3度の脳出血で高次脳機能障害の後遺症を抱える医師、山田規畝子さん(45)=高松市=が、講演やピアカウンセリングなどを通じて同じ障害のある人たちの支援に取り組んでいる。医師でもある当事者が語りかける言葉には重みがあり、患者や家族に希望を与え、リハビリのあり方など医療の世界にも一石を投じている。(伐栗恵子)

山田さんは脳の血管が細くなって出血しやすい「モヤモヤ病」の持病があり、これまで3度の脳出血を経験。働き盛りの整形外科医だった34歳のとき、高次脳機能障害と診断された。

和式トイレの便器に足を突っ込む。アナログ時計の針が読めず、4時と8時を間違える。靴のつま先とかかとを逆に履こうとする-。「知能の低下はひどくないので、おかしな自分がわかる」(山田さん)だけに辛(つら)かった。

一方、山田さんは自分の「壊れた脳」を医師の目で冷静に観察。当事者にしか分からない世界を記録した著書は大きな反響を呼び、「毎日の生活がリハビリ」という独自の実践は、マニュアル化されたリハビリのあり方にも疑問を投げかけた。

山田さんは脳が左側の存在を「ない」と認識してしまう後遺症「半側無視」があり、左側に置かれた料理を食べ忘れたりする。そのリハビリは「後遺症のある側に介助者が立って行うのが常識」(植木医師)とされているが、山田さんは「認識できない側からアプローチされても不安なだけ。リハビリがいやになってしまう」。この指摘に、植木医師は「カルチャーショック。患者に合わせたオーダーメードのリハビリがより必要だと気づかされた」と言う。

「壊れた脳も学習する」「生きている限り回復は続く」と実感する山田さん。「メスは握れなくなったけれど、医師である私にしかできないことがある」
(あせらないで…3度脳出血の医師、患者らに希望「生きている限り回復続く」)

山田さんは著書「高次脳機能障害者の世界〜私の思うリハビリや暮らしのこと」の中でも、医師そして患者さんとしての両方の視点から生活上の困難やリハビリについて書かれています。非常に具体的であり、患者さん自身やそのご家族の方々に参考になる内容であると思います。

もやもや病とは


もやもや病(moyamoya disease)は、ウィリス動脈輪閉塞症ともいいます。両側内頸動脈(脳を栄養している太い動脈)終末部が慢性進行性に閉塞する疾患で、原因は不明であり厚生労働省の難病に指定されています。歌手の徳永英明さんも「もやもや病」であると診断されたそうです。

脳血流不足をきたすため、代償的に多数の穿通枝が側副血行路として発達します(太い血管が狭窄しているため、迂回路として細くてもろい血管が増える)。この発達した側副血行路が、脳血管撮影上「もやもやとタバコの煙様」に見えるので、「もやもや病」と名前がついています。

日本をはじめ東洋系に多く、約10%に家族内発生が認められます。小児発症と成人発症に分類され、症状も異なります。発症年齢の分布は二峰性を呈し、5歳を中心とする高い山(若年発症)と30〜40歳を中心とする低い山(成人発症)となっています。

小児例では脳虚血症状を呈し、反復性の一過性脳虚血発作が特徴的です。成人例では頭蓋内出血で発症することが多いです。

小児は成長期の脳に対して血流が不足するため、脳虚血(一過性脳虚血発作または脳梗塞)で発症することが多いです。特に、啼泣、熱い食事を吹き冷ますとき、楽器吹奏時など過呼吸時に発作を誘発しやすいです。四肢の脱力、失神発作、けいれんなども脳虚血症状と考えられます。

一方、成人では、もやもや血管に長年負担がかかり、ついに破綻して脳内出血・脳室内出血で発することが多いです。約2/3は頭蓋内出血で発症し、突然の頭痛、片麻痺、意識障害などを生じます。残り1/3は脳虚血症状で発症します。

もやもや病の診断


診断は脳卒中発作、てんかん発作を示す患者さんで脳血管撮影で特徴的な内頸動脈遠位部、前および中大脳動脈近位部の狭窄・閉塞、もやもや血管を認めることと、そして動脈硬化、血管炎など類似の脳血管病変を起こす既知の疾患の存在を否定することによります。

具体的には、MRIでは大脳基底核部にもやもや血管のflow voidがみられ、MRAでもやもや血管とともに両側内頸動脈終末部の狭窄・閉塞がみられます。脳血管撮影にて確定診断をすることができると考えられます。

ただ、MRIおよびMRAのみであっても下記のすべての項目を満たしうる場合は通常の脳血管撮影は省いてもよいとされています。

・「MRI・MRA による画像診断のための指針」
1)MRAで頭蓋内内頸動脈終末部、前及び中大脳動脈近位部に狭窄又は閉塞がみられる。
2)MRA で大脳基底核部に異常血管網がみられる。
注:MRI上、大脳基底核部に少なくとも一側で2つ以上の明らかなflow void を認める場合、異常血管網と判定してよい。
3) 1と2の所見が両側性にある。

このような所見から診断を行っていきます。

もやもや病の治療


もやもや病の治療としては、以下のようなものがあります。
治療としては、脳虚血、出血の急性期は血圧コントロールや脳圧亢進対策などの内科的治療を行います(虚血発症例に対して、バファリン81mg錠内服などを行うようです)。

虚血発症のもやもや病に対する治療の第1選択は脳血行再建術であり、特に、低年齢(6歳未満)発症の場合は重症化しやすいため早期に施行することが多いようです。

小児においては、浅側頭動脈中大脳動脈吻合術および側頭筋接着術(EMS:encephalomyosynangiosis)を両側に施行し、成人では、浅側頭動脈中大脳動脈吻合術を両側に施行することが多いようです。

ただ、血行再建術が出血性発作予防効果を示すかについてもまだ検討の段階となっています。根本治療が難しい疾患であるといわざるをえないでしょう。

壊れた脳 生存する知」はテレビドラマ、コミックス化されており、山田さんをご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。高次脳機能障害の方々の生活、そしてサポートされる周囲の方々にとって、こうした体験の記述は、障害を理解するのに非常に貴重なものであると考えられます。

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