2009年11月20日放送の「金曜日のスマたちへ」に木の実ナナさんがゲストとして出演していた。その中で、自身がうつ病であることを明かしていた。

2000年の新聞広告に、『私は、バリバリの「鬱」です』というキャッチコピーで登場、カミングアウトしている。「新しい時代の扉を開けようというくらいの意気込み」であったと語っている。更年期の時期にうつ病を発症したという木の実ナナさんは、当時のことをそう振り返っている。


しかし、当初は更年期障害だということも分からなかったという。「自分は、嫌なことがあっても持ち越さないタイプ。それが、ある日突然、起きたときに表情が曇っていた」という。さらに、舞台やテレビ出演などで、緊張する以外に、移動中や何気ない時にも、ドキドキと動悸がするようになった。

さらに、普段から汗っかきだというが、首から上が妙にのぼせるようになった。そして、軽い耳鳴りがするようになり、人と目線が合うと避けるようになったという。

そこで、病院に行って受診したところ、「自律神経失調症じゃないか」と診断された。結局、原因はわからないままだったが、どんどんと自分がイヤになり、自己否定などを行ったり、抑鬱といった症状が悪化していった。

前向きで人好きのする自分が一変、後ろ向きで、人に会いたくないと思うようにもなった。

イライラしている自分を抑え、作り笑いをする日々。原因も病名もわからず、ツライ日々を過ごしていた。家族にも心配かけてはいけないと、明るくふるまっていた。とにかく独りになりたく、暗いところにいたかった。きれいなものを見てもきれいと思わない。花を見ても感動もなくなったという。

そんな状態が2年半続いた。
我慢を続けていたが、ヘアメイクをしてもらっている時、スタッフが髪を触った瞬間に「ウワー!」と叫んでしまう。いつもならば、トイレに駆け込んで、ひとりで「ワーワー」と言って発散させるなどできたが、その瞬間は、「やめてー!」といった言葉が出てしまった。

すぐに謝ったが、スタッフは「ひとりで抱えていないで、相談して下さい。協力します」と言ってくれたそうだ。それからは、焦燥や動悸などといった症状が我慢できなくなると、スタッフである彼女に言って、独りになって休む時間をもらうようにしたそうだ。

病院に行っても病名がわからないという状態で、本屋もいろいろと回った。更年期のことを取り上げている雑誌を見ても、自分の状況には当てはまらない。そんな中、1冊の本と出会う。著者が自分と同様な、更年期障害とはまた異なる症状に悩んでいたそうだ。

そして、ある女性医師に「更年期うつ病」と診断される。1400日もの長き不安な状態に、ようやく終止符が打たれた。それからは、抗うつ剤と抗不安薬の内服で治療を行っている。

更年期障害とは


更年期障害とは、更年期(閉経の前後約5年)に現れる多種多様の症候群で,器質的変化に相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群を指します。

原因としては、性腺機能の変化が視床下部の神経活動に変化をもたらし、神経性・代謝性のさまざまな生体変化を引き起こすことによると考えられています。一方で、更年期では、心理的・社会的にも不安定な時期であるため、その発現には社会的・心因的要因も大いに関与するといわれています。

具体的には、エストロゲン濃度の低下により、negative feedback機構が作動し、視床下部からLH-RHを、下垂体からはゴナドトロピン(LF、FSH)の過剰放出を促します。この機能亢進状態は視床下部に存在する自律神経中枢へ影響を及ぼし、自律神経失調の状態となると考えられます。

一方、心理的・環境的な要因は大脳皮質−大脳辺縁系を刺激するため視床下部の自律神経中枢にも影響を及ぼし、自律神経失調症を発症すると思われます。

症状としては、熱感、のぼせ、心悸亢進、発汗、不眠などを中心とした自律神経失調症状と、不安感、抑うつ、恐怖感、疲労感などの精神神経症状の2つに大別されます。

このような症状は、上記でも現れており、更年期障害と言っても差し障りはないようにも思われます。

その一方で、「更年期うつ病」(初老期うつ病)といった言葉もあります。女性では閉経期に現れるうつ病で、これを更年期うつ病と言う場合もあります。女性だけでなく、男性にもみられます。

ですが、精神障害の診断と統計の手引き (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)や疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)では認めておらず、正式な病名としては次第に用いられなくなっています(躁鬱病に含まれています)。

不安、焦燥が強く、抑制が目立たない特徴もありますが(激越性うつ病といいます)、これは初老期にかぎらず老年期のうつ病でもみられます。不安、焦燥の背後に心気妄想、罪業妄想があることがあり、自殺企図の危険も高いので注意を要します。

うつ病とは


うつ病とは、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠などを特徴とする精神疾患です。

うつ病の頻度は一般人口の 2〜3%といわれています。中でも、うつ病相に加えて躁病相をもつ双極性障害は 0.5〜1%であり、平均発症年齢は20歳代後半〜30歳代と言われています。女性2:男性1と女性に多く、更年期に発症する頻度が高いといわれています。

