アルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」を製造販売する製薬大手のエーザイ。同社の2009年3月期決算によると、連結売上高は7817億4300万円で、このうちアリセプトの売上高は約3038億円。全体の4割近くを占める稼ぎ頭だ。同社は7月に、日本での内服ゼリー剤の承認を取得しており、今後、アリセプトの剤形の選択肢が広がることになる。

アリセプトは、神経伝達物質である脳内のアセチルコリンの濃度を高める作用を持ち、認知症患者の中核症状進行を抑制することができる。1996年11月にFDA(米食品医薬品局)から承認を受け、翌年米国で発売された。同じ年、英国でも発売され、日本では99年10月に承認を受け、同年11月に発売された。日本では唯一のアルツハイマー型認知症治療薬であり、同様の薬剤が複数承認されている米国や欧州全体でも、トップシェアを誇っている。
 
現在、錠剤、細粒剤、口腔内崩壊錠が発売されている。販売ベースで約65%を口腔内崩壊錠が占めている。

同社は7月22日、アリセプトの新たな剤形となる内服ゼリー剤の製造販売承認を日本で取得したと発表した。程よい甘さのあるはちみつレモン風味。ある程度の硬さと粘性はあるが、服用しやすいように舌でつぶすことができ、水なしで服用が可能だという。
 
このゼリー剤を開発するきっかけとなったのが、開発担当者が介護施設を訪問したことだ。嚥下障害を持ち、水を飲むことが困難な人がゼリーを摂取していた。その様子を目の当たりにした担当者は、ゼリータイプの製剤であれば、嚥下障害を持つ人でも服薬が可能なのではないかと考え、開発を行ったという。

同社PR部では、「すべてゼリー剤にするということではなく、主力は口腔内崩壊錠であり、あくまでも新たな選択肢の一つ。ゼリー剤を含めた4種類の選択肢の中から医療者、介護者、患者が最適な剤形を選ぶことにより、今まで薬物治療ができなかった人にも治療を受けてもらえるようになるのではないか」と期待を寄せている。

また、発売の時期については未定としながらも、年内の薬価収載を期待しており、そのタイミングで発売したいという。
(エーザイ、ゼリー剤承認取得で「アリセプト」充実へ)

アルツハイマー病とは


アルツハイマー病とは、初老期〜老年期に認知症を生じる、代表的な変性疾患です。簡単に言ってしまえば、何らかの原因によって大脳皮質の神経細胞が少しずつ死滅し、脳が萎縮、記憶や意欲など生きるために必要な能力が徐々に失われていく疾患です。

記銘力障害、失見当識で発症し、中期には失認・失行のため、日常生活に支障をきたします。ほかにも、物盗られ妄想や徘徊、不眠などの周辺症状のため、介護負担が大きいことも問題となります。

日本では、65歳以上での認知症の約半数がアルツハイマー型認知症とされています。一般には、65歳以上の高齢者に多い病気ですが、40歳から50歳という働き盛りで発症してしまうこともあります。これは「若年性アルツハイマー病」と呼ばれ、通常より進行が早いのが特徴です。

神経病理学的特徴としては、老人斑、神経原線維変化、神経細胞脱落などがあります。沈着するβ蛋白が発症に大きく関わっているといわれています。アミロイド前駆体蛋白(APP)から切り出されたβ蛋白が、神経細胞障害を起こし、神経細胞死や神経原線維変化が生ずる、と考えられています。

ほとんどが孤発性(遺伝性がない)のアルツハイマー病ですが、家族性アルツハイマー病では、APP遺伝子やプレセニリン1遺伝子、プレセニリン2遺伝子の異常などが認められます。

アルツハイマー病の診断


アルツハイマー病の症状としては、以下のような3期に分けられます。
第1期(初期):進行性の記憶障害、失見当識、失語・失行・失認、視空間失見当がみられ、被害妄想、心気-抑うつ状態、興奮、徘徊などを伴うことがある。

