50代以上の日本人なら誰でも知ってる牧伸二さんの「やんなっちゃった節」。ウクレレ片手に牧さんが歌い始めると、それだけでみんな爆笑した。「低能の魅力」の牧さん、02年に高血圧性脳出血で倒れ、再起不能といわれた。さて、今どうしているのか。

「右ヒザがちょっとガクガクするくらいかな。あとは全然問題ナシ。たばこ(葉巻)も酒もほどほどに楽しんでるよ。ホント、ボクの場合は幸運だったねえ」

倒れたのは02年。病気が病気だけに、再起不能説がささやかれた。

「仕事場で趣味のアクリル画を描いてたら、突然、頭の右側をヌルヌル生温かいものが流れるのを感じたの。それから間もなくして、左腕がしびれ始めた。これはマズいと思って救急車を呼び、病院に運ばれるや、脳内出血と診断されて即入院ね。幸いにして薬だけの治療で済んだけど、リハビリには苦労したよ」

「言語機能はセーフだった代わり、左の手足が動かない。ウクレレを壁にかけ、“絶対弾いてやるからな"って自分に活を入れて必死に指先のリハビリを繰り返したよ。それと病室や廊下で歩行訓練を徹底的にやった。おかげで45日の入院期間中に、ほとんど回復した」
(あの人は今こうしている 牧伸二さん)

脳出血とは


脳出血とは、何らかの原因によって脳の動脈が破れて出血し、脳実質内に出血(血腫)を形成したものです。微小動脈瘤の破裂が起こり、それに続いて二次的に発生する静脈破綻などが原因となって脳出血を起こします。

脳血管障害の3大疾患である、脳梗塞、くも膜下出血とともに、脳内出血はその内の1つです。富山県、岩手県脳卒中統計では、年間10万人当たり50名前後との報告が多く、脳卒中全体の25〜30%前後を占めています。

以前は日本での発症率が、欧米諸国に比べて高い傾向にありましたが、生活環境の変化や高血圧管理の普及とともに、減少しつつあります。全体の発生数および重症例は近年明らかに減少傾向にあります。年齢別発症率では、60〜70歳代にピークがあり、男性に多いという特徴があります。

リスクファクターとしては、高齢、性別(男性)、高血圧、飲酒、血清低コレステロール値などがあげられます。また、最近では抗凝固療法、抗血小板療法なども重要となります。さらに、高血圧などを伴わない脳内出血では、もやもや病、アミロイド脳症、転移性脳腫瘍、血管腫などが考えられます。

原因としては、高血圧性脳出血が60〜80%であるといわれています。その他、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、血管腫、脳アミロイド血管障害、脳腫瘍、出血性素因などがあります。

脳出血の診断


高血圧症以外明らかな原因病変がない出血では、部位別頻度で被殻40〜60%、視床20〜30%、脳葉、小脳、橋が各々5〜10%となっています。被殻出血では、対側の片麻痺、言語障害(失語症、構音障害)、眼症状(病巣を睨む共同偏視)が特徴的です。

特に若年者の出血では、脳動静脈奇形などが疑われます。脳葉出血や小脳出血をきたし、血管撮影でも確認できないoccult AVMが出血源となる例も多いといわれています。

脳動脈破裂は突発性頭痛で発症する例が多いです。動脈瘤が脳組織に癒着、埋没するような形態の場合、出血はくも膜下出血よりも脳内出血が主体となります。中大脳動脈、前大脳動脈動脈瘤で多くみられます。

高血圧の既往を有する例が多く、日中、労作時の発症することが多く、症状としては、突発性の意識障害、局所脳神経症状で発症します。神経症状としては、片麻痺や言語障害(失語症、構音障害)、眼症状(瞳孔変化、共同偏視、眼振)などがみられます。

また、頭痛やめまい、嘔吐のみの発症例(小脳出血、皮質下出血など)もあります。症状としては、持続性または進行性に推移します。再出血による急激な増悪もあります。

脳出血は2〜3時間で停止し、大量の出血では脳ヘルニアを起こして死亡の可能性もあります。5mL未満の出血は自然に吸収されます。5〜100mLの血腫では、血腫量に応じて意識障害、片麻痺などを示します。脳浮腫が加わると頭蓋内圧が亢進し、脳ヘルニアを発生することになります。

視症出血では、対側の感覚障害、不全片麻痺、垂直方向注視麻痺、同名性半盲などを生じます。血腫が大きい場合や中脳に進展した場合には、重症度が増してきます。

劇症型出血では、発症数日以内の死亡例が多いです。死因は、橋出血にみられる脳幹の直接損傷、二次的に発生する脳腫脹・脳へルニアによる脳幹圧迫などがあげられます。

予後は、出血の部位、大きさにより決まります。たとえば、被殻出血による片麻痺は内包の破綻、圧迫により出現しますが、圧迫のみの場合には速やかに改善します。ですが、破綻した場合の回復には限界があり、特に上肢・手の機能回復は不良となっています。