DSM-IVの診断基準は、2つの主要症状が基本となります。それは「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」です。この2つの主要症状のいずれかが、うつ病を診断するために必須の症状であるとされています。

「抑うつ気分」とは、気分の落ち込みや、何をしても晴れない嫌な気分や、空虚感・悲しさなどです。「興味・喜びの喪失」とは、以前まで楽しめていたことにも楽しみを見いだせず、感情が麻痺した状態です。

具体的なうつ病の診断手順は、i)うつ状態であることを確かめる、ii)身体疾患に伴ううつ状態を除外する、iii)併用する薬物起因性でないことを確かめる、といったことがあります。こうした鑑別を行い、その次にうつ病(内因性)の診断を下す順序が大切であると言われています。

また、最近の傾向としては、身体症状を前景とする軽症うつ病(仮面うつ病)が増加しているそうです。うつ病の8割が、一般診療科を受診するという報告もあります。身体に多彩な症状がみられ、症状の部位によって、多くの診療機関を受診(いわゆるドクター・ショッピング)しています。

よくある症状は、「睡眠障害」「全身倦怠・疲労」「全身のいろいろな部位の疼痛」の3つです。うつ病と診断された患者が初診時にどのような身体症状を訴えていたかを調べた結果(新臨床内科学第8版)、消化器症状が63%と最も多く、次に循環器症状20%、呼吸器症状14%、泌尿・生殖器症状6%、運動感覚器症状4%といわれています。

中でも、うつ病と消化器症状はきわめて関連が深いそうです。うつ病に伴う消化器症状として食欲不振78%、体重減少56%、便通異常44%、ガス症状33%、悪心・嘔吐29%、咽喉頭部・食道の異常感26%、腹痛23%、胃部不快感20%、口内異常感14%、胸やけ・げっぷ10%などが認められています。

うつ病の治療


うつ病の治療としては、以下のようなものがあります。
うつ病とは、いわばエネルギーが枯渇し、疲弊した状態であるといわれています。そのため消耗を避け、エネルギーの蓄積・回復を図るのが治療の基本となります。

まずは、希死念慮の程度を確認し、必要なら行動制限・行動監視を行います。危ないものを身辺に置かない、家族に付き添ってもらう、といったことが必要です。身体管理としては、脱水・低栄養状態などに必要な補液・栄養補給を行います。

休養は重要であり、安静や睡眠の確保を行います。焦燥感が強い場合は、鎮静作用の強い抗精神病薬であるレボメプロマジンなどを適宜併用して、安静・睡眠確保を図ります。

薬物療法としては、抗うつ薬により抑うつの改善を図ります。また、精神療法として病気としてのうつ状態の説明、予後の保証、治療の必要性、経過の見通し、治療内容・薬物の説明を繰り返しわかりやすく伝えることが重要です。

抗うつ薬としては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であるマレイン酸フルボキサミン、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)である塩酸ミルナシプラン、モノアミン再取り込み阻害薬である塩酸アミトリプチリンなどがあります。

抗うつ薬の服用が行われ、臨床的にその効果が実証されていると考えられています。ただし抗うつ薬の効果は必ずしも即効的ではなく、効果が明確に現れるには1〜3週間の継続的服用が必要です。

抗うつ薬のうち、従来より用いられてきた三環系あるいは四環系抗うつ薬は、口渇・便秘・眠気などの副作用が比較的多いです。これは、抗コリン作用、抗α1作用なども併せ持っているため、こうした副作用が現れると考えられます。

さらに、三環系抗うつ薬の場合、大量服用時にQT延長や急激な徐脈などの致死的な不整脈をきたす可能性があります。四環系抗うつ薬では、抗コリン作用や心毒性が比較的弱いといわれています。

近年開発された、セロトニン系に選択的に作用する薬剤SSRIや、セロトニンとノルアドレナリンに選択的に作用する薬剤SNRI等は副作用は比較的少ないとされています。ですが、臨床的効果は三環系抗うつ薬より弱いとされています。また、不安・焦燥が強い場合などは抗不安薬を、不眠が強い場合は睡眠導入剤を併用することも多いです。

抗うつ薬の効果は必ずしも即効的ではなく、効果が明確に現れるには1〜3週間の継続的服用が必要です。

また、SSRIであるフルボキサミン、パロキセチンは、セロトニン受容体を刺激するため、投与初期に不安、焦燥や不眠を引き起こしたり、性機能障害などを生じることがあります。

病名が分からずに、不安な日々を送られていたという苦しさは、非常に大変なものだったと思われます。同様な症状にお悩みの方は、精神科などを受診されてはいかがでしょうか。

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