不妊治療で体外受精をする際、活発に呼吸している受精卵を選んで母体に移植すると、妊娠率を高められそうだとの研究を、セント・ルカ産婦人科(大分市)の宇津宮隆史院長と山形大の阿部宏之准教授(生殖生物学)らのチームがまとめた。

妊娠につながりやすい受精卵の選択は、患者の負担を減らすためにも重要だが、従来は見た目のきれいさで判断するしかなかった。

今回、呼吸量も判断に加えたところ、妊娠率は見た目だけで選んだグループの1.5倍だったという。チームは昨年11月の米生殖医学会で発表、「注目すべき成果」として学会賞を受けた。

阿部准教授は、受精卵が消費する酸素量を、受精卵を傷付けずに測定できる装置を開発。これを日本産科婦人科学会の承認を得て、セント・ルカ産婦人科で使用した。

不妊患者計41人を2グループに分けて検討した結果、受精卵の細胞が均等に分割しているなど、形状の良さだけで選んだ受精卵を子宮に戻した21人では、妊娠は8人(38%)だったのに対し、受精卵の呼吸量が、過去のデータから算出した平均値より多いことも選択基準に加えた20人では12人が妊娠(60%)、1.5倍の妊娠率になった。

一方、受精卵の呼吸量が平均の2倍以上だと、逆に妊娠率が落ちることも判明。宇津宮院長は「受精卵を選ぶ客観的な基準が求められていた。呼吸量は有力な候補になる」と話している。
(体外受精の妊娠率アップ 受精卵選択 呼吸量に注目)


体外受精(IVF;In Vitro Fertilization)とは、不妊治療の一つで、通常は体内で行われる受精を体の外で行う方法です。受精し、分裂した卵(胚)を子宮内に移植することを含めて体外受精・胚移植(IVF-ET)といいます。

一方、人工授精とは、排卵日に合わせて女性の体内に精子を注入する治療です。精漿成分や病原体の除去や、運動良好精子の濃縮を行い注入することになります。

体外受精の流れとしては、卵子を採取し(採卵)、体外で精子と受精させ(媒精、顕微授精)、培養した胚を子宮腔に戻します(胚移植)。

具体的には、まず複数の成熟卵子を採取するため、内因性ゴナドトロピンをGnRHアゴニストで抑制しつつFSH/hMG製剤にて卵胞発育を促します(スプレキュア点鼻液や、リュープリンなど)。主席卵胞径が18mmに達したら、FSH/hMG製剤を終了し、LHサージの代用となるhCG製剤を投与して卵成熟を促します。

hCG投与の34〜36時間後に、採卵を行います。局所麻酔または静脈麻酔のもと経腟超音波ガイド下に卵胞を穿刺し、卵胞液とともに卵子を吸引します。

卵子を2〜4時間培養した後、最終運動精子濃度が10万/mL程度になるよう精子浮遊液を加えて媒精します。顕微授精では、第2減数分裂中期に達した成熟卵に対してICSI(卵細胞質内精子注入法)を行います。

ICSI(卵細胞質内精子注入法)とは、精子を不動化し、細いガラス管に捕らえてホールディングピペットで把持した卵の細胞質内に1個の精子を注入する方法です。他の顕微授精法に比較し、この方法は受精を得る確率が高く、広く用いられるようなっています。

その後、以下のような手順で培養していきます。
2前核期胚(前核が2個見えれば、正常に受精した状態とされる)を受精後3日間は初期胚培養液で、4日目以降は後期胚培養液で培養します。初期胚培養液は高乳酸、低−無グルコースで非必須アミノ酸が添加され、後期胚培養液は高グルコースで必須アミノ酸と非必須アミノ酸を含みます。

胚盤胞の孵化が始まる6日目以降の胚移植では妊娠率が低下するので、現在では臨床的に培養期間は5日間が限度であるといわれています。

次に、胚移植を行います。カテーテルに形態良好胚を入れ、経頸管的に子宮腔に注入します。移植胚数は原則的に1個とされています(多胎妊娠を防止するため)。移植後にhCG製剤かプロゲステロン製剤を投与します。

受精卵の酸素消費量によって、選別するということで妊娠率を上げることができるようです。受精卵を選ぶ客観的な基準となるかも知れず、非常に期待される技術ではないでしょうか。

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