毎日新聞のこころとからだの相談室に、以下のような相談が寄せられていました。
バセドウ病の投薬治療を約1年続けたころ、眼球が突出し眼科でバセドウ眼症と診断されました。3日間ステロイド点滴を受けて治療は終了。2カ月後の血液検査でTRAb(TSHレセプター抗体)が正常値の3倍でした。再度の眼科受診は必要ですか。(30代・女性)

この質問に対して、隈病院診療本部本部長である窪田純久先生は、以下のようにお答えなさっています。
バセドウ病患者さんの10〜20%にバセドウ眼症が出現します。眼球の突出、まぶたの腫れ、見開きが大きくなる、物が二重に見える(複視)、視力低下--等の症状が出ます。

バセドウ病は免疫系が自分の甲状腺を異物として誤って認識し、抗体(TSHレセプター抗体)が生じるために起こります。抗体により甲状腺が刺激され血液中の甲状腺ホルモンが増加します(甲状腺機能亢進症)。

一方TSHレセプター抗体は、まぶたや目の後ろの脂肪組織、目を動かす筋肉にも作用し炎症を起こすと考えられています。ステロイド剤の点滴は目の周囲の炎症がひどい場合(複視や視神経の障害がある時)に用いられ症状を軽減します。ステロイド剤は時に副作用を起こすため、眼球突出だけの場合は積極的に用いられません。

甲状腺機能亢進症を抗甲状腺薬で治療すると2〜3カ月後には甲状腺機能が正常化します。しかしバセドウ眼症は必ずしも良くなりません。目の症状がひどい場合は同時に目の治療を開始する必要があります。原因は同じでも経過は別々であると考えていた方がよいと思います。

目の症状が悪化する時に甲状腺機能が同時に悪化するわけではありませんし、反対に血液中のTSHレセプター抗体価が高くても目の症状が必ずしも悪化するわけではありません。甲状腺機能を正常に保つことはバセドウ眼症を悪化させないことに役立ちます。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)レセプター抗体の刺激により、びまん性の甲状腺腫と甲状腺機能亢進症をきたす自己免疫性甲状腺疾患です。

リンパ球が、自己抗体であるTSHレセプター抗体を産生します。これが、TSH同様の作用をTSHレセプターに伝達するため、甲状腺ホルモンが過剰に産生され、甲状腺機能亢進症が起こります。

全身症状としては、体重減少、多汗、易疲労感、暑がり、微熱、口渇、月経不順、無月経、掻痒感などが生じることがあります。また、循環器症状として動悸、頻脈、労作時息切れ、不整脈などがあります。神経筋症状として、手指振戦、いらいら、多動、不眠、情緒不安定、筋力低下、四肢麻痺などがあります。

眼症状では、眼球突出、眼裂開大、眼瞼浮腫、複視、視野狭窄、視力低下などが起こることがあります。バセドウ眼症(甲状腺眼症)とは、とりわけ重症型は悪性眼球突出症といわれます。女性が男性より罹患しやすいという特徴があります。

眼球突出は眼窩内の外眼筋や、眼窩脂肪組織など球後組織の増殖による球後組織病です。原因としては、眼窩部球後組織に、自己抗原(TSH受容体や外眼筋特異抗原)が存在する自己免疫疾患と考えられています。

重症度は、Basedow病の重症度や甲状腺機能とは平行しないといわれます。外眼筋の運動障害は、外眼筋病変や外眼筋の眼窩周辺組織との癒着など、複合的な原因による運動制限で起こります。

治療としては、以下のようなものがあります。
ステロイド剤点滴後は免疫抑制作用によりTSHレセプター抗体価が下がりますが、しばらくするとまた上がります。その時点で目の症状が落ち着いていれば、再度の治療は必要ありません。

一度目のまわりの炎症が鎮静化すると再発することは少ないと考えて良いでしょう。ただし、バセドウ病の内科的治療を続けることと禁煙が大切です。喫煙はバセドウ眼症を悪化させることが証明されています。

交感神経緊張によるミュラー筋収縮による上眼瞼後退に対しては、α遮断薬の点眼を行います。内科的には、Basedow病合併例では抗甲状腺薬で、また甲状腺機能低下症例ではTSH高値になると眼症が悪化するので、甲状腺ホルモン薬で機能を正常化してから眼症治療を開始します。

眼症治療は、免疫抑制薬療法(主にステロイド)と放射線外照射があります。後者はリニアックX線を用い、球後組織に浸潤しているリンパ球を破壊して局所における免疫応答を抑制することを目的として行います。

また、眼科的手術療法を行うこともあります。内科的治療で改善が期待できない症例に眼位矯正術、上眼瞼挙筋後転・延長術や眼窩減圧術を行います。

上記のように、まずは内科的に治療していくことが先決ではないかと考えられます。その後、さらにどのような眼症治療を行うのか、主治医と相談なさってはいかがでしょうか。

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