女優の大場久美子さん(49)はこの10年、明るい笑顔で舞台に立ちながらも「パニック障害」に苦しんできた。激しい動悸や息苦しさをともなう発作、買い物や電車の乗車など日常動作にも苦痛を伴う。

こうした症状に悩み、闘病を行っていた様子を、大場さんは「やっと。やっと!―パニック障害からぬけ出せそう…」で語っている。

周囲の理解が必要だが、病の認知度は低い。一歩ずつ病を乗り越えた大場さんは「パニック障害のことをもっと知ってほしい」と語る。

「パニック障害」をご存じですか? ご存じないのも仕方ありません。私が病名を知ったのも、初めて発作が起こってから4年後でした。

初めて発作に見舞われたのは、10年前の平成11年6月。最愛の母の葬儀の翌日でした。大きな存在を失い、自宅でぼんやりしていたら、突然、動悸が激しくなり、呼吸が難しいほど息苦しくなりました。最初は「精神的に参っているのかな」と思いましたが、発作は頻度を増し、その年の夏には日常的に苦しむようになりました。

水を張った洗面器に顔を突っ込まされて、窒息しそうな…そんな息苦しさがあります。発作が起こると10分でピークに達し、治まるまで早くて30分。その間、じっと波が通り過ぎるのを待つ感じです。「このまま死ぬのでは」と思うほどの動悸もあり、最初は「心臓が悪いのかも」と内科を受診したほどでした。

病名が分かったのは4年後(平成15年)。「パニック障害」と医師から聞き、病気の知識もないのに「やっと病名が分かった」と安堵を覚え、帰宅したのを思いだします。

発作以外にも、困難な症状があります。例えばスーパーの買い物で、レジに並ぶのが辛い。後ろに人が並ぶと「どうしよう」と、とたんに落ち着かなくなる。気分が悪くなっても降りられないから電車に乗るにも足がすくみ、シャンプー中に発作が起こったらどうしようと考えただけで、お風呂や美容室で洗髪するのが苦しく感じられました。理解しにくいと思いますが、これもパニック障害の「広場恐怖」という症状です。
(【ゆうゆうLife】病と生きる 女優・大場久美子さん)

パニック発作とは


パニック障害とは、パニック発作が特別の原因なしに、突然出現する(予知できずに起こり、反復性)障害と言うことができると思われます。

パニック発作は、動悸・頻脈、息苦しさ・過呼吸、死の恐怖が最も多く、そのほか悪心、めまい感、手足のしびれ、冷汗、気が狂う恐怖なども起こりえます。大きく分けて、突然の強い不安感(死ぬのではないか、気が狂ってしまうのではないかという恐怖)と自律神経症状(動悸、頻脈、呼吸困難、発汗、息切れ、胸腹部不快など)が起こる、と考えられます。

こうした発作は反復性に生じ、慢性に経過していきます。症状の再発を恐れる「予期不安」を伴うことが多く、さらに発展して広場恐怖に至ることも多いです。

広場恐怖とは、助けが容易に得られない場所にいることへの恐怖です。1人で戸外や混雑の中にいたり、バスや電車で移動しているときに起こることが多いようです。このような状況を回避するため、1人では外出をしなくなったり、重度になると家にこもりっきりになってしまうこともあります。

1回の発作は通常数分〜30分、長くとも1時間以内に自然に消失します。発作が反復するうちに予期不安が形成されます。

一般人口における生涯有病率は、0.9%程度であるといわれ、患者さんの約7割は発作で救急外来を受診しているようです。男女ともに起きますが、女性の罹患率が2倍程度高いといわれます。好発年齢は、20〜40歳であるとのことです。

パニック発作の診断


器質性(身体疾患や薬物の直接的な作用に基づく)不安状態と特異的な「パニック障害」を区別することが重要となります。

器質性疾患には、てんかんなどの神経系発作性疾患、甲状腺機能亢進症・副甲状腺機能亢進症・褐色細胞腫症などの内分泌障害、上室性頻脈・狭心症などの循環系疾患、その他、低血糖、カルチノイド症候群、前庭機能不全などが含まれます。これらを否定することが必要となります。

パニック障害は、特別な状況にも環境的背景にも限定されず、「予期されずに」発現する特発性パニック発作を反復する障害です。発作恐怖、外出・閉所・広場恐怖、全般性不安状態、抑うつ状態、心気状態などを引き起こし、しばしば慢性化していきます。

パニック発作の診断基準(ICD-10)としては、
1.激しい恐怖・不安の明瞭に区別されるエピソード
2.突発的な開始
3.数分のうちに最強となり、少なくとも数分間は持続
4.次の少なくとも4項が存在し、そのうち1項目は(a)から(d)のいずれかであること。
自律神経性の刺激による症状
(a)動悸、または強く脈打つ、あるいは脈が速くなる
(b)発汗
(c)振戦または震え
(d)口渇(薬物や脱水によらないこと)
胸部・腹部に関する症状
(e)呼吸困難感
(f)窒息感
(g)胸部の疼痛や不快感
(h)嘔気や腹部の苦悶(例:胃をかき回される感じ)
精神状態に関する症状
(i)めまい感、フラフラする、気が遠くなる、頭がくらくらする感じ
(j)物事に現実味がない感じ(現実感喪失)、あるいは自分自身が遠く離れて「現実にここにいる感じがしない」(離人症)
(k)自制できなくなる、「気が狂いそうだ」、あるいは気を失うという恐れ
(l)死ぬのではないかという恐怖感
全身的な症状
(m)紅潮または寒気
(n)しびれ感またはチクチクする痛みの感覚
こうしたものがあります。

パニック発作の治療


パニック発作の治療としては、以下のようなものがあります。
治療としては、まず疾患教育を十分に行い、発作そのものに生命の危険はないことを保証する(しっかりと納得してもらう)ことが重要です。それでも不安状態がなかなか治まらない場合は抗不安薬(ジアゼパム)を静注することもあります。こうした発作が出現する時のために、抗不安薬(ワイパックスなど)を持参してもらうことも、安心につながるようです。

他には、薬物療法と精神療法があり、様々な治療が有効性を認められています。薬物療法では、発作の抑制を目的に抗うつ薬(SSRIや三環系抗うつ薬・スルピリド)が用いられ、不安感の軽減を目的にベンゾジアゼピン系抗不安薬が用いられます。精神療法としては、認知行動療法などがあり、

これらの薬物には明確な有効性があり、特に適切な患者教育と指導と併用した場合の有効性は極めて高いといわれています。また最近は、新型抗うつ薬であるSSRIの有効性が語られることが多いです。基本的に、パニック発作が治療されれば、広場恐怖も時間とともに改善されることが多いようです。

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