検査では、頭部CTなどが行われます。CTでは、出血直後から血腫は高吸収の(白い)陰影としてCT上明瞭に認められます。特に急性期では、梗塞との鑑別のみならず、血腫の部位、大きさの判定、脳室穿破の有無と脳室内血腫の状況、血腫周辺の浮腫〔浮腫部は逆に低吸収域(黒い部分)として認められる〕などを知るのに役立ちます。

血腫は発症2〜3週間で急速にX線吸収値が低下し、4週間以上たつと脳実質と同じか、それ以下のスリット状の低吸収域を示すようになりますが、小さい血腫ではCT上ほとんど病変として認められなくなる場合もあります。

MRIは、脳出血の急性期には、特にMRIのT1強調画像では血腫の存在や大きさがはっきりしないことがあります。ですが、経過とともに血腫周囲に脳浮腫が出現しはじめると、その広がりの描出にMRIは威力を発揮します。また、CTでは慢性期の血腫は不明瞭になりますが、MRIは、陳旧性脳出血の検出に有力な武器となります。

CTによる血腫の確認が診断のポイントとなります。発症後早期に行ったCTで高吸収域が存在しなければ、脳内出血は否定的です。出血をみた場合には、血腫の部位、広がりおよびくも膜下出血や水頭症の有無などの関連所見より、出血の原因や病態を鑑別します。

脳出血の治療


脳出血の治療としては、以下のようなものがあります。
治療としては、一般的に脳圧降下薬(脳浮腫の除去)としてグリセオール、マンニトールなどが用いられ、止血薬(血管強化薬および抗プラスミン薬)が用いられることもあります。

出血と診断された場合には、積極的な降圧をすべきであると考えられます。収縮期圧が180mHg以上、拡張期圧が105mmHg以上であれば、注射薬による降圧を行います。目標は最高血圧150mHg前後です。ニトログリセリン(ミリスロール)や塩酸ジルチアゼム(ヘルベッサー)、塩酸ニカルジピン(ベルジピン)などを用いることがあります。

ただし、ベルジピンは、頭蓋内出血が止まったことを確認して使用するべきとされています(一般的には発症6時間後)。同時に脳圧降下薬の投与が望ましく、グリセオールを用います。

外科的治療としては、神経症状、血腫量を基準とするガイドラインが示されており、被殻、小脳、脳葉出血がよい適応であるとされています。具体的には、
1)神経症状が悪化しつつある小脳出血
2)被殻、皮質下の50mL以上の血腫
3)脳室内出血で急性水頭症を示すもの

などがあります。

実際には、出血部位、血腫量、神経学的重症度などを総合的に判断して手術適応を決めます。もやもや病、血管奇形などによる出血もあり、外科治療に先立っては、できるだけMRI/MRAなどを撮影してから判断します。

一般的には、血腫量が10mL以下で神経症状が軽微な例や、脳幹部出血では、外科治療の適応はありません。逆に、上記のような判断基準を満たす場合、施行することとなります。

治療法としては、血腫除去術として
1)開頭術
2)CT定位的血腫除去
3)内視鏡的血腫除去
4)CT fluoroscopy下血腫除去の非侵襲的方法

または、脳室内ドレナージなどがあります。

出血直後は、血腫除去および出血点止血を目的とする開頭術を行います。血腫除去のみを目的とする場合には、定位的血腫吸引術を発症4〜7日目頃に行います。

脳内出血では救命できても、片麻痺や言語障害などが問題となることがあります。そのため、積極的に早期からリハビリテーションを行う必要があります。

牧さんのケースでは、脳血管障害による運動麻痺のリハビリテーションを行ったようです。他にも、失語症のリハビリを行うこともあります。

脳卒中の運動障害は脳血管障害により脳内で上位運動ニューロンが障害され、病巣と反対側の上下肢に痙性麻痺、すなわち片麻痺を生じるのが特徴です。運動障害の詳細は病巣、発症からの時期、重症度により異なります。

発症早期は弛緩性の場合もありますが、共同運動が優位で特有な限定された動きしかできない状態、ぎこちないが各方向に動かすことはできる状態などが観察されます。運動麻痺のリハビリは、大まかに分けて急性期、回復期、慢性期などに分けて行われます。

急性期は、リハビリテーション看護とベッド上訓練が重要であり、発症当日から開始することが望ましいです。

回復期では、訓練室に出棟して訓練が行えるようになれば、通常はリハビリテーション科あるいは回復期リハビリテーション病棟に転床して集中的に訓練を実施します。まず、平行棒中で立位・歩行訓練を行い、安定性を確認して平地歩行へと進みます。

慢性期では、肩関節屈曲や足関節伸張の自主訓練および散歩を指導し、日常生活の自立を促し、社会参加を勧めます。希望により介護保険サービスを利用するようにします。

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