読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
膵臓に膵管内乳頭粘液性腫瘍があります。大きさは28ミリです。30ミリ以上になるとがん化の危険が高まると言われたのですが、手術する必要はありますか。(54歳男性)

この相談に対し、九州大病院第1外科(臨床・腫瘍外科)教授である田中雅夫先生は、以下のようにお答えになっています。
膵臓では、消化酵素を含んだ「膵液」という消化液が作られています。それを十二指腸に運ぶ管を「膵管」と言い、太い「主膵管」とそこから枝分かれしている「分枝膵管」があります。

膵管内乳頭粘液性腫瘍は、膵管の細胞が腫瘍細胞に変わる病気です。

腫瘍細胞は、とろりとした粘液を作り出し、入道雲のように乳頭状に増殖していきます。分枝膵管で増殖すると、ぶどうの実のような形に膨らんでいきます。

主膵管が腫瘍細胞に変わる「主膵管型」は初めから悪性のことが多いのに対し、分枝膵管が腫瘍細胞に変わる「分枝型」は、良性であることが多いです。質問者は分枝型と思われます。

ただ、分枝型も次第にがん化していき、膵臓以外の臓器にも転移するようになるという特徴があるため、注意が必要です。〈1〉腫瘍の内部に大きなこぶができた〈2〉腫瘍の一番大きいところが30ミリを超えた〈3〉主膵管が拡張してきた〈4〉おなかや背中が痛いという症状が表れてきた――場合などはその可能性が高くなります。


膵管内乳頭粘液性腫瘍とは


膵臓は膵液を産生する腺房、膵液を運ぶ膵管、および内分泌腺であるランゲルハンス島などからなります。

上記の膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm; IPMN)は、膵管にに発生する腫瘍であり、大量の粘液産生とそれによるVater乳頭部の開大および主膵管拡張、良好な予後などが特徴として挙げられます。

男女比は2:1と男性に多く、平均年齢は男女ともに約65歳と高齢者に多く認められます。好発部位は膵頭部です。

膵管内乳頭粘液性腫瘍は、主膵管の拡張を主体とする主膵管型、膵管分枝の拡張を主体とする分枝型に大別されます。上記の通り、分枝型に比較して、主膵管型に悪性のものが多いです。主膵管型に膵実質や他臓器への浸潤が多くみられるのに対し、分枝型では上皮内癌in situ carcinomaや腺腫adenoma、過形成が高率に認められます。

膵管内乳頭粘液性腫瘍の診断


主要症状は、上腹部痛、体重減少、易疲労感などがありますが、症状のないものも比較的高頻度に認められます。黄疸、糖尿病、急性膵炎がみられることもあります。

血液生化学的検査では特異的なものはなく、急性膵炎を随伴すればそれに関係した膵酵素が上昇します。血清腫瘍マーカーのCEAやCA19-9は過形成、腺腫、境界病変では正常のことが多いですが、悪性では50〜80%の症例で上昇します。

画像診断では、主膵管や膵管分枝の拡張や膵管内の隆起性病変、その周囲の変化について検索します。腹部超音波検査は、スクリーニングとして診断の第1の手がかりとなります。CTは膵全体を検索することができます。

ERCPでは、膵管の拡張や膵管内の粘液塊、隆起性病変が明らかになります。また、膵液を採取しその中の細胞診やCEA、CA19-9などの腫瘍マーカーの測定、K-ras点突然変異などを検索することで診断が可能となります。

ERCPの代わりにMRCPも非侵襲性の画像診断の手段としてその有用性が認められ始めています。膵管鏡によって膵管内乳頭状増生がイクラ状腫瘍として認められます。また、内視鏡超音波検査(EUS)や膵管内超音波検査(IDUS)も隆起性病変や浸潤の有無などの診断に有用です。

膵管内乳頭粘液性腫瘍の治療

膵管内乳頭粘液性腫瘍の治療としては、以下のようなものがあります。
28ミリという大きさは要注意です。慌てる必要はありませんが、がんが疑われるのであれば、手術を考えた方がいいと思います。万が一、がん化していたとしても、周囲の組織にしみこんでいなければ大丈夫です。

膵臓がんに詳しい専門医を受診し、少なくとも半年に1回はCT(コンピューター断層撮影)検査などで、がん化の兆候がないかどうかを調べることが大切です。

手術適応は、主膵管型であること、分枝型で結節隆起径数mm以上、または拡張分枝径30mm以上または主膵管径6〜7mm以上であると考えられています。また、膵内・膵外浸潤が明らかなものや瘻孔を形成したものも手術適応です。

手術術式では、定型的な膵頭十二指腸切除術や幽門輪温存膵頭十二指腸切除、膵体尾部脾切除術、嚢胞核出術などのほかに、各種の縮小手術(機能温存手術)が試みられています。

膵分節切除術、膵鉤部切除術、十二指腸温存膵頭切除術、脾動静脈を温存した脾温存膵体尾部切除術などがあり、症例に合わせて最も適切な手術を選択します。

まずは専門医を受診し、しっかりと検査を行い、治療をするかどうか話をすることが重要であると思われます。その後も、フォローアップを行うことが望まれます。

【関連記事】
この40年で10倍に増えた膵臓ガン

余命6ヶ月の胆嚢癌と診断された61歳男性、2年後に膿瘍と判明