歌手のエルトン・ジョン(62)が風邪を引き、こじらせて入院したというニュースが少し前に出回った。一時は新型インフルエンザに感染したかと言われたが、入院の直接の原因は「大腸菌感染症」だった。

この度、約1週間の入院生活からやっと数日前に退院したエルトンであるが、風邪をこじらせ、かつ大腸菌感染症を起こしていたことが分かったというが、代理人はそれ以外のことは一切明らかにしていない。
(エルトン・ジョン、「大腸菌感染症」で入院していた。)

感染性胃腸炎とは


感染性胃腸炎とは細菌、ウイルス、真菌、原虫などの病原微生物が原因となって起こる消化管感染症の総称です。

日本における感染性腸炎の頻度は、1)サルモネラ、2)カンピロバクター、3)小型ウイルス、4)腸炎ビブリオ、5)病原性大腸菌とされています。特に、腸管出血性大腸菌(O-157)は頻度としてはきわめて少ないですが、溶血性尿毒症症候群(HUS)をきたし死亡率が高いため念頭においておく必要があります。

腸管出血性大腸菌O-157大腸菌による感染症は、腸管系感染症の原因菌の一種である腸管出血性大腸菌O157:H7あるいはO157:H-により引き起こされます。出血性大腸菌O157は腸管出血性大腸菌群の代表的なもので、毒素を産生します。

この毒素はサル腎臓由来のベロ細胞に毒性を示すことから、ベロ毒素とも呼ばれています。ベロ毒素は、大腸の粘膜内に取り込まれたのち、リボゾームを破壊し蛋白質の合成を阻害します。

蛋白欠乏状態となった細胞は死滅していくため、感染して2〜3日後に血便と激しい腹痛(出血性大腸炎)を引き起こします。また、血液中にもベロ毒素が取り込まれるため、血球や腎臓の尿細管細胞を破壊し、溶血性尿毒症症候群(急性腎不全・溶血性貧血)急性脳症なども起こることがあります。

O-157は、一部のウシの腸管内常在菌として知られており、加熱不十分な牛肉などが原因となります。少数の菌量でも感染を起こし、ヒトからヒトへの感染がみられることが大きな特徴となっています。100個程度という極めて少数の菌で発症し感染症・食中毒をおこします。そのため感染者の便から容易に二次感染が起こります。

摂取後、2〜7日後に腹痛や水様性下痢の症状を呈し、次第に純粋な血性下痢便へと移行していきます。この間、発熱はほとんどみられません。

多くは特別な治療を施すことなく5〜10日間で治癒します。ですが、感染後数%の頻度で溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併し重篤な経過をとる場合があり、特に低年齢層では十分な監視が必要となっています。

感染性胃腸炎の治療


感染性胃腸炎の治療としては、以下のようなものがあります。
まず、軽症か重症かの判断が重要です。軽症では対症療法となるが鎮痙薬はなるべく使用せず、乳酸菌剤を使用します。

発熱、脱水など全身状態の変化をきたしている場合は入院、補液が必要である。この場合も抗菌薬は経口投与が望ましいです。解熱鎮痛薬の投与は腎機能に影響するため高齢者では使用を控えます。

原因が不明の初期治療では、対症療法を優先し、症状の重症度と患者背景から抗菌薬の適応を判断します。ウイルス性の場合は有効な抗菌薬がないので、対症療法に頼らざるを得ません。

対症療法のポイントはまず、脱水に対する補液です。軽症で経口摂取が可能であればスポーツ飲料などにより、中等症以上では経静脈的に水分、電解質、代謝性アシドーシスの補正を行います。

整腸薬は病原菌の定着を阻止し、腸内細菌叢回復に有用とされますが、強力な止痢薬は細菌の体外排除を遷延させるため原則として使いません。また、食事制限は最小限にとどめるほうが回復が早い。解熱薬は治療薬であるニューキノロン薬との併用が好ましくない薬剤が多いことから慎重に選びます。

抗菌薬の投与は早期に短期間の経口使用が勧められると考えられます。抗菌薬投与の適応は、感染症の診断・治療ガイドライン2004より、
1)体温38℃以上、下痢回数10回/日以上、血便、強い腹痛、嘔吐のうち、下痢を含む2項目以上の重症例
2)腸管出血性大腸菌感染症が疑われる例
3)旅行者下痢症
4)年齢、基礎疾患など易感染性要因がある中等症例
5)保菌により就業制限を受ける食品取り扱い者や乳幼児・高齢者介護者、
6)集団内の二次感染防止が必要な保育園や施設で生活している小児や高齢者
となっています。

選択薬はニューキノロン薬(主に成人であり、クラビットやオゼックス)あるいはホスホマイシン(主に妊婦や小児であり、ホスミシンなど)を初期治療として3日間投与します。

ただ、カンピロバクターはニューキノロン薬が無効であるばかりでなく、急速に耐性化するため原因が判明した時点でマクロライド薬に変更します。また、Clostridium difficile やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)にはバンコマイシンの経口投与が行われます。

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