以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で扱われていた内容です。

主婦のK・Yさん(42)は、サラリーマンの夫、中学生の長女、小学生の長男の4人家族。几帳面で綺麗好きな彼女は、毎日きちんと掃除をし、バスマットやシーツも頻繁に変えていました。

ですが、ある日、右膝に虫刺されのような赤い点が出来ていました。痛みもかゆみもなかったため、虫刺され用の軟膏を塗って対処することにしたK・Yさん。しかし、その後も炎症は拡大していったのです。

K・Yさんには、以下のような症状がみられていました。
1)虫刺されのような赤い点
右膝に発赤のみられる皮疹がみられており、K・Yさんは虫刺されだろう、と判断しました。そのため、市販の塗り薬で対処することにしました。

2)炎症が拡大し、ジュクジュクする
ところが、滲出物がスカートを汚し、炎症が拡大していることに気づきました。ですが、それでも市販の虫刺され用の塗り薬を塗り、ガーゼを当てることで対処することにしました。

3)炎症がウズラの卵大になる
そうした治療をおこなっているのにも関わらず、炎症はさらに拡大し、ウズラの卵大になってしまいました。
こうした症状がみられていたK・Yさんは、ようやく皮膚科を受診しました。そこで、皮疹部分の生検・検鏡にて、トリコフィトン・トンズランス症と診断されました。

トリコフィトン・トンズランス症は、白癬の一種です。白癬とは、皮膚糸状菌(dermatophyte)による皮膚・皮膚附属器への感染症のことを指します。白癬は表在性、深在性白癬に分類されます。

表在性白癬は、菌が角層、毛、爪に寄生し、その部位から頭部白癬、体部白癬、股部白癬(いわゆる、いんきんたむし)、手白癬、足白癬(いわゆる水虫)、爪白癬に分類されます。

一方、深在性白癬は、真皮、皮下組織に白癬菌が寄生・増殖するもので、白癬性肉芽腫がありますが、ケルスス禿瘡、白癬性毛瘡、生毛部深在性白癬などもいわゆる深在性白癬と考えられています。

上記のようなケースでは、トリコフィトン・トンズランス(Trichophyton tonsurans)症による表在性白癬(体部白癬)であり、その感染により右下肢に発赤を伴った皮疹が出現していました。国内でもすでに3万人が、この菌に感染していると考えられています。
 
トリコフィトン・トンズランス(Trichophyton tonsurans)の感染ルートをまとめた研究結果によると、もともと南ヨーロッパにいた菌が中世になって南米へと伝来。20世紀、交通機関の発達と共に、北米、オーストラリア、アジアへと急激に感染域を拡大。日本では2001年に確認されました。

トリコフィトン・トンズランス(Trichophyton tonsurans)による白癬の特徴として、以下の2点があるといわれています。
一つ目は、足以外の特に上半身に感染することが多いといわれています。そのため、水虫とは思わず、見逃してしまうケースもあります。中でも厄介なのは、頭部に感染した場合です。痒みもないため、気付きにくく、悪化の一途をたどることになることもあります。10代の若さで頭頂部が禿げ上がるような事態を招くこともあります。

二つ目の特徴は、非常に感染力が強いということです。事実、通常の白癬菌に比べ、角質への侵入速度が倍近く速いという研究結果が発表されています。
 
ではK・Yさんの場合、いったいどこで、感染したというのでしょうか?実はトリコフィトン・トンズランス(Trichophyton tonsurans)は、接触によって人から人へ感染するケースがほとんどで、レスリングや柔道など、強く身体が接触する格闘技の世界的な普及と深く関わっているのです。

数日後、柔道を習っていた息子さんを伴って皮膚科を訪ねたK・Yさん。診察で髪の生え際近くに赤い炎症が見つかり、頭皮にまで感染が拡がっていることが判明しました。彼女の場合、度重なる息子さんとの接触、とりわけ、あの膝枕で患部と足が接触したことで、感染したと考えられるのです。

さらに、その後行なわれた追跡調査によって、息子さんへの感染ルートもほぼ解明されました。息子さんは、少年柔道のコーチをしていた高校生の腕から感染したと考えられます。そして、その高校生は、遠征先の韓国で感染した可能性が大きいという結論が出ました。

トリコフィトン・トンズランス(Trichophyton tonsurans)に限らず、白癬の確定診断は病的材料中に、苛性カリ法にて菌の証明が必要となります。病巣部の毛、水疱蓋、爪などにおいて、直接鏡検で陽性所見を得ます。また、培養(サブローブドウ糖寒天培地にて)では皮膚糸状菌の増生を確認します。

分離菌はTrichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytesが大部分を占めていますが、頭部白癬では最近、上記のようなTrichophyton tonsuransの流行が報告されています。

白癬の治療では、はじめに外用療法か、あるいは全身療法の適応について決定する必要があります。

上記のような表在性白癬では、一般に外用療法が主体となります。全身療法の絶対適応は、深在性白癬でありますが、ほかに爪白癬、白癬性毛瘡、角質増殖型足白癬、頭部白癬も全身療法の適応となります(毛,爪への寄生がみられるものや、角質増殖型の白癬には経口抗真菌薬の内服)。

足白癬(角質増殖型を除く)、体部白癬、股部白癬では外用療法を行います。外用療法では、軟膏、クリーム、液剤があります。

外用療法は、通常4週間で治癒に至りますが、症状に応じて適宜延長します。また、治癒後数ヶ月間塗布すると再発率が低下するという報告もあります。病巣を含めて、広範囲に外用することが重要です。メンタックスクリームやゼフナートクリームなどの抗真菌薬を用います。

爪白癬、角質増殖型手・足白癬,頭部白癬では内服療法の適応となり、爪白癬は4〜6ヶ月、頭部白癬および角質増殖型手・足白癬は2〜3ヶ月連日内服を行います。

イトリゾール、ラミシールを内服しますが、これらは肝機能に障害をもたらす可能性もあるため、血液検査で定期的に調べる必要があります。

病院で塗り薬を処方されたK・Yさんは、3週間後には完治することが出来ました。同様の皮疹がみられている方は、皮膚科受診を行うことが望まれます。

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