ある25歳の女性は病院で症状を語ります。「意識が朦朧として、吐き気を催してきたかと思うと、恐ろしいほど体の具合が悪くなるんです」。この女性はこれまでに原因不明の気絶を繰り返していました。

最初に気絶したのは15歳の時でした。それから、1週間に何度も気絶するようになりました。身体検査を重ねましたが、原因はまったく分かりません。

しかし、長年の調査からあることが分かりました。原因不明の気絶は、サンドイッチと炭酸飲料を一緒に食べた時によく起こるようでした。彼女が最後に気絶したのは、運転中にサンドイッチを食べた時です。幸いにも停車中だったため、大事には至りませんでした。

バーミンガムの大学病院に勤めるクリストファー・ボース博士は、この女性にサンドイッチを与えるとどうなるか調べました。すると、女性の心臓で電気異常が起こり、2秒間ほど心臓が止まることが確認されました。このため、彼女は気絶していたのです。

原因は“嚥下性失神”でした。これは物を飲み込む動作が心臓に負担をかけ、一時的に心臓が止まってしまうという病気です。この症例はとても珍しく、50年前に発見されたばかりです。

サンドイッチを飲み込むという動作、これこそが女性を気絶させる原因でした。女性は現在ペースメーカーをつけており、気絶することなく元気に過ごしているということです。
(サンドイッチを食べると気絶してしまう女性)


嚥下性失神(swallow syncope)とは、嚥下による食道の拡張に伴う求心性刺激と、心臓への遠心性抑制の異常により、心臓伝導障害を誘発し、そのため失神を起こす疾患です。嚥下以外にも嘔吐により失神が起こることもあります。

多くは食道や心臓に形態的異常を伴っているといわれ、血管迷走神経反射の異常により起こるといわれています。血管迷走神経反射とは、迷走神経(第10脳神経で副交感神経線維よりなる)の過活動により心拍が抑制され、徐脈、血圧低下を来す自律神経反射です。

血管迷走神経反射の機序としては、Bezold-Jarisch(ベツォルド-ヤーリッシュ)反射が重要な役割を果たしていると考えられています。Bezold-Jarisch反射とは、心臓の機械受容器の刺激により、迷走神経求心路を介する中枢性の交感神経抑制と、副交感神経刺激が起こり、その結果、末梢血管の拡張と徐脈により血圧低下を生じる反射です。

反射性失神が排尿、排便、せき(咳嗽)、嚥下などのある決まった状況下で起こるものを状況性失神といいますが、この状況性失神でも腸管、膀胱などの各臓器に存在する機械受容器の刺激により、血管迷走神経反射と同様の機序により、血圧低下を生じると考えられています。

簡単に言ってしまえば、「少し大きめなものを嚥下(飲み込む)する→食道の拡張→迷走神経が刺激される→心拍が抑制される→血液が脳にわたりにくくなる→失神」という流れです。

ちなみに、その診断の進め方としては、以下のようなものがあります。
失神とは、血圧低下(その結果、一過性に全脳虚血が起こる)による一過性の意識障害です。筋緊張を失うため、転倒することが多いです。

原因は、
/看拏栖機消化管出血・感染症などの急性器質的疾患
起立性低血圧
神経起因性失神(NMS)
ぬ物(血管拡張薬)や化学物質(アルコール)
など多岐に渡ります。最も多いのは、神経起因性失神(NMS)であり、生命予後としては問題となることは少ないですが、再発して繰り返したり、転倒時に受傷する危険があります。

これら失神の診断において最も重要なものが詳細な病歴の聴取です。発作の誘因、前兆、随伴症状、意識消失の時間的経過、意識回復後の状態、既往歴、合併症、内服薬などを詳細に聴取することによって、てんかん発作、一過性脳虚血発作(TIA)、パニック発作などの失神と類似した他の症状を鑑別すること、発作が失神であるとしたら、その原因の手がかりとなる特徴を明らかにできます。ですが、患者本人は意識障害のため、発作時の状況を覚えていないことも多いので、発作の目撃者からも聴取することも重要です。

てんかん発作、特に大発作では通常、意識消失時に全身性の強直性間代性けいれんがみられ、また発作後にもうろう状態を伴うため意識の回復が失神ほど速やかでないという特徴があります。

TIAは全脳虚血を特徴とする失神とは異なり、脳の局所の虚血によって起こるものであり、通常TIAの症状として一過性の意識消失が単独で起こることはきわめてまれです。

パニック発作は強い不安感、恐怖感とともに、しばしば呼吸困難、発汗、口周囲や手指のしびれ感、テタニー、めまい感などの多彩な身体症状を伴います。めまいは過換気の結果であることが多く、PaCO2の低下により、脳血管の収縮が起こり、脳血流量が減少することが原因となります。一方、ヒステリー発作は圧倒的に女性に多く、倒れ方が不自然で、人前で倒れやすい、外傷を生じない、発作時の脈拍や顔色が正常である、意識消失の時間が長いなどの特徴があります。

血管迷走神経失神をはじめとする反射性失神、起立性低血圧などの良性の失神の多くは、発作の誘因や前兆、発作時の状況を聴くことによって診断できます。血管迷走神経失神では胃部不快感、はきけ、発汗、眼前暗黒感などが前駆した後、意識を消失するという特徴的な経過が起こります。

これに対して、前兆なく突発する意識消失や労作時(運動時)に起こる失神では、心原性失神が考えられます。前兆や随伴症状として動悸、胸部圧迫感、胸痛・背部痛、呼吸困難などがみられる場合にも、不整脈のほか、冠攣縮性狭心症、心筋梗塞、肺塞栓、大動脈解離などの重篤な疾患の可能性があります。

心原性失神を疑う所見がなく、また発作時の状況や体位変換に伴う血圧の変化、内服薬などから反射性失神、起立性低血圧、薬剤性失神などの良性の失神が診断できる場合はそれ以上の検査は不要となります。

経過や症状などから、心原性ならば心電図、心エコー、Holter(ホルター)心電図、トレッドミルなどの非侵襲的検査を行い、さらに必要があれば不整脈診断のための電気生理学的検査、心カテーテル検査などの侵襲的検査などを行います。肺塞栓が疑われる場合は血液ガス、肺シンチなどが、また大動脈解離が示唆される場合は胸部CTや大動脈造影検査が必要となります。

神経学的な異常がある場合やてんかん発作の可能性が否定できないときは、脳波、頭部CTやMRIなどの画像検査を行います。

反射性失神では、頭部挙上試験(斜面台の上に寝た状態で30〜45分間、頭部を60〜80度挙上する試験)を行います。血管迷走神経失神の患者は頭部挙上による下肢への静脈血貯留による反射性の血圧低下を生じやすいです。

頸動脈過敏を診断するためには、頸動脈洞マッサージ(頸動脈過敏があると、総頸動脈の圧迫により反射性の徐脈と血圧低下を生じやすい)を行います。ほかには、精神疾患の評価のための精神医学的評価などの特殊検査などがあります。

上記のケースでは、恐らく嚥下による血管迷走神経反射などが原因ではないか、と考えられます。抗コリン薬が有効との報告もありますが、有効性が確立しているとはいいがたいと思われます。

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