厚生労働省は21日、インターネットで一般用医薬品(市販薬)を購入した30代の女性が昨年8月に肝障害で入院したとの副作用報告が製薬会社からあったことを明らかにした。ネット購入した市販薬の副作用が確認されたのは初めてだが、購入ルートについて厚労省は報告を求めていないため、実際の被害は他にもあるとみられる。

厚労省によると、女性は生薬を主成分とする滋養強壮剤をネットで購入して服用し、肝障害を起こした。数週間入院し、回復したという。

市販薬を副作用の危険度の順に1〜3類に分類した改正薬事法の施行に伴い、厚労省は来年6月以降、1、2類のネット販売を認めない方針を打ち出しているが、政府の規制改革会議は反対を表明している。今回、女性が飲んだ薬は2類に当たる。
(30代女性が肝障害 厚労省の副作用報告)


薬物性肝障害とは、「薬物によって肝細胞障害もしくは肝内胆汁うっ滞が生じる病態」と狭義には定義されます。肝臓は薬物代謝の中心的臓器であり、薬物による障害は起こりやすいと考えられます。

ほとんどの薬物性肝障害は急性型であり、肝細胞壊死、胆汁うっ滞、脂肪肝などの病型があります。慢性肝障害はまれでありますが、薬物性肝障害でも劇症肝炎、慢性肝炎を発症します。劇症肝炎の起因薬物としては抗癌薬、代謝性疾患治療用薬、解熱鎮痛薬が多く、その代表的な薬物としてアセトアミノフェン、ハロタン、トログリタゾンなどがあります。
 
発生機序から予測可能なものと特異体質によるものに分類されます。アセトアミノフェンに代表されるような予測可能な薬物性肝障害を起こすのはむしろ例外的であり、ほとんどは特異体質に基づく予測のできない薬物性肝障害です。特異体質によるものとしては、さらにアレルギー性と、個体の特異体質に基づき産生された肝毒性の高い代謝物が肝障害を生じると考えられる代謝性とに大別されます。

原因となる薬効別分類では、抗生物質(特にセフェム系、ペニシリン系)が最も多く、次いで解熱鎮痛薬、消化器用薬、化学療法薬、循環器用薬が多いです。上記のように、漢方薬や健康食品も起因薬物となります。

これらは生体内に入ると解毒され、不活性の化合物へ代謝されます。ですが、一部の薬物は生体内で活性化され毒性が生じます。また、あるものはチトクロームP450などにより代謝され、毒性がきわめて強い活性中間体を生成することもあります。

本来、活性中間体は抱合機構で不活化(解毒)されます。活性中間体が多く生成されたり、その不活性化が抑制されると活性中間体が増加して細胞成分と結合します。活性中間体が酵素と結合し、酵素機能障害を引き起こし細胞死が生じます。薬物そのものと、あるいは活性中間体が蛋白と結合することにより抗原性を獲得してアレルギーが生じ、肝障害が起こると考えられます。

症状出現までの潜伏期間は4週間以内が70%以上、8週間以内が80%を越えるといわれています。同一薬物を再投与すると、発症までの期間は短くなります。全身のアレルギー症状と薬物性肝障害の特徴である胆汁うっ滞症の症状が特徴的です。

アレルギー症状としては発熱、皮疹、そう痒感、関節痛などです。このうち、発熱は最も早期に出現し、比較的頻度が高いです(発疹は出現頻度は低いがアレルギー症状として重要な症候であり、その診断的意義は大きいです)。

胆汁うっ滞の症状として、黄疸(尿濃染,眼球黄染)とそう痒感があります。胆汁うっ滞型を呈する例では、全身症状は軽微ですが黄疸と皮膚そう痒感、灰白色便をきたすことが多く、肝炎型では全身症状、特に消化器症状を伴うことが多いといわれています。

また、肝障害に由来する症候として、自覚的には全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、腹痛、黄疸などが、他覚的には肝の腫大や圧痛などがあります。ただ、アレルギー症状や胆汁うっ滞を呈さない症例もあります。

診断や治療としては、以下のようなものがあります。
薬物性肝障害の診断には、薬物投与と肝障害の出現と消退の時間的関係、ほかの原因の除外診断の2つがポイントとなります。診断には、国際コンセンサス会議の診断基準をわが国の現状に合うように改訂した診断基準案が用いられることが多いようです。

この基準案では、初診時のALTとALP値とから病型を分類した後、8つの項目でスコアリングを行い、総スコアから「可能性が高い」「可能性あり」「可能性が低い」の3つに判定するものです。

上記のように、民間薬や健康食品などで肝障害が起こる場合もあり、こうしたケースでは患者さんが意識していない場合もあるため、これらについても忘れずに聴取する必要があります。具体的な診断方法としては、
1)詳細な薬物服用歴の調査
2)肝炎ウイルスの除外
3)起因薬物の投与中止による肝障害の改善
4)薬物感受性試験による薬物の同定
5)偶然の再投与による肝障害の出現

などにより鑑別診断を進めます。

検査としては、白血球増多と好酸球増加をみることが多いです。好酸球増加はアレルギー症状の一つであり、好酸球増加は30%程度みられます。

病型により異なりますが、胆汁うっ滞型では血清中総ビリルビン値、ALP、γ-GTPなどの胆道系酵素の上昇が著明で、AST、ALTの上昇は高度になりません。肝細胞障害型ではAST、ALTが基準値上限の5倍以上となり、ウイルス肝炎と類似します。低力価ながら自己抗体を検出することもあります。

また、腹部エコー、CT、MRCP、ERCPなどの画像診断によって肝外性黄疸を除外する必要があります。さらに、診断を明確にするとともに予後を推測するうえで肝生検が有用となります。

薬物性肝障害を疑った場合では、当然のことながら起因薬物を現在も服用中であれば直ちに中止します。薬物投与をどうしても中止できない場合には、薬物の変更を考慮します。この場合、化学構造の異なる薬物に変更するように心がけます。多数の薬物を服用しているときは、頻度的には3ヶ月以内、特に4週間以内に初めて服用した薬で起こることが多いので、このような薬物をまず中止します。

また、肝細胞障害型の肝障害ではグリチルリチン(強力ネオミノファーゲンシー)の静注が行われる場合がありますが、きちんとしたエビデンスは得られていません。アセトアミノフェンの肝障害には、N-アセチルシステインを投与します。

肝内胆汁うっ滞に対しては、肝障害性胆汁酸の胆汁排泄作用のあるウルソデオキシコール酸、グルクロン酸抱合能を高め胆汁排泄促進作用のあるフェノバルビタール、胆汁酸との結合により便中排泄促進作用を呈するクエストランなどが用いられます。また過敏反応が強い場合には、ステロイド薬が有効なことがあります。

上記のように、漢方薬などでも肝障害は起こりえます。服用する際には、ご注意いただければ、と思われます。

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