読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
このような軽度の硝子体混濁は病的意義に乏しく、一般に「生理的飛蚊症」と呼ばれています。飛蚊症を訴える患者さんの大半はこの生理的飛蚊症です。いわゆる「糸くず」のようなものが浮遊しているように見える状態を示します。発症時期は明確でなく、どちらの眼球で自覚するかを明確に返答できない場合も多いです。こうした生理的飛蚊症は、治療の対象ではありません。
一方、網膜剥離につながる網膜裂孔形成や硝子体出血、眼内炎症に由来する飛蚊症もありこうしたものは治療が必要なこともあります。こうした鑑別が重要となります。
硝子体は、硝子体膜を形成して網膜に接して存在していますが、前方では鋸状縁(網膜の最周辺)と、毛様体扁平部に強固に接着しています。後方では、視神経乳頭縁で比較的強固に接着しています。
硝子体の液化変性が加齢とともにさらに進行し、硝子体ゲルが収縮すると後部硝子体剥離が生じます。特に、硝子体ゲル中に大きな液化部分をもつ例では、液化硝子体が後方へ移動するとともに、硝子体ゲルは急激な虚脱状態に陥ってしまいます。
視神経乳頭縁に一致するリング状の肥厚混濁部位が、黄斑前方で浮遊するようになることもあり、これをWeissリングといいます。この状態では、患者さんは「黒い輪が動いてみえる」と訴えることが多いです。
こうした後部硝子体剥離眼では、患者さんは生理的飛蚊症とは異なり、発症時期や左右眼のいずれかを明確に指摘し、形もはっきりと表現できることが多いです。
急性後部硝子体剥離眼では、5〜6%に網膜裂孔形成を伴い、裂孔原性網膜剥離に進行することもあります。急性後部硝子体剥離は一般に50〜60歳前後の比較的高齢者に生じることが多く、これは網膜剥離患者の年齢分布における高年者のピークに一致します。この年齢で急激に生じる飛蚊症は、裂孔原性網膜剥離の前駆症状として重要です。
治療方針としては、以下のようなものがあります。
糸くずのようなものが視界のじゃまをして鬱陶しい場合でも、そのごみが移動して視野の中心からはずれて、気にならなくなることが多いです。原理的には硝子体切除術を行えば、飛蚊症は治癒できます。ですが、手術のリスクを考えると、あまり勧められません(例外的に飛蚊症自体に対して硝子体切除術を行うこともありうる)。
ただ、眼底検査で網膜裂孔など、治療を要する病変がみつからなかったとしても将来、そのような病変が新たに発生する可能性はあります。そのような場合、飛蚊症の症状が増強することが多いため、「黒いごみが急に増える」といった症状が現れ始めたら、再度受診して眼底検査を受けるべきであると思われます。
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3か月ほど前に突然、目の前に赤い光が出現し、眼科で「後部硝子体剥離」と言われました。目の老化現象とのことで、特に治療は受けていませんが、糸くずが飛ぶように見え始めました。(60歳男性)この相談に対して、井上眼科病院理事長の井上賢治先生は、以下のようにお答えになっています。
目の中の大部分を占める硝子体は、大量の水分を含んだコラーゲン線維というたんぱく質で、若い時には透明なゼリー状です。網膜とくっついていますが、年をとるにつれて縮んで網膜からはがれてしまい、最終的には、視神経が網膜に出ている眼底の「視神経乳頭」からも外れます。これが後部硝子体剥離です。硝子体は、若年者では均一のゲル状構造(本来は透明)ですが、加齢とともにゲル中に液化した部分と濃縮されたコラーゲン線維が増加してきます。
硝子体のにごりが網膜の近くに浮かび、白い壁などで蚊が飛んでいるように見える「飛蚊症」や、視野に霧がかかったような「霧視」のほか、硝子体が網膜を引っ張る刺激を脳が光刺激として認識すると、目の中で閃光が見える「光視症」の症状が表れます。
このような軽度の硝子体混濁は病的意義に乏しく、一般に「生理的飛蚊症」と呼ばれています。飛蚊症を訴える患者さんの大半はこの生理的飛蚊症です。いわゆる「糸くず」のようなものが浮遊しているように見える状態を示します。発症時期は明確でなく、どちらの眼球で自覚するかを明確に返答できない場合も多いです。こうした生理的飛蚊症は、治療の対象ではありません。
一方、網膜剥離につながる網膜裂孔形成や硝子体出血、眼内炎症に由来する飛蚊症もありこうしたものは治療が必要なこともあります。こうした鑑別が重要となります。
硝子体は、硝子体膜を形成して網膜に接して存在していますが、前方では鋸状縁(網膜の最周辺)と、毛様体扁平部に強固に接着しています。後方では、視神経乳頭縁で比較的強固に接着しています。
硝子体の液化変性が加齢とともにさらに進行し、硝子体ゲルが収縮すると後部硝子体剥離が生じます。特に、硝子体ゲル中に大きな液化部分をもつ例では、液化硝子体が後方へ移動するとともに、硝子体ゲルは急激な虚脱状態に陥ってしまいます。
視神経乳頭縁に一致するリング状の肥厚混濁部位が、黄斑前方で浮遊するようになることもあり、これをWeissリングといいます。この状態では、患者さんは「黒い輪が動いてみえる」と訴えることが多いです。
こうした後部硝子体剥離眼では、患者さんは生理的飛蚊症とは異なり、発症時期や左右眼のいずれかを明確に指摘し、形もはっきりと表現できることが多いです。
急性後部硝子体剥離眼では、5〜6%に網膜裂孔形成を伴い、裂孔原性網膜剥離に進行することもあります。急性後部硝子体剥離は一般に50〜60歳前後の比較的高齢者に生じることが多く、これは網膜剥離患者の年齢分布における高年者のピークに一致します。この年齢で急激に生じる飛蚊症は、裂孔原性網膜剥離の前駆症状として重要です。
治療方針としては、以下のようなものがあります。
老化現象なので治せませんが、これで視力が下がることはありません。多くの方が、次第に気にならなくなります。生理的飛蚊症または後部硝子体剥離に対しても、まずは眼底検査を行います。加齢に伴う生理的な硝子体の変化以外に異常ないと判断された場合、治療の必要はありません。
ただ、硝子体が網膜から外れる時に穴が開く「網膜裂孔」、さらに網膜の下に液化した硝子体が入り、網膜がはがれる「網膜剥離」、網膜の毛細血管が切れる「硝子体出血」が一緒に起こった場合は、緊急に治療する必要があります。
網膜裂孔はレーザー治療、網膜剥離は手術が必要です。硝子体出血では、出血が目の中で吸収されず、残るようであれば、手術が必要になります。
網膜裂孔、網膜剥離、硝子体出血は、後部硝子体剥離とは関係なく、単独で発病する場合もあります。飛蚊症、光視症、霧視などの症状が出たら、とにかく眼科を受診することをお勧めします。
糸くずのようなものが視界のじゃまをして鬱陶しい場合でも、そのごみが移動して視野の中心からはずれて、気にならなくなることが多いです。原理的には硝子体切除術を行えば、飛蚊症は治癒できます。ですが、手術のリスクを考えると、あまり勧められません(例外的に飛蚊症自体に対して硝子体切除術を行うこともありうる)。
ただ、眼底検査で網膜裂孔など、治療を要する病変がみつからなかったとしても将来、そのような病変が新たに発生する可能性はあります。そのような場合、飛蚊症の症状が増強することが多いため、「黒いごみが急に増える」といった症状が現れ始めたら、再度受診して眼底検査を受けるべきであると思われます。
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