第2期(中期):中等度から高度認知症の状態。言語了解・表現能力の障害が高度となり、ゲルストマン症候群(計算ができなくなったり、字を書けなくなったり、今まで出来たことができなくなる)、着衣失行・構成失行、空間失見当などがみられる。

第3期(末期):精神機能は高度荒廃状態となる。言語間代(言葉の終わりの部分,または中間の音節部を痙攣様に何回もくり返すような発語障害)、小刻み歩行、パーキンソン様姿勢異常、痙攣発作などが出現する。
このような症状が現れてきます。大まかに分けて、認知機能障害(中核症状)に対するものと、非認知機能障害(周辺症状)に対するものに分けられます。

水道からバケツに水を入れていつまでも水を庭にまくといった反復行為も出現がみられます。性格変化が現れ、多動でまとまりのない行動異常が認められます。不用な空箱や紙くずをため込むような異常な収集癖を示す例も多いです。

診断は、DSM-IVによるAlzheimer型老年認知症の診断基準などがあり、そうした基準をもとに診断していきます。

慢性進行性の認知機能の障害が診断のポイントとなりますが、まず慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、脳炎、正常圧水頭症など治療可能な認知症を除外診断します。また、高齢者のうつ病や、せん妄に代表される軽度の意識障害で認知機能の障害を呈することがあり、これらとの鑑別も重要です。

CTスキャン、MRIで脳の萎縮が認められます。脳波はびまん性の徐波化を示します。PETでは頭頂葉の血流・代謝異常が特徴的です。ですが、いずれも確定診断の補助になるほどの特異的変化ではありません。

アルツハイマー病の治療


アルツハイマー病の治療は、以下の通りです。
治療としては、認知機能の障害を改善する薬物としてアセチルコリンエステラーゼ阻害薬とグルタミン酸拮抗薬があります。現在、日本で治療薬として認可されているものは前者の塩酸ドネペジル(商品名:アリセプト)があります。消化器症状などの副作用が起こる可能性もあり、まずは3mgの錠剤から初めて、1〜2週間過ごして、副作用がなければ5mgに増量します。

周辺症状の治療としては、アルツハイマー病の周辺症状に対する保険適用が認められている抗精神病薬は現在のところありません。そのため、症状に応じて各種の薬剤を適用外使用しているのが現状となっています。

たとえば、幻覚妄想やせん妄、徘徊に対しては抗精神病薬(リスパダールなど)、抑うつに対しては、抗コリン作用の少ない抗うつ薬(トレドミン、パキシルなど)、不眠に対しては、マイスリーなどの半減期の短い睡眠薬などを用います。

こうした薬物療法だけでなく、脳機能を活性化する非薬物療法(現実見当識を明確にするための心理療法であるリアリティーオリエンテーション、回想法、音楽療法、アニマルアシステッドセラピーなど)を行うことも重要です。デイサービスやホームヘルプサービスを利用してご家族など、介護者の負担を軽減することも大切な治療の1つとなります。

アリセプトは、アセチルコリンを分解する酵素であるアセチルChEを可逆的に阻害することにより、脳内アセチルコリン量を増加させ、脳内コリン作動性神経系を賦活する作用があるといわれています。

アルツハイマー型認知症では、コリン作動性神経系の障害により脳内アセチルコリン濃度の減少がみられますが、アリセプトは、アセチルコリンエステラーゼを可逆的に阻害することによって、アセチルコリンの分解を抑制し、その濃度を高めることにより作用を発揮すると考えられています。

軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における、認知症症状の進行抑制に適応となります。ただ、本剤がアルツハイマー型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていません。あくまでも対症療法薬であり、アルツハイマー型認知症の原因を根本から治療する薬剤ではありません。

ただ、唯一の治療薬ということもあり、特に内服の難しいご高齢の方々が、内服しやすい形で発売されることは好ましいのではないか、と考えられます。

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