東京近郊に住むW・Sさん(61)は、2007年02月、東京マラソンを走っていた最中に、突然めまいに襲われ、意識を失ってしまいました。この時、彼の心臓は痙攣を起こし、心肺停止とほぼ同じ状態。

生死は時間との戦いで、できれば5分以内、遅くとも9分以内にAEDで電気ショックを与えなければ絶命という危機に陥りました。その時、最悪の事態を回避してくれたのは、周囲にいた人々のとっさの行動でした。

心停止とは、「心臓リズムの異常が原因で心臓から全身に血液を送り出す機能がなくなった状態」と定義されます。結果、心停止により全身の臓器が虚血になりますが、脳は虚血に最も弱く3分程度で不可逆的な変化をきたしてしまいます。そのため、蘇生までの時間が重要となるわけです。

心停止は心臓虚血、全身状態の悪化、ショック、心不全、薬剤の副作用などで起こりえますが、心機能の低下に伴って起こることが多いです。

心室細動は、こうした病態に合併して起こることが多いですが、時に全身状態が良好な場合でも突然発症することがあります。たとえば、不整脈に伴って起こるもので、心停止の原因不整脈としては、心室停止(補充調律を伴わない洞停止および房室ブロックなど)と心室細動があります。

また、心停止と一口に言っても、心電図所見から
/桓失抛(VF:ventricular fibrillation)
¬橘性心室頻拍(Pulseless VT:pulseless ventricular tachycardia)
L橘性電気活動(PEA:pulseless electrical activity)
た汗纏(Asystole)

に分類されます。

上記のようにAED(自動体外式除細動器)が大きな効力を発揮するのは、心室細動や無脈性心室頻拍など場合です。これらは、早期の心肺蘇生法および早期除細動が行われれば、約74%もの蘇生率が見込まれます。

心室細動(VF)は、上記の通り致死的不整脈の一つで、心臓性突然死の主な直接原因となります。心室の各部分に、無秩序な電気的興奮が起こります。そのため、心電図上で特徴的な、不規則な波形を示します(QRS波とT波は識別不能)。

心臓は、全身に血液を送り出すポンプの働きをしており、ポンプを動かしているのが電気刺激です。心室細動では、この電気刺激が上手く伝われない結果、心臓からの血液が上手く拍出することができないため、脳血流量が途絶してしまいます。脳血流量が途絶すると、3〜5秒間でめまい、5〜15秒間で意識消失が出現し、3〜4分持続すると、脳の不可逆的変化が生じ、死に至ってしまうといわれています。

そのため、心室細動と考えられる患者さんが発見されたら、直ちに救急処置を施行しなければなりません。心肺蘇生を行ったり、除細動、後療法の3段階での処置が必要です。

W・Sさんのケースでは、以下のような流れで救命措置が行われたそうです。
午後2時52分、突然倒れたW・Sさんの異変に気付き、すぐさま後続のランナーが駆け寄ります。男性は、消防署で働く現役の救急救命士。口をパクパク動かしているW・Sさんの様子を見た彼は、それが呼吸ではないと判定。周囲の人にAEDと救急車を要請し、すぐさま人工呼吸と胸骨圧迫、いわゆる心臓マッサージを始めたのです。

心停止を起こしていると考えられる患者さんの場合、直ちに心肺蘇生を開始し、除細動器/AED(automated external defibrillator)が到着し次第、心室細動(VF)/無脈性心室頻拍(Pulseless VT:pulseless ventricular tachycardia)か、そうでないかをを判断します。

1分後、近くにいた救護スタッフが、AEDを持って到着すると、ただちに装着にとりかかります。さらに1分後、ゴール付近にいた別の救護スタッフも駆けつけました。こうして、総勢10名でAED、人工呼吸、胸骨圧迫を分担し、救護にあたりました。

AEDは、W・Sさんの心電図を瞬時に解析。「電気ショックが必要です」という指示を出しました、時刻は午後2時58分。救急救命士が、電気ショックを与えると、W・Sさんの細かい震えが無くなりました。心臓のけいれん、心室細動が、なんとか治まったのです。その7分後、救急車が到着し救命救急センターへと運ばれました。

心室細動(VF)/無脈性心室頻拍(Pulseless VT)の場合、直ちに除細動を行います。除細動を行った後は、直ちに胸骨圧迫心臓マッサージを再開し、以後、心肺蘇生を継続しながら波形の診断を行っていきます。除細動抵抗性のVF/VTの場合は、抗不整脈薬アドレナリンの投与を考慮しますが、心臓マッサージが優先されます。

こうした場面で役に立つのがAEDです。自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillator)とは、心臓の心室細動の際に電気ショックを与え(電気的除細動)、心臓の働きを戻すことを試みる医療機器です。

心電図波形の自動解析機能を有している除細動器で、除細動の要否を自動的に判定し、「除細動が必要」あるいは「除細動の必要なし」のアドバイスを音声と液晶ディスプレイにより知らせてくれ、次に必要な手順も指示してくれます。使用者は、指示に従って除細動器のスイッチボタンを押します。

ちなみに、"正常な拍動をしている""心臓・完全に停止している""心房細動を起こしている"心臓に対しては、AEDの診断機能が「除細動の必要なし」の診断を下し、通電は行われません。

W・Sさんが九死に一生を得たのは、速やかなAEDの装着。しかし、大きなポイントが実はもう一つありました。それが「胸骨圧迫」です。

心肺停止の状態が危険なのは、脳に酸素がいかなくなること。脳細胞は酸欠に弱く、5分程度で細胞の壊死が始まります。それを防ぐには、ポンプの役割を果たせなくなった心臓を、外部から押し、脳への血流を途絶えさせないこと。つまり、胸骨圧迫は、脳へ血液を送る作業なのです。

心臓マッサージとは、拍動が停止した心臓を体外もしくは直接圧迫することにより血液を駆出し、脳、その他の臓器の血液循環を維持する方法です。心拍出量は、正常の1/4〜1/3得られるといわれています。心肺停止患者あるいは、頸動脈にて脈を触知しない傷病者が対象となります。

具体的な方法としては、患者の胸部側方に位置し胸骨体下部(剣状突起というみぞおちの辺りの突起部分の2横指上)に両手掌を重ねて置き、胸骨が3.5〜5cm下がるほどに圧迫し、その後に解放します。胸骨圧迫位置の目安は、「胸部の真ん中で、胸骨1/2下半分」もしくは、「左右の乳頭を結ぶ線が胸骨と交わる点」となっています。

圧迫と解放の時間はほぼ同等とし、成人の場合毎分100回繰り返します。患者の背部は、板のような堅いものであることが望ましいです。

乳児では、術者の片手の2本指で胸骨部を毎分100回、胸の厚さのおおよそ1/3窪むまで圧迫します。8歳以下の小児では、術者の片手の手掌基部で胸骨下半分の部位を、毎分100回の速さで胸の厚さのおおよそ1/3窪むまで圧迫します。

いざ、というときのため、こうし知識をしっかりと覚えておき、機会があれば講習会などに参加していただけると、ご家族や友人たちを助ける出たてになると考えられます。

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