「パネルDジャパン」という言葉をご存知だろうか。1950年代から1960年代にかけて「敗戦した日本人の反米感情を押さえる」「日本人が米国文化を肯定するようになる」ことを目的に実行された、アメリカ政府の心理戦略のことである。そして、この戦略にはアメリカで制作された数多くのテレビドラマやコメディーが使用されていた。

大事件が起こるわけでも、ドラマチックな展開があるわけでもないが、「クリーンで理想的な共稼ぎ家庭」が描かれていると幅広い層の視聴者を獲得。見ていて安心できる内容の作品であり、また高視聴率番組であることから、当時売り出し中であった若手俳優や女優らが次々とゲスト出演するようになり、後々ハリウッドで大活躍することになるレオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、ヒラリー・スワンク、そしてジェニー・ガース、マシュー・ペリー、ブライアン・グリーンも登場している。

しかし、番組の成功とはうらはらに裏舞台では様々な問題が生じていた。
長女役のトレイシー・ゴールドは、思春期の成長と共に増加する体重に悩み摂食障害に陥っていた。

しかし、ドラマで笑いをとるために「太ってる」「彼氏がいない」とからかわれ続けていたため重度の拒食症になり、入院するために番組を降板。以降、TVコメディーでは思春期の女性に対しての体重ネタは控えられるようになり、その後放送された『フルハウス』で長女役を演じたキャンディス・キャメロンは「(体重に関しては)みんな、腫れ物に触るようだった」と語っている。
(摂食障害まで!? 『愉快なシーバー家』の知られざる制作秘話)

摂食障害とは


拒食や過食といった、食行動のコントロールが困難となる疾患を摂食障害といいます。思春期の女性に多いといわれています。一方で、近年では若年例、高年例、男性例が増加しています。

摂食障害には、神経性無食欲症(いわゆる拒食症)と神経性大食症(いわゆる過食症)の2つの病態に大きく分けられます。

神経性無食欲症(拒食症)の方は、無食欲、やせ、無月経を呈し、活動性は亢進し、どんなにやせていても自分がやせているとは思わず(ボディ・イメージの歪みがある)、治療に対して拒否的である状態です。平たく言ってしまえば、「太ってしまうという恐怖があり(実際は痩せている)、栄養を摂るのに必要な食事を拒否してしまっている状態」と言えるでしょう。

このように、やせ願望のために食事を極端に自己制限し、体重減少が著しくなります。無月経などの身体合併症を伴い、危険な状態に至っても肥満恐怖が強く、少量の食事で太るという認知の歪みを認めます。極端な食事制限のみのタイプと、食事制限に加えて、自己誘発嘔吐や下剤、利尿薬乱用を伴うタイプがあります。

心理的な要因として、完全主義や強迫的、依存的、衝動的な性格や自己評価の低さ、自立の葛藤、家族関係などがあげられます。元来から真面目で頑張りやな性格であったり、母娘の関係性があまり思わしくなかったりすることで、起こりやすいとも言われています。

さらに、小児期では神経性無食欲症が多く、発症の若年化が進み初経前の前思春期発症例も増加しています。小児の神経性無食欲症の特徴は、ダイエットではなく不食による体重減少が多い、肥満恐怖ややせ願望を口に出さない、体脂肪が少ないため急激に重篤な状態に陥る危険性があるなどの点があります。

神経性大食症(いわゆる過食症)の方は、短時間内(多くは夜間)に大量の食物をむちゃ食いする点に特徴があり、抑えがたい衝動によってむちゃ食いしてしまいます。また過食後も多くのケースでやせ願望や肥満恐怖があり、自己誘発性嘔吐や下剤の乱用などがみられます。

ちなみに、極端な過食をしながら、自己誘発嘔吐や下剤,利尿薬乱用などの排出行為を伴うタイプと、運動によって体重増加を防ぐのみで排出行為のないタイプがあります。神経性大食症は肥満恐怖がありますが、極度の体重減少はない点が神経性無食欲症とは異なります。

このように、両者は正反対の病態のようにもみえますが、拒食症が過食症へと変遷したり、過食症が拒食症様の症状を呈したりします。

両者は相互に移行したり重複したりし、連続性のある病態と考えられ、摂食障害として1つにまとめられます。両方とも、体重や体型によって自己評価が極端に左右されるという認知の歪みが認められる点で一致しています。

摂食障害の治療


摂食障害の治療としては、以下のようなものがあります。
摂食障害はダイエットの行き過ぎや痩せすぎが問題になるのではなく、その背景に心理的葛藤が存在し、それが自らの体型や体重に置き換えられている、という認識が必要になります。

そのため、治療のゴールを体重の回復のように身体面の改善だけに置くのではなく、本人の自立を根気よく精神的に援助していく姿勢が望まれます。そして、治療は年の単位となるのが一般的で、患者さんだけでなく、周囲や治療者も焦らないようにする必要があります。

治療としては、標準体重の70%以下になれば原則入院療法を行います。そこで疾病教育や栄養教育が必要です。疾病教育では摂食障害に関する説明などをしっかりと行い、ボディ・イメージの歪みを直していく(太ってなどおらず、治療が必要だと病識を正す)必要があります。

栄養教育では、小児期における成長に必要な栄養の重要性や、低栄養であるとどんな悪影響があるのか、といった理解を促します。

精神療法としては、個人精神療法、集団精神療法(心理教育も含む)、家族療法などがあります。個人療法では、受容的・支持的な態度をしめすことが重要となります。体重が増えると自信や自己存在が大きく揺らぐ不安に共感していきます。一方で、認知行動療法を用いて、体重や体型、食事に対する歪んだ認知の修正をはかることも行います。

精神症状に対しては、対症的に薬物療法を行います。薬物療法はあくまでも補助的な手段ではありますが、うまく利用することのメリットもあります。抑うつや強迫傾向、不安などが強い場合ではデプロメール錠(25mg)やパキシル(10mg)などを用います。

患者自身または家族(特に母親)は病気の原因について強い自責感をもっているケースが多く、そのことが家族との葛藤を引き起こしている場合があります。患者自身が悪いのでも、家族や周囲が悪いのでもなく、症状のために全員がまきこまれていると認識していただき、問題の外在化をはかることも重要です。

「フルハウス」にまで影響を及ぼしていた、とは驚きました。キャラクターとしてドラマの進行に必要だった側面もあるかとは思いますが、今後もこうした配慮はある程度必要なのではないか、と考えられます。

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