読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
約6年前からパーキンソン病です。手足の震えはありませんが、下肢の鈍痛としびれ、全身がバネのように反動する症状に困っています。(69歳女性)

この相談に対して、順天堂越谷病院院長である水野美邦先生は、以下のようにお答えになっています。
パーキンソン病は、脳内で神経伝達物質のドーパミンが極端に不足することで、手足がふるえたり、動作がのろくなったり、または筋肉が固くなったりする進行性の神経難病です。

薬を長く飲んでいると手足が勝手に動いてしまうことがありますが、質問者がおっしゃるような「全身がバネのように反動する症状」が、それにあたるかどうかは診察してみないとわかりません。

また、パーキンソン病でも手足に痛みがでることはありますが、その場合は、歩かなくても早朝や午後の薬の切れた時に痛んできて、脳内でドーパミンになる治療薬を飲むと消えるというのが特徴です。

パーキンソン病とは


パーキンソン病は、初老期に好発し、錐体外路系(自然に体のバランスをとるといった、人間が無意識に行っている運動を司っている)の障害を示す疾患です。病理学的には、中脳の黒質緻密層のドパミンニューロンが選択的に変性・脱落し、残存神経細胞にLewy(レビィ)小体が出現します。

パーキンソン病の症状としては、以下の4つが有名です。
安静時振戦
4〜6Hzの規則的なふるえで、パーキンソン病患者の約70%にみられます。振戦は安静時に観察されるのが特徴で、随意動作では抑制されます(動作中は抑制され,しばらく同じ姿勢を保っていると振戦が再現する)。

手の振戦の場合、筋緊張に伴う手の姿勢(中手・指基節関節の屈曲と指節間関節の伸展)がもともとあると、振戦が指で丸薬をまるめるような動きにみえます(pill rolling tremorと呼ばれる)。

パーキンソン病の初期段階では、震えは安静時のみに起こりますが、何か作業を始めると震えは止まってしまいます。そのため、大したことはないと放って置く人が多いと考えられます。また、震えのため、書字困難もみられます。

筋強剛
他動的に患者の関節を伸展・屈曲して、筋を伸張するときに反射として生じる抵抗で、歯車様固縮(「ガクガクガク」と細かい断続的な抵抗として感じる)の場合が多いです。

無動
動作の開始に時間がかかったり、開始した動作の速度が遅い現象をいいます。運動麻痺がないのに速い動作ができなかったり、指先の細かな動作の困難、交互反復動作の運動範囲が狭いほうに収れんしたり途中で止まってしまうことがあります。仮面様顔貌や小声、小書字も無動の一つです。そのほか、ボタン掛け、洗面、衣着脱などあらゆる日常生活動作が遅くなります。

姿勢保持反射障害
立位の姿勢は前屈位となり、歩幅も小さくなります(小股歩行)。歩き出すと途中から歩調が速くなり、小走りになったり、前方や後方に軽く押されただけで、体勢を立て直せずに突進したり、倒れてしまいます。

さらに、自律神経症状(便秘、立ちくらみ、排尿障害)や精神症状(うつ状態、痴呆など)も加わる場合があります。

こうした臨床症状の重症度を簡便に表現する尺度として、Hoehn-Yahr重症度があります。パーキンソニズムの症状が一側にとどまる状態をI度、両側性となった状態をII度、さらに症状が進行し姿勢反射障害(突進現象など)が加わった状態をIII度、さらに症状が進行し日常生活に部分介助が必要な状態をIV度、日常生活すべてに介助が必要な状態をV度と記載します。

本症の症状(下肢鈍痛)との関連

質問者のように、歩き始めると下肢に痛みや、しびれが出るというのは、何らかの合併症があると考えられます。具体的には、以下のようなことが考えられます。
例えば、脊髄や神経が通る背骨の脊柱管が加齢とともに変形し、狭くなる「腰部脊柱管狭窄症」や、背骨の間でクッションの役割を果たす椎間板の一部が脊柱管内にせり出す「椎間板ヘルニア」などです。整形外科でこれらの異常の有無が分かります。

いずれにしても、質問者の症状は、パーキンソン病そのものか、治療の副作用によるものとしては、やや典型的でないように思われます。お住まいの近くにいるパーキンソン病治療の専門家は、「全国パーキンソン病友の会」((電)03・5318・3075)で紹介してもらえますので、診断自体が正しいのかなどを改めてきちんと診てもらってください。

腰部脊柱管狭窄症とは

脊柱管狭窄症とは、脊柱管または神経根管が先天性あるいは発育性に狭小化したり,後天性に狭小化した際に生じる症状の総称を指します。上記のケースでは、間欠性跛行などがみられており、腰部脊柱管狭窄症であると考えられます。

腰部脊柱管狭窄症とは、神経組織を入れる腰部脊柱管あるいは椎間孔部がさまざまな原因によって狭窄を来し、馬尾(脊髄の下端から伸びている神経の束は、馬の尻尾に似ているので、こう呼ばれます)や脊髄神経根が圧迫されることによって発症する症候群です。

大きく分けて、馬尾型、神経根型、混合型などに分類されます。

「馬尾型」は脊柱管正中部の狭窄により馬尾が圧迫されて起こり、馬尾性間欠跛行、両下肢・殿部・会陰部のしびれや灼熱感、下肢脱力感、膀胱直腸障害をきたします。「神経根型」では椎間孔内外において神経根が圧迫され、神経根性間欠跛行、下肢への放散痛(多くは片側)をきたします。「混合型」は馬尾型、神経根型の症状が混在したものです。

腰部脊柱管狭窄症の症状としては、間欠性跛行が最も頻度が高いといわれています。これは、少し歩くと脚が痛くて歩けなくなり、少し休むと歩けるようになる、という現象です。ですが、自転車なら長時間漕いでいられる、というのがこの疾患の特徴でもあります。両下肢に症状が観察され,膀胱直腸症状(失禁など)が観察される場合は、馬尾の障害が考えられます。

診断としては、画像検査では単純X線写真、機能撮影以外にMRI、CTが診断に有用であるといわれています。確定診断としては、神経学的所見(どこの筋力が低下しているとか、知覚障害が起こっているとか)と、画像所見とが一致するか否かが重要であるといわれています。

まず、しっかりと検査をした上で診断を行い、治療を行うことが得策であると考えられます。整形外科を受診してみてはいかがでしょうか。

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