以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で扱われていた内容です。

今から14年前、長男一家と同居を始めたK・Tさん(65)。仕事に追われる長男の嫁に代わって、家事をこなすことになった彼女は、週4日のパート勤めを続けながら、家中の掃除をこなしていました。

ところが、同居を始めて7年目、喉がイガイガして咳が出始め、さらに微熱が。軽い夏風邪だと思い、様子を見ていたK・Tさんですが、以下のような症状がみられてきました。
1)咳
喉の炎症が起こり、持続性の乾いた咳が出始めました。
2)微熱
咳と37℃台の微熱があったことから、K・Tさんは風邪かと思って様子をみていました。
3)咳が続く
しばらくたっても、咳は持続し、なかなか治まりませんでした。
4)家の外に出ると咳が治まる
しかしながら、パートで家を出ると咳が治まるという状態でした。
5)激しい息切れ
ある日、買い物に出かけた帰り道、いつものように路上の階段を上っていると、息切れを感じました。さらに、夜間眠っていると激しい呼吸困難感を覚え、翌日に病院を訪れると、検査の後に「入院しましょう」と言われてしまいました。

K・Tさんの病名は、過敏性肺炎の一つである「夏型過敏性肺炎」でした。

過敏性肺炎(hypersensitivity pneumonitis;HP)とは、労働環境や居住環境で、好熱性放線菌、真菌、異種蛋白質などさまざまな有機性粉塵を感受性のあるヒトが反復吸入した結果、粉塵中の抗原成分によって惹起される呼吸困難、発熱などを主訴とする一群の肺疾患と定義できます。

特に、夏型過敏性肺炎は日本で発見された過敏性肺臓炎であり、西日本を中心に、夏季、湿った家屋内に繁殖した真菌(Trichosporon asahi , Trichosporon mucoides)を反復吸入することによって起こります。

簡単に言ってしまえば、夏型過敏性肺炎とはアレルギー性肺炎の一種で、湿気の多い夏に発症するのが特徴です。夏になると大量に発生する「トリコスポロン」というカビの一種を吸い込むことで起きると考えられています。

そもそもカビは、繁殖するために種の役割をする胞子を大量に作り、それが空気に流されて漂います。K・Tさんは、この胞子を吸い込んだことで、咳や熱などのアレルギー症状を引き起こしたと考えられます。

トリコスポロンは、主に湿気のある屋内、それも掃除の行き届かない所が増殖しやすい場所と言われます。K・Tさん宅では、脱衣所の黒ずみが問題であり、木材が腐食した黒ずみの中から、大量のトリコスポロンが検出されたのです。さらにもう1箇所、台所の狭い隙間の湿ったホコリからも見つかりました。
 
カビが繁殖するためには、3つの条件が必要とされます。
1)温度20度以上
2)湿度60%以上
3)有機物などの栄養があること

発見された2箇所は、この条件を全て満たしていました。
 
過敏性肺炎は、その臨床経過から急性型、亜急性型、および慢性型に分けられます。

急性型は比較的大量の抗原に断続的に曝露された場合に起こります。抗原曝露後4〜6時間して発熱、咳、呼吸困難などの症状をきたし、聴診上捻髪音を聴取します。重症例ではチアノーゼを認めます。抗原から離れると症状は次第に軽快します。

亜急性型は少量の抗原に断続的に曝露された場合に起こり、症状は緩徐に進行します。咳で始まることが多く、次第に発熱、労作時の息切れを覚えるようになり、これらがさらに顕著になります。喀痰、咽頭違和感、体重減少、倦怠感、頭痛などをきたすこともあります。

慢性型は急性型あるいは亜急性型が反復して起こる場合が多いです。明らかな症状に乏しく、次第に肺の線維化をきたし呼吸不全となります。

診断としては、症候と職歴、生活歴、環境歴についての病歴の聴取がまず重要となります。K・さんの場合は、持続性の乾性咳漱があったことや、「家にいると咳が出て、外に出ていると治まる」といった症状、家が築20年以上の木造であった、という点が非常に重要であったと考えられます。

胸部X線では、急性型や亜急性型では両側中下肺野を中心にびまん性にすりガラス状陰影、粒状影を示します。慢性型では肺の萎縮と線状影を認めます。

HRCTでは、急性型は肺野濃度の上昇、肺胞充実性陰影、空気気管支像を広範囲に認めます。亜急性型は肺野濃度の上昇と2〜4mm大の境界不鮮明な小円形の粒状影が小葉中心性に多数散布します。慢性型は辺縁不整な線状影が特徴で、輪状影もみられことがあります。

気管支肺胞洗浄液(BALF)では、抗原曝露24時間以内と早期に施行された場合は、多核白血球数が30〜60%と増加しますが、通常BALFが施工される時期においてはリンパ球が増加しており、50〜90%を占め、その大半はTリンパ球です。回収細胞数は正常非喫煙者の 4〜6倍となっています。

また、夏型過敏性肺臓炎や塗装工肺(イソシアネートによる)ではCD4/CD8比が1以下と低値ですが、農夫肺では上昇します。換気装置肺や鳥飼病ではほぼ基準値となっています。

経気管支肺生検(TBLB)所見では、急性型では中心壊死を伴わない類上皮性肉芽腫の形成とリンパ球やマクロファージなどの浸潤を伴う胞隔炎を認めます。また、肺胞内には滲出物の器質化を示す Masson(マッソン)体を認める場合があり、特徴的な所見となっています。

吸入誘発試験は病因抗原の吸入もしくは環境曝露による誘発試験で、急性・亜急性型で有用です。誘発後数時間で発熱、咳、呼吸困難を認め、検査所見では白血球数(WBC)増加、CRPの上昇、低酸素血症を認めます。ただ、吸入誘発試験は診断には有用ですが、患者さんにとっては危険を伴うもので厳重に注意して行う必要があります。

治療としては、以下のようなものがあります。
急性、慢性とも、まずは抗原回避が最も大切となります。つまりは、入院の上で抗原から離れ、それが何なのか、その原因場所はどこなのか、などをしっかりと明確にして原因を取り除くことが必要になります。

夏型過敏性肺炎を起こす住環境では、腐木の除去を含む修理と防カビ剤を用いた掃除、転居などについて説明する必要があります。その際、寝具(特に枕)も替える必要があります。

発症環境から抗原を除去し、その上で薬物療法としてステロイド剤(プレドニンなど)の投与を行うことが必要になります。呼吸困難が労作時、あるいは安静時に認められる場合はプレドニゾロンを投与します。

軽症では未治療でも自然に軽快しますが、中等症ではプレドニゾロン20〜30 mgを経口投与します。重症例では 40〜60mgを投与し漸減します。呼吸不全に陥っている重症例では、メチルプレドニゾロンのパルス療法を行うこともあります。

とくに築年数の長い木造の家庭ではご注意ください。なお、主婦のように家にいる時間が長い方のほうが発症しやすいという特徴もあります。ほかの家族が大丈夫だから、ということで安心なさるのではなく、しっかりとこの疾患も疑ってかかることも重要と考えられます。

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