日本人のがんで、患者数が最も多い胃がん。死亡者数は肺がんに次いで2位だ。慶応大病院一般・消化器外科教授の北川雄光さんは「診断と治療の技術は年々進歩しており、早期に見つかれば治りやすいがん」と説明する。

がんが胃の内側表面の粘膜、または、その下の粘膜下層にとどまっている場合を「早期がん」、それ以上深く進むと「進行がん」と呼ぶ。

胃がんのほぼ半数を占める早期がんは、治りやすく、生活の質を下げない治療法を受けられるかがカギになる。

粘膜にとどまっているがんの多くは、口から胃カメラを入れてがんを取る内視鏡治療で完治が望める。胃を切除しなくて済み、後遺症もほとんどない。超高齢社会の日本では、体への負担の少ない内視鏡治療は今後ますます普及するはずだ。

内視鏡治療ができない場合は、胃とリンパ節を切除する手術が必要になる。早期がんなら、おなかに小さな穴を数か所開け、器具を挿入して切除する腹腔鏡手術も可能だ。

ただし、技術の習得が難しく、技術差がある。日本内視鏡外科学会のホームページに、技術認定医(消化器・一般外科領域)の一覧が掲載されているので、参考にしたい。

一方、進行がんの場合、治療で治るのは半数だ。手術ができる場合は、胃の切除後に、「S―1」(商品名・TS-1)という抗がん剤を飲むのが標準的な治療法。残っているかもしれない微細ながんをたたき、再発を防ぐのが目的だ。

手術ができない進行・再発がんでは、S―1と「シスプラチン」という抗がん剤などの点滴の組み合わせで、がんの進行を抑え、縮小を目指す。

このように、早期がんと進行がんとでは、同じ胃がんでも治療法が異なる。標準的な手術については施設による技術の格差は少ないが、一般的には治療件数が多いほど、多様な症例に対応できる能力があると考えられる。

読売新聞では、日本消化器外科学会と日本消化器病学会の研修認定施設1064施設に対し、2007年の治療件数をアンケートし、571施設から回答を得た(回収率53・7%)。

一覧には、紙面の都合で、手術と内視鏡治療の合計が110件以上の施設を掲載、それぞれの件数を示した。地域版では、さらに詳細なデータを掲載した。北川さんは「選ぶなら、複数の治療法を示し、しっかりと説明してくれる医療機関を」と助言している。
(胃がん「早期」 内視鏡で完治も)


日本では男女とも胃癌が第1位でしたが、死者数は年々減少しています。2003年の日本における死者数は49,535人(男32,142人、女17,393人)で、男性では肺癌に次いで第2位、女性では大腸癌に次いで第2位となっています。

胃癌の近年増加率の低下がみられ、これは食生活の欧米化などによる環境の変化、検診などにより根治可能な胃癌が多数発見されるようになったこと、治療技術の進歩などの要因によると考えられます。ですが、日本における胃癌の死亡率は依然世界の第1位にあります。若年者胃癌もあり、「若いから大丈夫」といった考えは危険です。

胃癌の原因としては、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori:Hp)が胃炎やその進展、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の発生・再発に強く関係していることが指摘されており、世界保健機構(WHO)の国際癌研究機関(International Agency for Research on Cancer;IRCA)において、疫学的研究よりHpが胃癌の発生にも原因の一つとして働いていると考えられ、Hpは明らかに発癌性をもつものとして分類(Group1)されています。

胃癌の発生部位は胃粘膜上皮の細胞分裂をする場所、すなわち腺頸部の増殖帯細胞から発生すると考えられています(組織型でいえば、胃癌はほとんどが腺癌)。一方、胃癌がどのような背景粘膜のもとに発生するかを切除胃標本や臨床的な経過観察例からみると、萎縮性胃炎を呈する胃粘膜、特に分化型腺癌は腸上皮化生を伴う胃粘膜に高頻度に発生しているといわれています。

胃癌は、自覚症状による胃癌の早期発見は難しいです(胃癌に特異的な症候はない)。症候の出現は病巣の型、深達度、大きさ、発生部位、転移の有無によって異なります。

胃癌は、その深部浸潤の程度(深達度)から早期癌と進行癌とに分けられます。早期胃癌は、癌の浸潤が粘膜層または粘膜下層までにとどまるもので、リンパ節転移の有無は問いません。

