演歌歌手の松原のぶえさん(48)は今年5月、腎臓の移植手術を受け、ステージへの復帰を果たした。ドナーは実弟で所属事務所社長の廣原伸輝さん(45)。週3回通院して人工透析を受ける闘病生活から解放され、9月には復帰第1作となる新曲を発表した。「弟にもらった新しい命で大好きな歌を届けたい」と話している。

幼稚園のとき急性腎不全で2週間入院したことがあったのですが、その後はすっかり治ったつもりでした。ところが1年半前、風邪をこじらせたのがきっかけで肺水腫になり、腎機能が一気に悪化しました。大学病院に駆け込むと、「腎臓が2%しか機能していない。すぐに透析をしないと命が危ない」と言われました。

人工透析は通常4時間程度かけて血液を浄化するんですが、私は3時間以上続けると呼吸が苦しくなって、気を失ったことも何度もありました。特異体質らしく、透析をすると血圧が一気に下がるんです。あまりの苦しさに、「このまま死んでしまうかも」と思ったほど。

透析生活で何よりも辛かったのは、声がかすれ、今までのようにのどが使えなくなったこと。いつかは歌手の仕事ができなくなるかも、とあきらめかけていました。

そんなとき、弟から腎臓提供の申し出があったんです。「2つ動いているんだから、1つくらいあげても大丈夫」と。腎臓移植をすれば、水分や食事の制限もなく普通の人と変わらない生活に戻れると聞いてはいました。でも、弟の健康な体にメスを入れるんですから、迷いましたね。

「手術を受けて大好きな歌を長く歌っていきたい」。こう決心して、どうせなら同じ病に苦しむ人の励みになればと、ドキュメンタリー映像を撮影してもらうことにしました。弟の左の腎臓を私の右下腹部に移す手術は5時間近くかかりました。血液型不適合で、とても難度の高い手術だったそうです。

手術を終えて目を覚ますと、母が私の手を握りながら「のぶえちゃん、よかったね」って。今は趣味のゴルフもできるし、大好きな焼き肉も食べられる。移植を受ける前と後では天国と地獄ですね。

これから拒絶反応を抑える免疫抑制剤を一生飲み続けるわけですが、移植をすればこんなに元気になれる。弟の腎臓が入った私の右下腹部はポコッと膨らんでいます。そのおなかをさすりながら、毎日感謝しているんです。
(弟からもらった命で大好きな歌を 腎臓移植から復帰の松原のぶえさん)

透析療法とは


透析療法とは、血液を半透膜を用いて透析し、水分および溶質を除去して血液の浄化を図る方法です。急性腎不全や慢性腎不全、透析可能な薬物による中毒(医療用薬剤、農薬、工業薬品など)、急性肝不全などの治療として行われます。

腎機能の低下が起こってくると、老廃物の蓄積や水・電解質の不均衡から生体内の恒常維持ができなくなり、いわゆる尿毒症症状を呈してきます。主たる原因物質(尿毒症性物質)として、グアニジン、フェノール、インドールなどの低分子物質、アルカロイド、脂肪族アミン、副甲状腺ホルモンをはじめとするホルモン、ポリペプチドなどが挙げられています。

これら老廃物の除去や電解質の是正、体内水分量の是正などを行うのが、透析療法です。ほかにも、透析可能な薬物や(医療用薬剤、農薬、工業薬品など)や、急性肝不全などの治療目的で行われます。

透析療法には、大別して、血液を透析器(ダイアライザー)に導き浄化した後に体内に返血する血液透析(HD)と、透析液を腹腔内に注入し腹膜の半透膜機能を利用して透析を行う腹膜透析(PD)とがあります。

血液透析(HD)とは、カテーテルあるいは皮下の動静脈瘻(シャント)のいずれかにより、血液をダイアライザーに導入し、透析液と透析膜を介して、血液中の高窒素血症、水・電解質異常を是正する方法です。

