甲状腺癌との闘病、そして手術を行い復活を遂げたシンガー木山裕策さんについて、以下のような記事が掲載されていました。

感動の歌声と地道な活動が実を結び、2008年末の「第59回 NHK紅白歌合戦」にも初出場を果たした“サラリーマン・パパ・シンガー"木山裕策。彼が今まで語ることのなかった、一生歌を歌おうと決意した背景が自身のブログに投稿された。そこには、木山と彼にとって恩人ともいえる人との運命的な出会いが綴られている。

家庭を持つ4児の父であり、平日はサラリーマンとして出版社に勤務している彼が、甲状腺の悪性腫瘍の克服を期に“夢に挑戦する自分の姿を子供達に見せたい"と、38歳にして日本テレビ系オーディション番組『歌スタ』に挑んだのはこれまで多くのメディアで伝えられているとおり。この番組オーディションの最終審査で一度落選している彼だが、今回の告白は、そのオーディションで木山を落とし、再度の挑戦でデビューさせるという判断を下した“ハンター'sボス"こと伊東宏晃 氏(エイベックス・エンタテインメントの取締役であり、部長としてtearbridge productionを率いる)との運命的な出会いについて、だ。

木山はブログのエントリーで、実はデビュー前の時期に、tearbridge productionの伊東部長が木山と同じ甲状腺がんに冒されていたということを明らかにしており、「この事をきっかけに自分を支えてくれる多胡さんや伊東さん、そしてすべてのスタッフとファンの皆さんのために一生歌を歌い続けようと誓った」と綴っている。

『歌スタ』を通じて木山裕策に出会った伊東部長。「自分と同じ一家の主である木山さんとの出会いをきっかけに病気と向き合うことを決めた」という彼に待っていたのは「悪性腫瘍の甲状腺がん。早急に手術をし、全部摘出しなければ」という、医師からの非情な宣告だった。しかし当時、木山のデビューを控えていたため、伊東部長は「手術をしなければいけない事を伝えてしまうと、スタッフに心配させてしまいプロジェクトが成功しない」と判断。家族にさえも告知を伝えずに木山のデビュー準備を続けていた。

そうして2008年2月6日に発売を迎えたデビューシングル「home」は初登場オリコン最高位7位を記録。新人では快挙ともいえる結果を見届けた後、伊東部長は木山裕策と、「home」を作曲したプロデューサーの多胡邦夫に自身も甲状腺がんであることを初めて告げたのだ。手術を行なう3日前の出来事である。

すべての見舞いを断っていた手術前日。伊東の病室に、会社帰りの木山が「心配ないですよ。僕もこうして元気ですから。病気に関しては僕が先輩ですしね」と訪れた。そして面会を終えて木山が帰った後、今度は見舞いの時間を過ぎてから多胡邦夫が病室を訪れ、「寝る前にこれ見てください」と、伊東部長に包みを手渡した。

多胡が帰り、病室でひとりとなった伊東部長が多胡から渡されたそれを開くと、そこには木山、多胡、そして伊東の3家族の写真とメッセージが添えられた色紙が。デビュー間もない忙しいスケジュールの合間をぬって、3家族の写真を撮影して作られた色紙を見た伊東部長は、その夜は「号泣して眠れなかった」という。
(木山裕策を一生歌い続けると決意させた“ハンター'sボス”の甲状腺がん)

甲状腺癌とは


甲状腺腫瘍は、良性腫瘍と悪性腫瘍とに分かれます。良性腫瘍の大部分が濾胞腺腫です。真の腫瘍ではありませんが、結節状の腫瘤を生じる腺腫様甲状腺腫を、診断ならびに治療上では良性腫瘍に含めて腺腫と一緒に良性結節と呼びます。

甲状腺悪性腫瘍には主な組織型が5つああります。濾胞上皮由来の癌が乳頭癌と濾胞癌ならびに未分化癌であり、傍濾胞上皮細胞(C細胞)由来の癌が髄様癌です。そのほかに甲状腺原発悪性リンパ腫があります。

それぞれの特徴としては、
1)乳頭癌:甲状腺の濾胞上皮由来の悪性腫瘍。主として乳頭状に増殖する。甲状腺癌の90%を占める。
2)濾胞癌:濾胞上皮由来の悪性腫瘍。基本的に濾胞構造をもつが、充実性、索状に増殖するものもある。乳頭癌、濾胞癌は発育が緩慢で、手術の予後も良好である。
3)未分化癌:濾胞上皮由来の悪性腫瘍であるが、細胞異型や構造異型が著しく、増殖傾向がきわめて強い。発育、進展が早く、化学療法、放射線照射などの治療を行っても予後はきわめて不良である。
4)髄様癌:甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)から発生する。カルシトニンを合成分泌する。細胞学的には多彩な像を呈する。髄様癌の症例の約40%は常染色体性優勢遺伝により家族性に発生する。

