読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
2、3か月前から体の疲れがひどく、息切れや耳鳴り、動悸(どうき)がありました。「赤芽球癆(せきがきゅうろう)」と言われたのですが、どんな病気で、どんな治療が必要ですか。(47歳女性)

この相談に対し、NTT関東病院予防医学センター所長である浦部晶夫先生は以下のようにお答えになっておられます。
強い貧血を起こす、極めて珍しい病気です。赤血球、白血球、血小板などの血液細胞は骨髄で作られますが、免疫の異常で赤血球の元になる「赤芽球」や、若い赤血球である「網赤血球」が傷つけられて極端に減り、赤血球だけが作られなくなります。赤血球は全身に酸素を運ぶ働きがあり、赤血球が減るほど息切れなどの症状が強く出ます。

診断のためには骨髄液を採取して、赤芽球が極端に少なくなっていることを確認します。


赤芽球癆とは


赤芽球癆とは、骨髄で赤血球系だけが低形成を示し、赤血球産生が低下し著しい貧血を呈する疾患です。

急性と慢性に大きく分類し、さらにそれぞれ
1.急性赤芽球癆
・ウィルス感染(パルボウィルスB19など)
・薬剤の服用
2.慢性赤芽球癆
・先天性(Diamond-Blackfan症候群)
・後天性
i)薬剤の服用:慢性リンパ性白血病など
ii)特発性;胸腺腫をともなうもの、ともなわないもの

このように分類されます。いずれも、赤血球系前駆細胞の分化増殖の障害による貧血です。

急性の例はウイルス(パルボウイルスB19など)感染や薬剤(チアンフェニコール 、ジフェニルヒダントインなど)による赤血球系前駆細胞の障害によります。パルボウイルスによる急性の例では赤血球寿命の短い溶血性貧血の場合に強い貧血を呈する。

慢性の例では、胸腺腫を合併する例が多いことと、血清やリンパ球が赤血球系前駆細胞を抑制する例があるので自己免疫疾患の一つと考えられています。T細胞性慢性リンパ性白血病に合併する例もありますが、そのTリンパ球が赤血球系前駆細胞を抑制します。ほとんどCD8陽性リンパ球の白血病であり、顆粒の多い大リンパ球が増加するので顆粒大リンパ球性白血病とも呼ばれます。

先天性の例はDiamond-Blackfan(ダイアモンド-ブラックファン)症候群と呼ばれ、種々の奇形を合併します。

症状としては、貧血によるもの(動悸や息切れ、めまい、ふらつきなど)が主です。胸腺腫を合併する例では、重症筋無力症を合併することもあり、脱力や眼瞼下垂などの症状がみられます。先天性の例(Diamond-Blackfan症候群)では肝脾腫や母指の奇形、斜視などがみられることがあります。

検査としては、末梢血所見で正球性正色素性貧血と網赤血球の著明な減少を認めます。白血球や血小板数は正常であり、T細胞性慢性リンパ性白血病に合併する例ではリンパ球数が4,000/μl以上に増加しています。

骨髄穿刺所見で確定診断ができ、赤芽球が著減あるいは消失(5%未満)しています。鉄代謝は、血漿鉄の消失時間(PIDT1/2)の延長、赤血球鉄利用率(%RCU)の低下を認めます。

胸部X線、胸部CTでは胸腺腫を認めることがあります。免疫学的検査にて、T細胞性慢性リンパ性白血病に合併する例はT細胞抗原レセプターの単クローン性の再構成を認めます。抗核抗体陽性の場合や低ガンマグロブリン血症を伴うこともあります。

赤芽球癆の治療


治療としては、以下のようなものがあります。
貧血の症状を改善するために、輸血が必要になることがあります。しかし、質問者も輸血を週3回受けても改善しなかったように、これは応急処置でしかなく、治療としては免疫抑制療法が行われます。

最も多く使われる薬は免疫を抑えるシクロスポリンで、これを飲むことで、70〜90%の人はよくなります。また、ステロイド(副腎皮質ホルモン)などを組み合わせて使うこともあります。ただ、多くは効果が表れるのに1ヶ月から数ヶ月かかります。

赤芽球ろうは、免疫にかかわる臓器・胸腺に腫瘍(しゅよう)ができる胸腺腫や、悪性リンパ腫といった血液の病気、幼児の一過性発疹(ほっしん)の「りんご病」を引き起こす「パルボウイルスB19」への感染に続いて起きることもあります。

ウイルス感染以外では、薬をやめると、しばしば再発しますので、血液内科の専門医のもとで、副作用にも気を配りながら根気よく治療を続けることをお勧めします。

貧血が重篤な場合は、赤血球輸血を行います。赤芽球癆の確定診断が得られたらすべての薬剤を中止します。中止が困難な薬剤の場合はほかの作用機序の異なる薬剤へ変更を試みます。

薬剤性や感染性の場合は通常、1〜3週間以内に改善傾向が認められます。また、特発性赤芽球癆と診断された症例の10〜15%が全経過の中で自然寛解することから、赤芽球癆と診断した場合、薬剤の中止とともに1ヶ月間は可及的に免疫抑制剤(シクロスポリン 6 mg/kg 朝・夕食後など)、副腎皮質ステロイド(1 mg/kg 分3)などの積極的治療を控えて経過を観察するのが望ましく、その間に基礎疾患の有無について鑑別を行います。

特発性赤芽球癆や、原疾患の治療を行っても無効の続発性赤芽球癆に対しては免疫抑制薬の使用を考慮します。胸腺腫があれば摘出を考慮する。有効率は30〜40%で、4〜8週で効果が現れます。胸腺摘出が困難な症例や摘出に反応しない場合は特発性慢性赤芽球癆として治療を行います。

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