シャント(血液路 blood access)とは、動脈と静脈を直接つなぎ合わせた部分をつくる必要があります。これは、動脈から血液を体外循環回路に導き、十分な血液量を得るためのものです。

シャント(血液路 blood access)とは、動脈と静脈を直接つなぎ合わせた部分をつくる必要があります。これは、動脈から血液を体外循環回路に導き、十分な血液量を得るためのものです。腹膜透析(PD)に比べて、体内から除去したい物質を除く効率は良いですが、不均衡症候群といったものが生じることがあります。

不均衡症候群とは、急激な血液透析により血液透析中あるいは直後に起こる一過性脳症で、頭痛、悪心、嘔吐、筋のけいれん、全身倦怠感、血圧上昇、四肢しびれ感、意識障害などの症状が出現する場合をいいます。これは、透析により尿素などの溶質の除かれる速さが,体の各部位により差を生じることで発生すると考えられます。

腹膜透析(PD)とは、腹腔内に腹膜透析液を注入し、1〜数時間貯留した後、排出するという操作を繰り返す方法です。腹膜透析液の注入、排出には腹膜カテーテルを用います。そのため、シャントは不要となります。

メカニズムとしては、腹腔に貯留された腹膜透析液と腹膜に分布する毛細血管内血液との間で、溶質が濃度差による拡散現象(透析)で除去されます。透析効率は血液透析に比べてはるかに劣り、体液異常の改善に時間がかかります。ですが、それだけに循環系に及ぼす影響も少なく、不均衡症候群も起こりにくいという利点もあります。また血液路を必要とせず,抗凝固療法も不要であるという利点があります。

透析療法における問題点


透析療法における問題点としては、以下のようなものがあります。
腎不全状態に陥ってしまった場合、人工透析が必要となります。血液透析、週に3〜5回、しかも1回数時間という大きな負担を強いられます。腹膜透析も生活する上で、非常に大きな負担を強いられます。

また、治療期間の延長に伴う加齢や快適な生活を阻止する合併症、あるいは原疾患に伴う合併症も問題となります。骨異栄養症、透析低血圧、動脈硬化症、透析アミロイドーシス、手根管症候群などは、重要な問題として残されています。

高齢者および糖尿病患者の増加は、動脈硬化病変による合併症が起こります。また、特に糖尿病患者における起立性低血圧は、通常の患者にみられる透析低血圧にも増して社会復帰の妨げになっています。

また、慢性透析のようにヘパリン必要量がわかっている場合は透析中に出血傾向が出現することは少ないですが、緊急透析時には通常のヘパリン量(1000〜1500単位/時)を投与しても思わぬ出血傾向を見ることがあるため注意が必要です。

血液透析回路は、人体→脱血側回路→ポンプ→ダイアライザー→還血側回路→人体…という閉鎖系です。したがって、通常は回路内に空気が入り込む余地はありません(還血側回路には気泡感知装置が取り付けられており、安全性に考慮が払われている)。ですが、それでも回路のいずれかから空気が吸い込まれて、血管内に入り空気塞栓となる可能性があります。

一方、腹膜透析の特有な合併症としては、頻度は少ないですが偶発事故として、腹壁からの出血、腸管・膀胱穿孔があります。長期腹膜透析における合併症でもっとも重要なのは腹膜炎、中でも硬化性腹膜炎です。多くの場合、腹痛、液の混濁、排液困難で気付かれることが多いです。起因菌としては、ブドウ球菌やレンサ球菌などの皮膚常在菌、大腸菌などグラム陰性桿菌が多いです。

こうした生活上の障壁や合併症の問題を考えると、腎移植がどれだけ必要でかけがえのないものであるか、ご理解いただけるかと思われます。その一方で、ドナーの慢性的な不足の問題もあります。代替医療や再生医療を含めた、さらなる研究や臨床応用が求められます。

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