読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
口の中が乾燥してネバネバし、舌や唇、歯茎が痛みます。ドライマウスと言われましたが、うがい薬や舌に塗る薬を使ってもよくなりません。(73歳女性)
この相談に対して、鶴見大歯学部付属病院長の斎藤一郎先生は、以下のようにお答えになっています。
ドライマウス(口腔乾燥症では、さまざまな原因で唾液の分泌が減少して滑舌が悪くなったり、口がネバネバしたりという症状が続くほか、乾燥でひび割れた舌や唇などに痛みを生じます。中高年の女性に多く見られ、不快な症状のため、気持ちまで憂うつになることも珍しくありません。

主な原因には、糖尿病や、膠原病の一つで全身に様々な障害を引き起こす「シェーグレン症候群」、脳血管系の病気、脱水症、ストレス、加齢に伴う唾液の減少、鼻炎などによる口からの呼吸、薬の副作用などがあります。多くはそれらが複合して症状が表れます。

まずは歯科・口腔外科などで原因を突き止め、その原因が病気であればその治療が大切です。

ドライマウス(口腔乾燥症)とは、唾液分泌の減少により生じる口腔乾燥状態を示す症状名です。簡単に言ってしまえば、何らかの原因によって口の中が乾燥してしまう疾患です。口腔乾燥感のみの場合と、実際に口腔乾燥症状を呈するものとがあります。

そもそも唾液は、食べ物の消化を助けたり口の中を清潔に保つなど、数多くの重要な役割を果たしている分泌液です。その分泌量は、実に一日約1.5リットルです。分泌量そのものは加齢とともに減少し、特に50歳代以降の女性において著しいといわれています。

口腔乾燥症状の主な原因としては、急激な脱水状態、高熱、出血などで一時的に起こるものもありますが、持続的なものとして、加齢による変化のほかに、糖尿病、シェーグレン症候群などの全身的な疾患、薬剤の副作用(アトロピンなどの副交感神経抑制作用のある薬剤の服用)、ストレス、口呼吸や齲蝕(むし歯)、歯周病、義歯不適合などの局所的な問題も関与していると考えられています。

唾液の分泌は、自律神経によってコントロールされています。リラックスして副交感神経が活発になると、唾液の量は増加し、逆に緊張し交感神経が活発になると減少します。ストレスが多い生活をしていると、唾液分泌が低下してしまうことになります。

唾液の分泌の減少は、口内炎や口腔粘膜の萎縮変性、嚥下困難、齲蝕の進行や義歯の不適合などさまざまな不快症状を呈することになります。

唾液分泌の減少により口の中が渇き「乾いた食べ物が飲み込みにくい」といった症状が現れることがあります。これは「クラッカーサイン」と呼ばれるドライマウスの最も典型的な初期症状です。

さらに唾液量の低下により、口の中の雑菌の増加が起こります。通常、口の中にいる常在菌は、唾液によって定期的に洗い流され、唾液の抗菌物質により一定量に抑えられています。ですが、唾液が減るとこの洗浄効果が低下し、カンジダ菌というカビの一種が一気に増殖し、炎症を引き起こしてしまいます。さらに味を感じる味蕾にまで及ぶと、その機能が極端に低下し、ほとんど味を感じることができなくなってしまうといった事態にもなりかねません。

まずは、上記のように検査などを行い、診断を行うことが重要であると思われます。そのためには、以下のような疾患を鑑別する必要があります。
唾液が減って口腔内が乾燥し、ヒリヒリする痛みが出た場合は、真菌のカンジダ菌による「カンジダ症」が考えられ、それには抗真菌薬が有効です。

薬の副作用の中では、特に睡眠薬や精神安定薬が唾液の分泌を抑える作用があり、毎日服用していると症状を悪化させかねません。軽い運動を続けて体のリズムを整えるなどし、用量を減らすか、薬に頼らない生活を心掛けましょう。

その他は生活習慣の指導や対症療法が中心で、シェーグレン症候群なら唾液分泌促進薬が処方されます。市販の保湿剤で口腔内の粘膜を乾燥から防いだり、ガムをかんで唾液を分泌させたりするほか、歯磨きと、うがいを励行して清潔に保つことも大切です。
診断としては、まず問診により基礎疾患の有無、常用薬剤のチェックを行います。次いで口腔粘膜の萎縮、口内炎や粘膜疾患の有無のほかに、齲蝕(虫歯)・歯周病や義歯の状態などを診てから、実際の唾液分泌量を測定します。

唾液分泌量を検査するには、安静時唾液量、刺激時唾液量(ガムテスト、サクソンテスト)があります。安静時唾液量1.5mL/15分以下、ガムテスト(ガムを10分間咬んで出てきた唾液の量を測定)10mL/10分以下、サクソンテスト(ガーゼに吸収した唾液量を測定)2g/2分以下で唾液分泌量低下と診断します。

膠原病の一種であるシェーグレン症候群の診断のためには、血液検査にて抗SS-A/Ro、抗SS-B/La抗体を含む自己免疫検査を行います。唾液腺機能検査としては、唾液腺シンチグラフィー、唾液腺造影、口唇腺生検などがあります。

こうした原疾患を、まずは考慮し、その上で対処療法などを行います。含嗽(うがい)、人工唾液などがあり、こまめな水分摂取や、キシリトール配合ガムの咀嚼により唾液分泌は促進されます。また、唾液腺のマッサージ、舌や口腔の運動なども効果的です。口腔乾燥が強い場合には、保湿成分の入った洗口剤など(絹水、オーラルウエット、オーラルバランス)を用います。

外用剤として人工唾液であるサリベート(噴霧式エアゾール)、うがい液であるアズノール、イソジンガーグルなどがあります。内服薬としてツムラ麦門冬湯やツムラ白虎加人参湯などの漢方薬、去痰剤などが用いられることもあります。

口腔乾燥が強い場合には、保湿成分の入った洗口剤など(絹水、オーラルウエット、オーラルバランス)などを用いることもあります。口内炎が起こっている場合は、ビタミン剤(ビタノイリン)やアムホテリシンB(ファンギゾン)のシロップなどを用いることがあります。

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