今や国内で年間45万件が行われている近視などを矯正するレーシック手術。今年2月、東京・銀座の眼科医院で集団感染が起き、安全性や医師の技術に不安を抱く人も多い。慶応大病院など全国の4大学病院と11のクリニックが「安心LASIKネットワーク」を発足、インターネットなどを通じ、情報を提供していく。

安心LASIKネットワークに、以下のような「レーシック手術前のチェック事項」が掲載されている。
(1)視能訓練士ら眼科検査スタッフによる十分な検査を受けて、その後、眼科専門医による診察も受け、検査内容と結果について、医師からきちんと説明を受けたか
(2)高度近視や角膜の厚さが薄い人の場合、レーシック以外の術式を選択肢として検討したか
(3)術前検査とカウンセリングに十分な時間をかけたか。治療について十分理解できたか
(4)年齢や手術の目的などを考慮した目標視力の設定を医師と十分に話し合う時間を持ったか
(5)手術の合併症やデメリットに対する説明を受けたか
(6)初めての適応検査後、手術までに一定の日を空けているか
(7)手術後、短期のみならず長期にわたる定期検査を行う予定があるか
(8)執刀医を把握できる診察だったか。担当医師、執刀医は眼科専門医か
(9)不安に思うことをきちんと質問できたか。医師はそれに十分説明してくれたか
(10)術後に問題があった場合、最後まできちんと治療することが期待できる施設か
ネットワークの発足は1月。慶応大医学部眼科学教室の坪田一男教授が世話人代表となり、安心してレーシック手術を受けてもらうための情報や施設の紹介を行う。施設の急激な増加を受け、治療の質が問題となってきたことがきっかけだ。

発足後の2月、東京・銀座の眼科医院で、手術を受けた患者約100人が感染性角膜炎や結膜炎を発症したことが明らかになった。「短期間にこれほど多くの感染症患者が出るのは考えられないこと。患者さんから不安の声があがっており、正しい医療情報を発信することの必要性を改めて感じた」と坪田教授。

レーシックは角膜屈折矯正手術の一種。角膜の表皮を薄くめくって表出した角膜実質層にレーザーを当てて削った後、めくっていた表皮を元の位置に戻すというもので、手術時間は15分程度。痛みも少なく、手術直後から視力が回復する。米国では約15年前から普及し始めたが、日本では平成12年に手術に使用するエキシマレーザーが認可されたことで広く知られるようになった。当初は「怖い」と敬遠する人も多かったが、スポーツ選手ら体験者の口コミが広まったこともあり、この数年、急速に手術件数が増えている。

イラストレーターのはやし・ひろさんも一昨年11月に手術を受けた。「0・04の視力が1・5にまで上がり、今は1・3で安定している。老眼があるので仕事のときは眼鏡をかけるが、外出時は眼鏡なしで電車の中づり広告もくっきり見える。手術してよかった」とはやしさん。体験記事を産経新聞で紹介したところ、それを読んだ友人2人も手術を受けたといい、口コミによる影響の大きさがうかがえる。

日本眼科学会では手術費用を片方の目につき20万〜30万円かかるとしているが、最近は両目で10万円程度と格安を売り物にする施設も出ている。ただ、大勢の患者を診ることで費用が安くなることもあり、格安だから駄目な施設とは一概に言えず、施設のよしあしを見分けるのは難しい。

坪田教授は「基本的には安全で確立した医療だが、眼科の手術であることに変わりはない。自分の適応を知ることはもちろん、施設が適応検査や合併症の配慮、対応、術後のフォローなどをきちんと行っているか確認することも必要。一生に一度の手術なので、しっかり勉強して受けてほしい」とアドバイスしている。
(レーシック手術 受ける前にまず勉強を)


レーシック(LASIK:Laser in Situ Keratomileusis)とは、角膜屈折矯正手術の一種で目の表面の角膜にエキシマレーザーを照射し、角膜の曲率を変えることにより視力を矯正する手術のことです。

屈折矯正手術としては、エキシマレーザーを用いて角膜表層実質を切削するレーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)とレーザー角膜切削形成術(レーシック;LASIC)が一般的であるといわれています。中でもレーシックは、術後の痛みはほとんどなく、裸眼視力も術後早期より安定し、上皮化混濁も基本的に起こらないため、いわば主流となっていると思われます。

具体的には、マイクロケラトームとよばれるカンナのような機械で角膜の表面を薄く削り、フラップ(ふた状のもの)を作り、めくります。そこで露出した角膜の実質部分にエキシマレーザーを照射し、角膜の一部を蒸散させます。その後フラップを元の位置に戻し、フラップが自然に接着するまで(約2〜3分)待ちます。

このように、露出した角膜の実質部分にレーザを照射し、薄くして光の屈折角度を変え、視力矯正を行います。

そのため、角膜厚が足りなかったり(450μm以下の角膜厚)、小角膜など眼自体に問題があったり、合併症(白内障・緑内障・網膜剥離・結膜炎など)がある場合などでは、適応できない人がいます。また、全身疾患との関連で、膠原病、自己免疫疾患の患者さんでは創傷治癒に障害をきたす可能性もあり、ドライアイの合併によりレーシック治療が行えない場合があります。

さらに、比較的新しい手術法であるため、長期的な予後はどうなのか、といった問題もあります。現に、以下のような合併症が現れているケースもあります。
低いとはいえ、他の手術同様に失敗や、術後合併症(感染症など)のリスクがゼロではありません。レーシック手術の副作用と思われる角膜拡張症が1%とはいえ、認められています。

「角膜拡張症(keratectasia)」とは、潰瘍や炎症、変性、屈折矯正手術などの原因で菲薄化した角膜が、眼圧の影響によって前方に膨らんだ状態です。こうなると、再び角膜のカーブは強くなり近視化するばかりか、メガネでは矯正できないくらいの強い乱視を引き起こす可能性があります。これは、強い近視を矯正したり、円錐角膜などを見逃して近視、乱視を矯正した場合に起こるといわれています。

一過性にハロ・グレアが起こることもあります。これは、夜間や蛍光灯の下でまぶしく感じたり、光の周りがぼやけて見えたりする症状です。手術で修正した角膜の内側と外側で光の焦点に違いの出てしまうことが原因といわれています。他にも、一時的にドライアイになることもあります。

視力が十分に出なかったり、さらに、術中のトラブルでフラップ作成が不完全になり上皮剥離を起こしてしまったり、術後早期に目を強くこすったり、ぶつけたりすると、まれにフラップがズレてしまう可能性があり、不正乱視の原因となってしまうこともあります。

こうした合併症が起こりうる可能性もあります。しっかりと病院を選び、説明を受けて納得した上で手術を受けられることが望まれます。

【関連記事】
レーシック手術 少なくとも10年は有効?

レーシック手術を受けていた−加藤浩次さん