読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
脳ドックで、髄膜腫が見つかりました。医師から「経過を見て腫瘍(しゅよう)が大きくなったら手術を」と言われました。自覚症状はありませんが、手術した方がいいのではないかと、悩んでいます。(68歳女性)

この相談に対して、NTT東日本関東病院 脳神経外科部長である森田 明夫先生は、以下のようにお答えになっています。
髄膜腫は、脳の表面にできる腫瘍、いわゆるおできです。腫瘍といっても良性で、がんとは異なります。

腫瘍の成長の速度もゆっくりで、周囲の組織にしみこんでいったり、転移したりすることはめったにありません。長い間、ほとんど大きくならないこともあります。

自覚症状がなければ、定期的に磁気共鳴画像(MRI)検査などを受けながら様子を見ていけばいいと思います。

ただ、中には腫瘍が大きくなって脳の圧迫が強くなったり、脳の表面の膜を壊して腫れたりすることがあります。そうした場合は、治療が必要になります。

脳腫瘍とは頭蓋内に発生する新生物の総称であり、原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍に大別されます。上記のような原発性脳腫瘍は、年間10万人当たり約10人程度発生するといわれています。男女差はなく、発症年齢は 5〜15歳と40〜50歳の2つのピークをもつといわれ、欧米に比較して日本では松果体の未分化胚細胞腫が多いといわれています。

脳実質由来の神経膠腫、脳を包む髄膜から発生する髄膜腫、脳神経鞘から発生する神経鞘腫、脳下垂体前葉から発生する下垂体腺腫で原発性脳腫瘍の80%を占めます。そのほかに頭蓋咽頭腫、胚腫・胚細胞性腫瘍などは本邦に比較的多いです。近年では、悪性リンパ腫も増加傾向にあります。

髄膜腫は、中枢神経を被う硬膜に付着して発生する、くも膜細胞由来の腫瘍です。そのため、くも膜顆粒のある所に発生しやすいです。具体的には、脳室内や、稀に頭蓋外にも発生します。髄膜腫は発生部位により頭蓋骨円蓋部、頭蓋底部、脊髄腔の各部位の名称で分類されます。

中年以降の女性に多く、症状としては痙攣、徐々に出現する片麻痺や脳神経麻痺、認知症などで発症します。硬膜に付着して発育し、脳の圧排症状を呈します。テント上が9割を占め、大脳円蓋部は焦点発作や不全麻痺を起こし、傍矢状部は下肢の片麻痺を生じる可能性があります。

診断では、頭部CTやMRIなどが有用です。単純CTでは境界鮮明な軽度高吸収域を示し、造影CTで比較的均一に造影されます。MRIではT1、T2ともやや延長する傾向にあり、Gd増強T1強調画像で著明に増強されます。付着部の硬膜も増強されることがあり、髄膜腫に特徴的とされます。

治療としては、以下のようなものがあります。
治療は、手術で腫瘍を取り除いたり、腫瘍のある位置に「ガンマナイフ」という特殊な放射線を当て、腫瘍を小さくしたりします。

腫瘍の大きさが3センチ未満であれば、手術または「ガンマナイフ」による治療を行い、3センチ以上の場合は、手術で腫瘍を摘出します。

通常は比較的安全に摘出できますが、腫瘍の近くに神経や血管があるなど、手術がとても難しい場合もあります。手術で腫瘍をすべて取るのが難しい場合は、取れるところまで取り、後はガンマナイフを当てるなどの方法で、安全に治療が行えます。

髄膜腫とは一生付き合っていく必要があります。手術すべきかどうかを相談したり、治療後もしっかり診てもらったりすることを考え、髄膜腫に詳しい信頼できる脳外科医のいる医療機関を受診しましょう。

髄膜腫ではその発生部位や大きさにより手術の難易度が異なりますが、基本的には良性腫瘍であり5年生存率は90%以上となっています。

髄膜腫などの良性腫瘍の多くは、顕微鏡下手術による全摘出により治癒が期待できますが、発生部位や大きさによっては手術により重篤な神経症状をきたす場合もあり、定位的放射線治療(ガンマナイフ)などの治療オプションも考えられます。

上記で触れられているγナイフなども、治療選択として重要です。γナイフにより病変部に限局して大量の放射線を照射することが可能であり、髄膜腫にも有用です。

原理としては、多数(201個)のコバルト60線源を半球上に配置し、各線源から放射されるビーム(γ線)をコリメートし、半球内の1点(焦点位置)に集中するようにした照射装置のことです。

焦点位置と病巣位置を合致させることにより、線量集中性のきわめて高い放射線治療が可能となります。本装置を用いると、頭蓋内の病巣に1回で大線量を照射して、病巣を破壊することができます。

現在のところ、症状もみられておらず、定期的なMRIによる検査で経過観察を行うのも良いのではないか、と考えられます。ご心配ならば、セカンドオピニオンを求められることも手ではないかと考えられます。

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