軽い脳幹梗塞のため入院中の落語家で人間国宝の桂米朝さん(83)が12日、東京都千代田区の日経ホールで開かれた「桂米朝一門会」に登場。約1カ月半ぶりに軽妙なトークを聞かせた。

米朝さんは7月27日に入院。病院でリハビリを続けており、今回は外出許可を取っての出演となった。「よもやま噺(ばなし)」として桂南光さん、米左さんと共に登場した米朝さんは「昔は関西の噺家は言葉が全国区やないからハンディはあるわな。テレビのおかげで関西弁が東京でも通じるようになった」などと思い出を語った。米朝事務所によると、今月いっぱいは入院の予定で、今後の出演は体調をみながら決めるという。
([桂米朝さん]一門会で軽妙なトーク 1カ月半ぶり)

脳梗塞とは


脳梗塞とは、脳動脈閉塞などによる虚血により、脳組織が不可逆的な変化(壊死)を起こした状態を指します。

脳梗塞の発症率は10万人に対して100〜150人、死亡率は10万人に対して約70人であり、救命率もさることながら、患者さんの生活にも大きな影響を与えるため、重要な疾患です。また、脳梗塞は脳卒中全体の約60%を占め、最も頻度の高い病型です。年齢が高くなるほど、脳梗塞の占める比率は上昇します。

脳は虚血に最も弱い臓器の1つであり、血流に富んだ組織(約50ml/100g脳/分)です。脳代謝の面からみると、代謝が50%以下になると脳神経機能が障害され、15%以下になると梗塞に陥ってしまうと考えられています。

症状としては、壊死した領域の巣症状(その領域の脳機能が失われたことによる症状)で発症するため症例によって多彩な症状を示します。代表的な症状としては、麻痺(運動障害)、感覚障害、失調(小脳または脳幹の梗塞で出現し、巧緻運動や歩行、発話、平衡感覚の障害が出現)、意識障害(脳幹の覚醒系が障害や広汎な大脳障害で出現)がおこることもあります。

神経症状としては、片麻痺、半側感覚障害が多くみられます。神経症状は障害される部位、閉塞血管によって異なります。

桂米朝さんのケースでは、脳幹部に梗塞が起こっていたそうです。
脳幹とは、間脳を含む場合もありますが、通常は延髄、橋、中脳を合わせてこう呼びます。脳幹には、脊髄と前脳との間を連絡する多くの線維路に加え大部分の脳神経核および脳神経根があります。

脳幹は椎骨・脳底動脈系から栄養を受けています。同動脈本幹またはその分枝である傍正中枝、短周辺枝、長周辺枝の閉塞によって、種々の大きさの梗塞が出現します。

部位と大きさによって、各部位に特有な脳神経麻痺や種々の程度の運動麻痺、感覚麻痺、運動失調、意識障害などがみられます。脳幹部の広範な梗塞(脳底動脈血栓症)では、高度の意識障害+四肢麻痺をきたすことが多いです。呼吸の異常も伴うこともあります。

橋底部のみの広い障害では、閉じ込め症候群(locked-in syndrome)をきたすこともあります。これは意識は清明だが四肢の完全麻痺で、嚥下や発声ができず、眼の動きでしか意思表示ができない状態です。

限定された部位の障害では、その部位によって様々な障害をきたします。いわゆる交代性片麻痺、失調症状、眼球運動の障害、嚥下障害、眼振、めまい、嘔吐、Wallenberg(ワレンベルク)症候群などがみられます。

Wallenberg(ワレンベルク)症候群とは、延髄の障害によって起こります。突然の後頭部痛や嘔吐を伴って発症し、回転性眩暈と眼振、病変と同側の咽頭声帯麻痺による嚥下障害、カーテン徴候、嗄声、ホルネル徴候、上下肢の運動失調、反対側の体幹上下肢の温痛覚障害などが起こります。

脳梗塞の治療


脳梗塞の治療としては、以下のようなものがあります。
急性期には抗血栓療法、脳保護療法、抗脳浮腫療法があります。抗血栓療法には、血小板の働きを抑えて血栓ができるのを防止する抗血小板療法とフィブリンができるのを防止する抗凝固療法があります。

近年、組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)という血栓溶解剤を用いた血栓溶解療法が欧米では実施され、わが国でも2005年10月より健康保険に導入されました。ただ、発症3時間以内である必要があり、アルテプラーゼ静注療法が行われます。

血栓溶解による再開通促進を目的とし、治療までの時間が短いほど効果は確実であると考えられます。ただ、症例選択を誤ると重篤な合併症(特に頭蓋内出血)や死亡リスクが高くなってしまいます。出血対策のため、投与後36時間以内は厳重な管理が必要となります。

アクチバシン、またはグルトパを、34.8万単位/kg(0.6mg/kg)で投与します。投与方法としては、総量の10%を急速(1〜2分間)で静脈内投与し、その後残りを1時間かけて静脈内投与します。投与量上限は、3,480万単位(60mg)となっています。

脳保護薬(抗酸化薬)エダラボン(ラジカット)は、発症24時間以内の脳梗塞(病型を問わない)に適応があります。1回30mg 1日2回 30分かけて点滴静注します。肝機能障害、腎機能障害、血液障害などが発現することがあり(一部は同時発現)、投与前および投与後頻回の検査が必要となります。

脳梗塞を起こした部位が1〜2日するとむくみが起こるので、抗脳浮腫療法により脳浮腫の原因となる水分を取り除きます。脳梗塞になって3時間以内の場合は血栓や塞栓を溶かす薬を使って治療します。薬が効いた場合には詰まった脳動脈が再度開通し、血流が流れます。脳循環の改善薬や血栓・塞栓を予防する薬を使います。このように、脳浮腫治療にグリセロール、切迫脳ヘルニアにマンニトールを投与することもあります。

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