン)などを用いることがあります。ただしベルジピンは、頭蓋内出血が止まったことを確認して使用するべきとされています(一般的には発症6時間後)。同時に脳圧降下薬の投与が望ましく、グリセオールを用います。

外科的治療としては、神経症状、血腫量を基準とするガイドラインが示されており、被殻、小脳、脳葉出血がよい適応であるとされています。具体的には、
?神経症状が悪化しつつある小脳出血や
?被殻、皮質下の50mL以上の血腫
?脳室内出血で急性水頭症を示すもの
などがあります。

出血直後は、血腫除去および出血点止血を目的とする開頭術を行います。血腫除去のみを目的とする場合には、定位的血腫吸引術を発症4〜7日目頃に行います。また、脳内出血では救命できても、片麻痺や言語障害などが問題となることがあります。そのため、積極的に早期からリハビリテーションを行う必要があります。

今回のケースにより、産科医の人員的な不足、病院間の連携の難しさなどが今回の問題でクローズアップされております。こうした問題は、一朝一夕で解決できるものではなく、医療全体の問題として捉える必要があると考えられます。「システム作り」といった方策も短期的には必要と思われますが、よりマクロ・長期的な視点に立った医療政策を行うことが重要であると考えられます。

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