このようになっております。

大部分の甲状腺腫瘍では病因は不明です。一部では放射線被曝と遺伝要因とが関与しているといわれています。放射線被曝では、特に幼小児期に頭頸部あるいは上胸部に放射線外照射治療を受けると数年ないし10年以上の潜伏期を経て比較的高率に甲状腺腫瘍が発生することが知られています。

遺伝要因としてもっとも明らかなのは、多発性内分泌腫瘍multiple endocrine neoplasia(MEN)2A型と2B型の部分症として発生する髄様癌です。この疾患は、第10番染色体に存在するRETプロト癌遺伝子の点突然変異が原因であり、常染色体優性遺伝をします。

日本での甲状腺腫瘍および腺腫様甲状腺腫は、有病率が比較的高い。良性結節の有病率は1,000人当たり10人です。男女比は1:5であり、好発年齢は30〜50歳となっています。甲状腺癌の有病率は1,000人に1人の割合です。

甲状腺癌の診断


患者の大部分は、頸部腫瘤以外には症状がほとんどありません。しかも、患者自身やその身の回りの家族などが甲状腺腫瘤に気づくのは、直径3 cm以上の大きさのものです。それより小さい腫瘤は、別の疾患で受診したとき、あるいは健康検査のときに医師により発見されるのが大部分です。

一部の患者さんは、腫瘍による圧迫や浸潤性増殖あるいは転移から生じる症状を訴えます。進行癌では反回神経麻痺の症状(嗄声と誤嚥)あるいは気管や食道への浸潤による症状(呼吸困難、喀血、嚥下障害)をときどき認める。腫瘤が数週から数か月の短期間に急性腫大して、さらに浸潤による症状を伴うときには未分化癌または低分化癌あるいは悪性リンパ腫を考えます。ただ、内出血などで急に腫大した良性結節や亜急性甲状腺炎も圧迫感や痛み・圧痛を生じるので鑑別が問題になります。

また、一部の悪性腫瘍患者では、頸部リンパ節転移(大部分が乳頭癌)や肺転移(乳頭癌あるいは濾胞癌)、骨転移(大部分が濾胞癌)が先に検出されて、甲状腺の原発巣があとでみつかることがあります。

診断としては、まず触診が基本です。正常の甲状腺は、通常、柔らかいため外から触れないので、その存在位置を確かめて頸部の触診を行います。輪状軟骨が甲状腺の位置を知る目印であり、その5 mm頭側に甲状腺側葉の上極があります。側葉の大きさは、幅2 cm、長さ4 cmくらいです。

触診所見で、可動性のある球形の単発結節は腺腫、同様の多発結節は腺腫様甲状腺腫と考える。表面不平滑で可動のない腫瘤には悪性を疑います。

確定診断のために超音波検査と穿刺吸引細胞診が有用です。超音波検査では腫瘤の内部構造や周囲リンパ節の腫大状況がよくわかり診断の参考になります。細胞診では癌の病理組織型まで診断できることが多く、特に乳頭癌と未分化癌とは正診率が高いといわれています。

進行癌で隣接臓器への浸潤が疑わしいときにはCT検査を行います。未分化癌または悪性リンパ腫と診断がついたときには遠隔転移の診断に67Gaシンチグラムを用います。甲状腺機能亢進症があり、過機能性結節(Plummer病)とBasedow(バセドウ)病とを鑑別するためには、123Iまたは99mTcO4シンチグラムを行います(Plummer病ではhot noduleの所見)。

甲状腺癌の治療


甲状腺癌の治療としては、以下のようなものがあります。
乳頭癌、濾胞癌、髄様癌の診断がつけば手術が第1選択となります。予後が比較的よい癌であるので、反回神経麻痺や副甲状腺機能低下症などの手術合併症を最小限にとどめる手術が重要となります。

切除範囲は、片側に限局し2 cm以下なら葉切除、多発や両側頸部リンパ節転移・遠隔転移などでは全摘とします。全摘後は131I全身シンチグラフィで遠隔転移を検出すれば131I内用療法を行います。全摘または葉切除でもTSHが高値なら甲状腺ホルモン補充療法を行います。

髄様癌の場合、30%は胚細胞性RET遺伝子変異による遺伝型です。遺伝型では副腎の褐色細胞腫の診断・治療を先にし、甲状腺は全摘とします。遺伝子検査による発症前手術も行われています。

未分化癌と悪性リンパ腫は、化学療法(タキソールなど)と放射線療法を第一義的に行い、症例を選んで手術します。未分化癌患者は予後がきわめて悪く、残念ながら90%以上が1年以内に亡くなってしまいます。

ファンの一人として、今後も、お体に気をつけながら是非とも歌手活動を続けていただければ、と思われます。

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