毎日新聞のこころとからだの相談室に、以下のような相談が寄せられていました。
81歳女性。大腸ポリープが見つかりました。8ミリと1ミリの二つ。手術経験はなく、「取るのは嫌」と言ったところ、先生も取った方がいいとは言われませんでした。息子は「大きいので取った方がいい」と言います。がんを心配しているようですが、取った方がよいですか。

この質問に対して、森之宮クリニック所長である高見元敞先生は、以下のようにお答えなさっています。
ひとくちに大腸のポリープといってもいろいろな種類があり、治療法もさまざまです。大腸ポリープは、大きく腫瘍性のポリープ(腺腫)と非腫瘍性のポリープに分けられ、がん化のおそれがあるのは腫瘍性ポリープ(腺腫)です。

しかし、そのすべてががんになるわけではありません。腺腫には、がんの可能性が低いものから、限りなくがんに近いものまでさまざまな段階のものがあります。腺腫の一部ががん化したものを「腺腫内がん」と言い、大腸がんの大部分はこのような形で発生し成長すると考えられます。大腸がんの中には腺腫を経ないで発生するものもありますが、今回の主題はポリープですから、その詳細は省きます。

腺腫性ポリープの良悪を見極めるためのもっとも簡単な指標は大きさと形です。小さいものはがんの可能性が小さく、1センチを超えるとがん化の頻度が徐々に増えます。表面のビランや潰瘍の存在も、がんの指標になります。

ご質問の方の1ミリのポリープはこの際無視していいでしょう。問題の8ミリのポリープは、がんの確率は低いとはいえ、ごく一部に腺腫内がんを伴っている可能性もあります。このポリープがX線検査で見つかったのでしたら、日をおいて内視鏡検査を受け、検査のついでにポリープを取ることをお勧めします。

内視鏡の専門医であれば、その程度のポリープを取るのは容易です。摘除したポリープは病理検査により診断も確定しますから、治療と診断が同時に完了するわけです。

大腸ポリープとは、大腸粘膜の限局性の隆起性病変を漠然と指しています。あくまで、肉眼的な限局性隆起の総称です(内腔への限局性突出物をさす形態学的用語であり、病理学的組成を表すものではない)。組織学的な性状を規定しないため、良性(腺腫、過形成性ポリープ、若年性ポリープ、炎症性ポリープなど)であったり、悪性(癌腫、悪性リンパ腫など)の場合もあります。

よって、良性も悪性も存在することになりますが、悪性と判明した時点で、それらは癌、肉腫(悪性リンパ腫も含む)に分類され、ポリープから除外されます。また、良性非上皮性の場合は粘膜下腫瘍と称されるので、結局、良性上皮性突出物をさすことになります。ただ、それでも腫瘍性、炎症性、過誤腫性、過形成性、その他に分かれ、腫瘍性では腺腫の中に癌巣が見つかることが少なくないです。

よって、一般的には、ほとんどが良性疾患を指して用いられることが多いようです。年齢とともに腫瘍性ポリープの発生頻度は増し、40歳以上では約15〜20%といわれます。

ポリープが発見されたときの診断手順として、内視鏡や生検組織所見などから腫瘍性か非腫瘍性か、良性か悪性かを診断します。そして、次に内視鏡治療が技術的に可能かどうか、根治可能か否かを診断します。

大腸ポリープのうち腫瘍性ポリープである腺腫は、悪性化ないし癌合併の頻度が高いため、原則として治療する必要があります。また、非腫瘍性ポリープは悪性化しませんが、癌化ないし癌合併することがあり、大きくなると出血したり腸重積を起こす可能性があるため、治療の適応となることがあります。

一般的にポリープの大きさが増すと、腺腫の一部に癌を伴った腺腫内癌や、大部分が癌で一部に腺腫を伴う癌が認められるようになります。腺腫の一部に癌を合併する頻度は、絨毛腺腫で80%、腺管腺腫で10%程度といわれ、癌化傾向があると考えられています。

大きさ別には、1cm 以下では1%前後ですが、1〜2cmでは約10%、2cm以上では40%以上の癌の合併率が報告されています。

内視鏡にて、形態・大きさ・表面性状に留意します。内視鏡的に得られた腺管開口部の形状から、規則正しい配列の正円形、やや不揃いでも星芒状の開口部は非腫瘍性であると考えられます。

さらに、腫瘍の場合は、密集した長円形、脳回溝状の開口部は良性であることが多く、粗な小円形の場合は悪性であることが多いです。腺管開口部の欠失が明らかであれば浸潤癌であり、ポリープの範疇から外れてきます。

上記のケースでは、以下のように書かれています。
一方、この方の年齢を考慮すれば、ポリープを取らずに、経過を見るのも選択の一つです。仮に8ミリのポリープが微小な腺腫内がんを伴っていたとしても、それが大きながんに発育するまでにはかなりの年月を要するからです。その場合は、定期的にきちんと検査を受けていくという姿勢が必要です。

腺腫であっても直径5mm以下であれば、非腫瘍と同様に3〜4年ごとの経過観察でよく、急激に増大したり1cmを超すものはそのつど摘除することになります。

病変の形態やpit pattern(大腸上皮性腫瘍腺口形態)に注目すれば、多くの病変の質的診断は可能です。組織学的裏付けのため生検を行いますが、腺腫の一部に癌が存在する(腺腫内癌)場合には癌を証明できないこともあります。診断と治療を兼ねて、内視鏡的摘除を行うことが多いです。

一般に直径4cmを超えるポリープ、太い茎のポリープ、広基性のポリープ、半周性以上であったり、虫垂口や憩室にかかる顆粒集簇SGM型のポリープなどは、内視鏡治療の限界を超えています。こうした場合、腹腔鏡手術や開腹術が必要となります。

上記のケースでは、今のところは経過観察で良いのではないかと思われますが、定期的な検査が必要であると思われます。

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