読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
最近、口の中が乾いて食べ物が飲み込みづらく気になります。病院へ行くべきなのか迷っているのですが…。(東京都52歳 女性)
この相談に対して、以下のように書かれていました。
症状からしてドライマウスが疑われます。口内の乾燥は不快なだけでなく、歯や歯茎などにも悪影響を与えるので、歯科口腔外科やドライマウス外来などを受診して、適切なケアを行うことをすすめます。

ドライマウスとは、唾液の分泌量が低下して口の中が乾燥してしまう状態をいいます。中高年の女性を中心に増加しており、発症者全体の92%が50歳〜70歳の女性というデータもあります。

原因としては加齢やストレス、向精神薬などの副作用、病気治療の影響(抗がん剤、がんの放射線治療)、内科疾患(糖尿病、甲状腺の病気)、そして膠原病のひとつ、シェーグレン症候群(口と目の乾燥を主な症状とする病気)などがあげられます。

主な症状としては、口の中の乾燥のほか、舌やくちびるがピリピリ、ヒリヒリ痛む、口の中がネバネバするなどです。とくに口の乾燥感と舌痛は、患者さんが訴える中心的なもので、「がんではないか」と心配する人も多く、ドライマウスは心身に大きな影響を与えるといえます。

その反面、「口の中が乾くぐらいは病気ではないだろう」などと軽視する人も少なくありません。しかし、唾液の分泌量が減ると、食べ物がうまく飲み込めない、しゃべりづらいなどの不快な症状が出るうえ、虫歯や歯周病になりやすいため、軽く見るのは禁物です。ご質問の方も歯科口腔外科やドライマウス外来などを受診して正確な診断を受け、原因となる病気があれば治療を行いながら、口内の適切なケアを行うことをおすすめします。
ドライマウス(口腔乾燥症)とは、唾液分泌の減少により生じる口腔乾燥状態を示す症状名です。簡単に言ってしまえば、何らかの原因によって口の中が乾燥してしまう疾患です。口腔乾燥感のみの場合と、実際に口腔乾燥症状を呈するものとがあります。

そもそも唾液は、食べ物の消化を助けたり口の中を清潔に保つなど、数多くの重要な役割を果たしている分泌液です。その分泌量は、実に一日約1.5リットルです。分泌量そのものは加齢とともに減少し、特に50歳代以降の女性において著しいといわれています。

口腔乾燥症状の主な原因としては、急激な脱水状態、高熱、出血などで一時的に起こるものもありますが、持続的なものとして、加齢による変化のほかに、糖尿病、シェーグレン症候群などの全身的な疾患、薬剤の副作用(アトロピンなどの副交感神経抑制作用のある薬剤の服用)、ストレス、口呼吸や齲蝕(むし歯)、歯周病、義歯不適合などの局所的な問題も関与していると考えられています。

唾液の分泌は、自律神経によってコントロールされています。リラックスして副交感神経が活発になると、唾液の量は増加し、逆に緊張し交感神経が活発になると減少します。ストレスが多い生活をしていると、唾液分泌が低下してしまうことになります。

唾液の分泌の減少は、口内炎や口腔粘膜の萎縮変性、嚥下困難、齲蝕の進行や義歯の不適合などさまざまな不快症状を呈することになります。

唾液分泌の減少により口の中が渇き「乾いた食べ物が飲み込みにくい」といった症状が現れることがあります。これは「クラッカーサイン」と呼ばれるドライマウスの最も典型的な初期症状です。

さらに唾液量の低下により、口の中の雑菌の増加が起こります。通常、口の中にいる常在菌は、唾液によって定期的に洗い流され、唾液の抗菌物質により一定量に抑えられています。ですが、唾液が減るとこの洗浄効果が低下し、カンジダ菌というカビの一種が一気に増殖し、炎症を引き起こしてしまいます。さらに味を感じる味蕾にまで及ぶと、その機能が極端に低下し、ほとんど味を感じることができなくなってしまうといった事態にもなりかねません。

診断としては、まず問診により基礎疾患の有無、常用薬剤のチェックを行います。次いで口腔粘膜の萎縮、口内炎や粘膜疾患の有無のほかに、齲蝕(虫歯)・歯周病や義歯の状態などを診てから、実際の唾液分泌量を測定します。

唾液分泌量を検査するには、安静時唾液量、刺激時唾液量(ガムテスト、サクソンテスト)があります。安静時唾液量1.5mL/15分以下、ガムテスト(ガムを10分間咬んで出てきた唾液の量を測定)10mL/10分以下、サクソンテスト(ガーゼに吸収した唾液量を測定)2g/2分以下で唾液分泌量低下と診断します。

膠原病の一種であるシェーグレン症候群の診断のためには、血液検査にて抗SS-A/Ro、抗SS-B/La抗体を含む自己免疫検査を行います。唾液腺機能検査としては、唾液腺シンチグラフィー、唾液腺造影、口唇腺生検などがあります。

治療や日常で気をつけるべきこととしては、以下のようなものがあります。
ドライマウスの改善のために日常生活における留意点は、唾液の分泌を促進すること。そのために主に次の3つが大切です。
1)毎食よく噛んで唾液の分泌を促す。
2)リラックスすると副交感神経が優位になって唾液の分泌が促進されるので、入浴やティータイムなどゆっくりできる時間を持つ。
3)唾液腺の機能を高めるストレッチを行う。
それ以外にも、ガムを噛む(シュガーレスやキシリトール配合のもの)、なるべく体を動かす、規則正しい生活を送るなども大切です。

また、口内を潤すために市販の口腔保湿ケア製品を利用するのもひとつの方法です。保湿ジェル、アルコール未使用の洗口液(マウスウォッシュ)などは、唾液に含まれている天然酵素や保湿成分が配合されているものもあり、口内に潤いを与えます。口の中が乾いて荒れ、痛くて歯磨きがつらい場合は、刺激の強い発泡剤を配合していない低刺激歯みがき剤を使うといいでしょう。

冬は空気が乾燥するので、部屋の湿度にも注意を払いましょう。とくに口呼吸をしがちな人は、マスクを上手に利用すると効果的です。また、口内の健康チェックのために定期的に歯科検診を受けることも大切です。
まず、こまめな水分摂取や、キシリトール配合ガムの咀嚼によりある程度、唾液分泌は促進されます。また、唾液腺のマッサージ、舌や口腔の運動なども効果的です。

治療としては、原因の除去と含嗽(うがい)、人工唾液などの対症療法を行います。こまめな水分摂取や、キシリトール配合ガムの咀嚼により唾液分泌は促進されます。また、唾液腺のマッサージ、舌や口腔の運動なども効果的です。口腔乾燥が強い場合には、保湿成分の入った洗口剤など(絹水、オーラルウエット、オーラルバランス)を用います。

外用剤として人工唾液であるサリベート(噴霧式エアゾール)、うがい液であるアズノール、イソジンガーグルなどがあります。内服薬としてツムラ麦門冬湯やツムラ白虎加人参湯などの漢方薬、去痰剤などが用いられることもあります。

口腔乾燥が強い場合には、保湿成分の入った洗口剤など(絹水、オーラルウエット、オーラルバランス)などを用いることもあります。口内炎が起こっている場合は、ビタミン剤(ビタノイリン)やアムホテリシンB(ファンギゾン)のシロップなどを用いることがあります。

「口が渇く」「乾いた物が食べにくくなった」といった方は、歯科口腔外科やドライマウス外来、耳鼻咽喉科などを受診されてはいかがでしょうか。

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