一方、進行胃癌は癌の浸潤が固有筋層より深く浸潤した病変を指します。なお、癌の浸潤が粘膜層内にとどまるものをM癌、粘膜下層に達するものをSM癌、固有筋層に達するものをMP癌、漿膜下層に達するものをSS癌、漿膜に達するもので他臓器に直接浸潤がみられるものをSI癌、ないものをSE癌と呼びます。

ほとんどの場合、早期癌の段階では無症状であり、癌が進行してからでないとはっきりとした自覚症状が出てこないことが多いからと言われています。そのため、放置されてしまったり、逆に内視鏡検査などで早期発見されるケースもあります。

症状としては、腹痛や腹部〜胸部の不快感、吐き気や嘔吐を伴ったり、食欲減退、食事後の胃部膨満感や急激な体重減少などが起こってきます。他にも、下血や黒色便(血液中のヘモグロビンが胃酸によって酸化されて黒くなる)がみられることもあります(これらの症状は消化性潰瘍と同様で、症状だけでは両者の鑑別は困難)。

局所症状として潰瘍を伴っていれば、心窩部痛や吐血・下血を生じることもあり、噴門や幽門に通過障害が生じれば、嚥下困難、嘔吐、上腹部膨満感などが生じてきます。

胃癌の転移には、血行性転移、リンパ行性転移、腹膜播種があります。胃壁内での深達度が進むほど転移率は高くなり、血行性転移では肝や肺、さらに骨、脳、皮膚、腎などへ転移します。リンパ行性転移は所属リンパ節から始まり、遠隔リンパ節へ転移をきたしていきます。腹膜播種は、漿膜を越えて胃壁を浸潤した癌細胞が、腹膜に播種して癌性腹膜炎を起こして腹水を生じます。

肝転移すると肝腫大、黄疸などが起こってきます。腹膜に転移すると腹水、後腹膜に転移すると強い背部痛を認めます。その他、左鎖骨上窩リンパ節転移(Virchow転移)、Douglas窩への転移(Schnitzler転移)、卵巣転移(Krukenberg腫瘍)などがあります。

高度な進行胃癌となると、体重減少、食思不振、貧血、腹部腫瘤触知、嚥下困難などの所見を認めることがあります。末期では、播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併することが多くなります。

治療としては、以下のようなものがあります。
胃癌の治療方針は、「胃癌治療ガイドライン」などにより、腫瘍の大きさ・部位・拡がり、病期、全身状態、あるいは患者の希望など様々な要素を勘案し決定されます。

深達度がM(粘膜内)で、N0(リンパ節転移なし)、分化型、2cm以下、潰瘍形成なしであれば、内視鏡的粘膜切除術を行います。StageIIもしくはIIIAなら、2群リンパ節郭清を伴う胃切除術(これが標準的な手術法であり、定型手術と呼ばれます)を行います。StageIV(遠隔転移を伴う)なら、姑息的手術を行ったり、化学療法などを行います。

胃の切除は、部位によって胃全摘術、幽門側胃切除術(十二指腸側2/3程度の胃切除)、噴門側胃切除術(食道側1/2程度の胃切除)などに分けられます。

切除が終わったら、食物の通り道をつなぐために消化管再建が行われます。様々な再建法があり、個々の患者の状態に応じて選択されますが、代表的なものはBillroth I法(胃-十二指腸吻合)、Billroth II法(胃-空腸吻合)、Roux en Y法(食道or胃-空腸吻合)、空腸間置法(空腸で置換)などがあります。

現在では外科切除に加えて、内視鏡的治療や腹腔鏡下手術が行われるようになっています。腹腔鏡下手術とは、腹壁上に0.5〜1cmの小孔を3〜4か所あけて、光学視管(スコープ)を挿入して開腹せずに行う手術です。術野を得るために腹腔内に炭酸ガスを注入する方法(気腹法)と、鋼線や専用の器具で腹壁を吊り上げる方法(吊り上げ法)があります。光学視管にCCD電子内視鏡を装着し、ビデオモニターを見ながら手術を行います。

開腹手術に比べ、手術創が小さく、術後疼痛が少ない、入院期間が短い、社会復帰に要する時間が短いなど多くのメリットはありますが、安全で円滑な手術を行うためには開腹手術とは異なった技術を要します。

手術が可能となるのは、比較的早期な癌です。早期では症状に乏しいため、検診をまめに受けるなど、発見のための方策をとることが重要となります。

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