米オハイオ州の医療機関「クリーブランドクリニック」は17日、顔に大けがをした女性に死者から顔のほぼ全体を移植する移植手術に成功したと発表した。

顔面移植は、飼い犬に口の周囲をかまれたフランスの女性に実施された2005年の症例以来、世界で4例目だが、顔の80%にも及ぶ広範囲の移植は初めてという。

医療チームによると、女性は下あごを除き、ほぼ目線から下の顔面をえぐられるような外傷を負い、そのままでは呼吸や食事もできなくなった。

遺族の同意で死者から鼻やほおの筋肉、骨、神経、血管、上あご、歯の一部を含む顔の組織の提供を受け、約22時間の大手術で約500平方センチ分を丸ごと移植。手術から約2週間たっても拒絶反応はなく状態は良好で、1年後には食べたり話したりできるようになる見通しだという。

チームによると、顔つきは筋肉や脂肪など深層構造に左右されるので、提供者には似ないという。患者の名前や年齢、けがの原因などは公表されていない。
(アメリカで顔の80%を移植する手術が行われる)


世界初の顔面移植は、2005年にフランス人女性イザベル・ディノワールさん(38)に対して行われました。手術後1年半で機能的にも見た目にも満足できる状態に回復したとの治療結果が発表されています。脳死になった46歳の女性ドナーから提供された顔の皮膚や筋肉を移植する手術を受けています。

自身の身体の一部の筋肉を使用すればいいのではないか、と思うかもしれません。実際、顔面の一部移植は患者自身の背部や臀部、大腿の皮膚や筋肉を利用して以前は手術が行われていたそうですが、皮膚が乾いたり、十分に機能しないなどの問題があったそうです。やはり、十分な機能や美容面での問題を克服するには、顔面の移植が必要になるようです。

経過としては、最初は発音や飲食にも苦労したが、手術後3ヶ月でPやBといった唇を使う発音ができるようになり、1年後には飲み物をこぼさずに飲めるようになっています。軽い触覚や熱さ、冷たさの感覚が戻ったのは半年後。1年半後には笑顔が左右対称になったといいます。

顔面移植手術の問題点としては、拒絶反応があります。これは、以下のようなものを指します。
拒絶反応とは、移植において宿主免疫系(移植を受けた側:レシピエント)が非自己抗原(ドナーからの臓器)を認識し、移植片(ドナーからの臓器)を排除しようとする反応のことです。細胞性免疫(生体内のリンパ球のうちのT細胞が主となって起こる免疫反応)と液性免疫(抗体など、血清の成分によって行われる免疫現象)によって起こります。

そのメカニズムとしては、次のようなものです。非自己抗原(ドナーの臓器)は、抗原提示細胞に取り込まれ、細胞内でペプチド断片に分解されます。その後、主要組織適合性抗原と結合し,抗原提示細胞表面に提示されます(「こんな異物が体の中に入ってますよ」と知らせるわけです)。

次に、ヘルパーT細胞がこの抗原情報を認識して、活性化され、分裂・増殖するとともに、種々のサイトカインを分泌するようになります(ヘルパーT細胞は、いわば免疫システムの司令塔です。この司令塔が、「こんな異物がいるのか、それならば攻撃せよ」と指令(サイトカインなどの分泌により)を出します)。

細胞傷害性T細胞は、このサイトカインに応答して増殖し,直接非自己細胞を排除します。このことを細胞性免疫といいます。一方、Bリンパ球はサイトカインによって活性化され、抗原に特異的な抗体を産生する形質細胞へと分化成熟していきます。こちらを液性免疫といいます。

こうした免疫システムは、そもそも体の中に入ってきた異物などを排除するためにあるわけですが、生きるために必要なドナーの臓器をも攻撃してしまい、これが問題となっているわけです。

拒絶反応の治療としては、免疫抑制薬の強化が基本となります。ステロイドパルス療法、抗リンパ球グロブリンパルス療法、モノクローナル抗体投与、そして血漿交換が試みられています(慢性拒絶反応には有効な治療法がないといわれています)。

免疫抑制薬としては、カルシニューリン阻害薬〔calcineurin inhibitor:CNI(ネオーラル、プログラフ)〕、代謝拮抗薬(セルセプト、ブレディニン)とステロイド薬(プレドニン、メドロール)という、作用機序の異なる3剤の併用が基本となります。

免疫抑制薬の副作用としては、移植後糖尿病(PTDM:post transplantation DM)、高血圧、高脂血症、高尿酸血症などの生活習慣病があります。また、免疫抑制過多では感染症も起こりえます。

上記のケースでは、拒絶反応もあまり起こっていないようです。顔面に大変な外傷を負ったにもかかわらず、それが回復できたとなれば、顔面移植の今後の可能性も大きいのではないか、と考えられます。

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