読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
3年ほど前から鼻炎で、くしゃみ、鼻水、虫がいるかのようなむずがゆさに悩んでいます。アレルギーの検査では、草、ダニ、ペットなどのいずれにも反応が出ず、原因が分かりません。(46歳女性)
この相談に対して、神尾記念病院の神尾友信先生は以下のようにお答えになっています。
ご質問の内容から、アレルギー性鼻炎と症状が同じでありながら、アレルギー反応が全く関与しない「血管運動性鼻炎」が考えられます。この二つは、よく間違えられます。

血管運動性鼻炎は、例えば、冬に温かい室内から外へ出た時、逆に夏にクーラーの効いた部屋に入った時、また食事などで胃が急に温められた時に起きます。鼻の毛細血管を広げたり、血管から水分をにじみ出させたりする副交感神経の異常で、ちょっとした刺激でも敏感に反応してしまい、鼻づまり、鼻水、くしゃみの症状が出ます。

診断では、問診や血液検査、皮膚テストによるアレルギー検査を通して、ほこりやダニ、花粉などのいずれにも反応がないことを確かめます。
血管運動性鼻炎(血管運動神経性鼻炎)とは、反復性くしゃみ、水様性鼻漏(鼻水)、鼻閉(鼻づまり)を主体とする自律神経異常によって生じる鼻炎を指します。上記のように症状はアレルギー性鼻炎と類似しますが、アレルギー反応がなく、血中に特異的IgEは証明できません。

原因としては、塵埃などの環境的因子、化学物質の蒸気、臭気などの刺激性因子、天候などの気象的因子、肉体的、精神的な心身性因子などが関与します。これらの刺激によって、化学伝達物質(アセチルコリン、サブスタンスP、血管作働性腸管ペプチド[VIP]など)が細胞より放出され、自律神経に作用し症状が発現すると考えられています。

診断は、アレルギー検査が陰性であること、ほかの自律神経障害が存在すること、問診などから総合的に判断(つまり、症状があって、なおかつアレルギー検査が陰性)することになります。発作的に鼻閉が生じる場合は、アレルギー性鼻炎や血管運動性鼻炎などが疑われます。

アレルギー性の検査では、まず問診にて通年性、季節性など発症時期、病悩期間、合併症、家族歴などをチェックします。次に、鼻鏡検査も行います。アレルギー所見の確認、その程度分類の他、鑑別すべき鼻疾患を知ることができます。X線検査では、アレルギー性副鼻腔炎の合併を鼻鏡所見と併せて診断するほか、非アレルギー性副鼻腔炎などを鑑別するうえで必要となります。

また、鼻汁好酸球検査は、アレルギー性の診断上必須の検査となります。この検査が陰性で疑いが強い場合は、再検査を要します。ただし、花粉症の非発作時期には陰性となります。血中の好酸球、総IgE値は気管支喘息ほど高値は示さず、特に花粉症では正常が多いです。

ただし、こうした皮膚テスト・誘発テストは、抗ヒスタミン薬などの使用で抑制されるので、1週間の休薬後に検査を行う必要があります。

治療としては、以下のようなものがあります。
治療は、基本的にはアレルギー性鼻炎と同じですが、当然、アレルギー対策は必要ありません。まず、抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)の内服薬や噴霧薬を使った薬物療法が行われます。抗アレルギー薬は種類が多いので、1種類で効果がなければ、他の種類の薬に変えたり、複数の薬を併用したり、または漢方薬を使うこともあります。

しかし、薬物療法はあくまでも、発症予防にとどまる対症療法で、現在のところ、血管運動性鼻炎を根治する治療法はありません。日常生活でストレスや睡眠不足をためない、アルコールを飲みすぎない、運動して体力をつけるなどの点に注意し、症状を悪化させない努力も大事です。
上記のように、薬物治療としては、抗コリン作用のある抗ヒスタミン薬や局所抗コリン薬を用いることになります。

以前は、ヴィディウス神経切除術も適応となっていました。ヴィディウス神経切除術とは、ヴィディウス神経(翼突管神経)を翼突管(ヴィディウス管)を出た所で切断する手術です。

ヴィディウス神経は交感神経である深錐体神経と、副交感神経の大錐体神経が合して形成されますが、副交感神経の機能が優位であるので、難治の分泌過多を訴える鼻アレルギーや血管運動神経性鼻炎の治療に施行されることがあります。ただ、最近ではあまり行われていないようです(涙分泌も障害されるため)。

上記のように、まずは日常生活で心がけることができることから始めて見て、さらに抗アレルギー薬などを用いることが重要であると思われます。

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