「ベイベー!」や「愛し合ってるかーい!」などの決めぜりふ、奇抜な衣装と演出で知られるロック歌手、忌野清志郎さんが2日、がん性リンパ管症のため死去した。58歳だった。葬儀は9日午後1時、東京都港区南青山の青山葬儀所。喪主は妻の栗原景子さん。

06年7月に喉頭がんと診断され入院。治療を続けた後、08年2月に日本武道館で本格復帰した。しかし、同7月、左腸骨にがんが転移していたことが判明、再び活動を中止し放射線治療などを続けていた。
([訃報]忌野清志郎さん58歳=ロック歌手 がん治療続け)


癌性リンパ管症(癌性リンパ管腫症)とは、リンパ節への癌細胞の転移やリンパ管の塞栓などにより、リンパ流がうっ滞するため、逆行性に増殖した癌細胞が、組織のリンパ管内を満たして広がった状態を指します。簡単に言ってしまえば、癌細胞がリンパ管の中を満たしてしまっている状態です。

拡張したリンパ管周囲は、浮腫や線維組織の増殖を伴い、まるでリンパ管炎を思わせるような、偽炎症性状態を示します。乳癌、胃癌や、転移性を含む肺癌などで認められることがあり、予後不良となります。

癌細胞のリンパ管浸潤が高度になると、リンパのうっ滞により、リンパ管の拡張が生じ、肉眼的にリンパ管の網目模様が浮き出てみえることもあります。臨床的に問題になるのは、肺の癌性リンパ管症であり、呼吸困難などの症状を呈することもあります。胸部レントゲン上ではびまん性の索状影を呈し、肺線維症と誤られることもあります。

そもそも、忌野清志郎さんの場合は、喉頭癌と診断されており、その転移が問題となっていたようです。喉頭癌とは、以下のようなものを指します。
まず、喉頭癌と一口に言っても、原発部位により、声門上癌、声門癌、声門下癌に分類されます。

喉頭癌の中でも、声門(声帯)に発生するがんが60〜65%を占め、声門上は30〜35%で 、声門下は極めて少なく1〜2%であるといわれています(声門上癌は次第に減少し、声門癌が増加しています)。

男女比は10〜15:1と圧倒的に男性に多いです。40歳代からみられ、60歳代、70歳代が多いです。喫煙との関連が強く示唆されており、喉頭癌患者のブリンクマン指数(1日喫煙本数×年数)は、平均1,000という大きな数値であることも統計としてでています。

症状としては、声門上癌では咽喉頭違和感や嚥下痛(飲み込むときの痛み)、耳に放散する痛みなどが出現してきます。また、高率(約40%)に頸部リンパ節転移が認められることで、時にリンパ節腫脹が初発症状となることもあります。

声門癌では嗄声(声が、しゃがれて出しにくい)がみられます。小さな癌病変でも嗄声を起こすため、早期発見されることが多いといわれています。

声門下癌は声帯に癌が波及して初めて症状が出現してきます。初期には無症状で経過することが多く、進行して初めて嗄声や呼吸困難などの症状が出現してきます。そのため、進行例が多いといわれています。

声門癌は全体の7割を占めます。早くから嗄声を生じるので比較的早期に発見されやすいという特徴があります。声門上癌は2割強を占め、初診時リンパ節転移は声門癌では1割以下にしかみられませんが、声門上癌では約半数にみられるといった違いがあります。

この違いにより、早期癌であれば喉頭部分切除術、進行癌であれば喉頭全摘出術などが施行されます。放射線療法や外科療法でも治癒する可能性がある場合は、年齢(手術に耐えられるかどうかなど)、全身状態、職業(声を使う職業で、できるだけ手術を避けたい、など)などを考慮した上で、それぞれの治療を決定していきます。

喉頭癌の5年生存率は80−90%と良好であるといわれています。その上で、嚥下・呼吸・発声という喉頭機能を保存して治癒率を上げることが重要となります。放射線療法を基本にし、化学療法と手術を組み合わせて加療を行います。

声門癌では、T1、T2N0症例は放射線根治線量(60〜70グレイ)を照射します。40グレイ照射時に効果を判定し、照射のみで根治を望めないと判断されたときは手術を行います(多くの場合、喉頭垂直部分切除術によって制御可能)。

T2N+およびT3症例はTPF(Docetaxel + Cisplatin + 5-FU)同時併用放射線療法を行います。40グレイ照射時に効果を判定し照射のみで根治を望めないと判断されたときは手術〔垂直部分切除術、喉頭亜全摘術(cricohyoidoepiglottopexy:CHEP)、喉頭全摘出術〕を行います。

治療を続けてこられ、その間にも精力的に歌手としての活動を行ってこられたようです。ご冥福をお祈りしたいと思われます。

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