「もしかして自分は認知症かも」「認知症の母を怒鳴りつけてしまった」-。認知症患者と家族らの不安や悩みの相談に無料で応じるコールセンターが、今年度から全国の都道府県と政令市に順次、開設される。

厚生労働省は今年度関連予算に事業費約7億円を計上。5月中に各自治体に認知症相談専用コールセンターを設置するための要綱を通知し、今後場所の選定などを急ぐ。富山、高知など一部の自治体では4月から運営が始まっている。

コールセンターは介護の経験者や医師ら専門家が認知症に関する質問や介護方法への問い合わせに電話で応じ、専門の医療機関や支援団体なども紹介する。

これまで電話相談事業を行ってきた家族団体「認知症の人と家族の会」(京都)の高見国生代表理事は「匿名で話せる電話相談に行政が乗り出した意義は大きい」と話している。
(認知症の悩みにお答えします 全都道府県・政令市にコールセンター)


認知症は、65歳以上の高齢者の8%以上を占めるといわれています。加齢により発症率、有病率ともに増加します。日本では、人口の高齢化に伴い今後20年間で患者数は倍増すると見込まれています。

頻度の高い原因としては、老人性認知症、Alzheimer(アルツハイマー)病、多発脳梗塞などがあります。老人性認知症、Alzheimer病は潜行性に発症し、一様に進行して全般性痴呆を呈し、頭部MRIで脳萎縮がみられます。老人性認知症は65歳以降に発症し、経過がやや緩徐であるという違いはありますが、その他の点ではAlzheimer病と非常に似ているといわれています。

この中で、2大原因疾患はアルツハイマー病と脳血管性認知症であり、緩徐であるが年の単位でみると確実に進行するため、長期間にわたるケアが必要となります。

認知症では、一般に記憶障害を中核症状とし、知的機能や認知機能の低下、行動障害や精神症状を認め、さらに社会生活や日常生活を送るうえでの困難を生じてくることがあります。

記憶障害では特に、最近に経験した出来事を覚えられない(記銘障害)、ないし思い出せない(想起障害)、近時記憶の障害は、たとえば3つの言葉を覚えてもらい、5分後に想起できないことなどで示されます。

遠隔記憶の障害も伴ってきており、個人的な昔の出来事や思い出、生活歴、過去の社会的事件や有名人などを正確に答えられない状態が起こります。発症後に近い出来事は覚えられないですが、より遠い過去の出来事ほど覚えていることが多い(時間的傾斜現象)といった特徴もあります。

初発症状としては、「同じことを言ったり聞いたりする」「置き忘れやしまい忘れが目立つ」など、記憶障害に関連したものが高率にみられます。こうした記憶障害に伴い、日時、場所、人物などがわからなくなる見当識の障害がみられます。一般に、障害は時間→場所→人物の順で進んでいくといわれています。

失語や失行、失認などの症状がみられることがあります。これらの症状は、一般に脳の限局性病変による巣症状であることが多いですが、認知症でもこれらの高次脳機能障害がみられます。

失語では、「物の名前が出てこない」(語健忘)や「言い間違い」(錯語)、発話の流暢性などの障害がみられます。人の名前や地名など固有名詞が出てこないことは、健常者でもよくみられますが、普通名詞(物の名前など)が出てこないことは病的意義が高いといわれています。

運動麻痺がないにもかかわらず、動作がうまく遂行できない(失行)ことや、感覚障害がないにもかかわらず、対象の認知に問題があること(失認)が起こることもあります。道具を上手く使えないために料理ができなかったり、計画を立てて順序立てて行動したりすることが障害されます。

さらに、認知症に随伴精神症状を認める人は6割を超えるといわれています。高齢者では、視覚・聴覚の衰えとともに判断や思考が低下することがあり、幻覚や妄想を生じることがあります。また、無気力、頑固、怒りっぽい、疑い深いなどといった性格変化が起こることがあります。

認知症を疑う変化、としては以下のようなものがあります。
認知症を疑ったら、今日の日付や現在いる場所などの見当識を尋ねてみることは有効です。特に、日付は最も障害されやすいものの1つです。

日付を正答できるならば、Pick病などの特殊な痴呆、あるいはむしろ痴呆でない可能性も念頭に置きます。外来診療では「今日、どのようにここに来たか」を尋ねるのも近時記憶や見当識をチェックするよい方法とされています。

認知症であれば、一見、態度に問題がなさそうでも、年齢や日付を大きく間違えることが少なくないです。年齢は逆向健忘のため、若く答えることが多いです。一方、意味記憶である生年月日は正答できる場合が多いです。

改訂長谷川式簡易知能評価スケールやMini-Mental State Examination(MMSE)は、痴呆の存在をスクリーニングするのに役立ちます。よく用いられるAlzheimer型痴呆の評価尺度としては、ADAS-Jcog(Alzheimer Disease Assessment Scale-Japanese version)があります。

加齢に伴う生理的な記憶の低下と判別する際には、上記のような簡単なチェックと症状を行ってみてはいかがでしょうか。早期に発見し、加療を始めることで、進行を遅らせることができるかもしれません。

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