鬱病から復帰したことで知られるアナウンサー、小川宏さんは、糖尿病とも三十数年という長い付き合いだ。飽食の時代、日本では予備軍も含めると推定2200万人が直面するといわれる糖尿病。「患者自身が主治医になろう」と笑う小川さんは、この病と“友"のようにかかわってきた。

医師に「糖尿病ですよ」と告げられたのは50歳のころ。朝のワイドショーが忙しくて暴飲暴食の日々でした。

自覚症状がなかったのですが、ほどなくして網膜から出血しました。3大合併症の一つ、糖尿病性網膜症。放っておくと失明する恐ろしい合併症で、定期検診を欠かせません。両腕の神経もピリピリしびれるようになりました。今は悪化しないよう努める日々です。腎臓の数値が悪化すれば、一日置きに4時間の人工透析をすることになります。

とは言っても、私の取り組みはごく単純です。食事は腹六分目に抑えること。そして歩くことです。

好物は我慢せずに食べて、量を抑えることで長生きしたい。欲張りかもしれませんが、「老少不定」といわれるように老いも若きも寿命は定まっていません。誰もがいつ人生に幕を下ろすか分からない。石を投げれば糖尿病患者に当たる現代、病をコントロールしつつ、充実した人生にしたいものです。
(病と生きる アナウンサー・小川宏さん)

糖尿病とは


糖尿病とは、インスリンの絶対的もしくは相対的不足により引き起こされる、持続的な高血糖状態を指します。自己免疫的機序により発症する1型糖尿病と、それ以外の原因による2型糖尿病に大別できます。

1型糖尿病は、自己免疫的機序により、膵臓のインスリン産生を行っているβ細胞の傷害によって起こると考えられます。故に、絶対的なインスリンの不足(産生自体が難しくなるため)が起こってきます。

臨床的には突然発症するかのように見えますが、発症に至るまでに、比較的長期にわたり、β細胞が序々に破壊されるという過程が存在します。1型糖尿病の基盤として、免疫現象に深く関わっているHLA分子の多型に代表される遺伝因子が関係しているといわれています。

1型糖尿病は、典型的には若年者に急激に発症するとされてきましたが、この型の糖尿病はあらゆる年齢層に起こりえます。また、臨床症状が出現するかなり以前から、ICAなどの自己抗体が検出されることが多いです。

その臨床経過は、発症前に感冒様症状や下痢・嘔吐などのウイルス感染を思わせる症状が先行することもありますが、多くの場合は、急激に、口渇、多飲、多尿、体重減少、全身倦怠感が出現します。すなわち急速にインスリン依存状態となり、インスリン治療を行わなければケトアシドーシスに陥り、生命の維持が困難になります。

一方、2型糖尿病とは、生活習慣が大きく関わっており、慢性的な高血糖状態やインスリン抵抗性(インスリンが多く分泌されていても、効かない状態)により、相対的なインスリン不足状態を指します(分泌自体はあっても、作用が追いつかない状態)。その後、インスリン分泌不全も起こってくる可能性があります。

2型糖尿病は、中年以降に徐々に発症し、初診時あるいは既往に肥満を認めることが多いです。1型と比較し家族内発症が多く、一卵性双生児での発症の一致率が90〜95%と高く、より遺伝素因の関与が濃厚と考えられます。

2型糖尿病のインスリン依存度はさまざまで、非依存状態の患者さんも多いですが、インスリン分泌の低下が高度の患者さんでは、インスリン依存状態となることもあります。

糖尿病患者の90〜95%は2型糖尿病に属しています。こちらは、遺伝的素因に加齢、過食、肥満、運動不足やストレスなどの環境因子が後天的に加わって発症する疾患です。

原因としては、遺伝的因子と環境的因子の両方がいわれています。多因子遺伝疾患と考えられており、現在は多数の候補遺伝子が報告されています。環境因子としては、肥満、過食、ストレス、薬剤、ウイルス感染などがあります。

家族内発症がみられることが多く、何らかの遺伝素因が発症に関与すると考えられますが、単独で大部分を説明できるものはなく、多因子疾患、つまりはこの遺伝素因にカロリー摂取過剰や運動不足といった生活習慣が重なって発症すると考えられます。

糖尿病の診断


症状としては、高血糖により口渇、多飲、多尿、脱水を生じ、重症例では昏睡などの意識障害をきたします。インスリン作用の不足により、体重減少、筋萎縮などをきたすこともあります。

いわゆる3大合併症としては、糖尿病網膜症による視力障害(失明に至ることも)、末梢神経障害による知覚障害や自律神経障害、糖尿病性腎症による浮腫、腎不全などが起こりえます。

1998年の厚生省による全国調査では、糖尿病患者数は690万人であり、40歳以上では10人に1人が糖尿病である計算になります。いわば国民病ともなった病気です。最近では、糖尿病性腎症により慢性腎不全に陥り、血液透析導入のトップになっています。

糖尿病合併症は、急性代謝性合併症と慢性合併症に大別され、急性代謝性合併症はケトアシドーシスや高血糖高浸透圧状態、慢性合併症は、血管合併症、皮膚病変、感染症、白内障を含みます。

このうち血管合併症は、糖尿病患者の生命予後やQOLに影響を及ぼす最大の要因であり、細小血管障害と大血管障害とに分けられます。細小血管障害は、通常、糖尿病性網膜症、腎症、神経障害を指し、上記のように糖尿病の3大合併症ともよばれます。

さらに、動脈硬化症ならびにその結果として生じる冠動脈性心疾患、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症(ASO:arteriosclerosis obliterans)などの臓器障害を大血管障害とよびます。

診断としては、日本糖尿病学会の診断基準(1999年)を用い、
1)随時血糖値200mg/dL以上
2)早朝空腹時血糖値126mg/dL以上
3)75g糖負荷試験で2時間値200mg/dL以上
のいずれかを満たすものを糖尿病型とし、これらが2度別の日の検査で確認されれば糖尿病と診断します。

ただし、1回の検査でも
1)口渇、多飲、多尿など糖尿病の特徴的症状がある。
2)HbA1cが6.5%以上
3)過去に糖尿病型であった。
4)確実な網膜症がある。

これらの所見がある場合も、糖尿病と診断できます。糖尿病型でなく、空腹時110〜125mg/dL(空腹時血糖異常;IFG)、糖負荷試験2時間値140−199mg/dL(耐糖能異常;IGT)のいずれかあるいは両方を満たすものを境界型としています。

糖尿病の治療


糖尿病の治療としては、以下のようなものがあります。
治療の基本としては、食事療法と運動療法を柱とする生活習慣の改善です。肥満、特に内臓脂肪の蓄積は、高血糖のほか、高血圧、高脂血症をも併発する状態(メタボリック症候群)を引き起こし、心血管疾患のリスクを増すため、体重の減量だけでなくウエスト周囲径の減少も念頭に置いて行い、禁煙指導も重要です。

食事療法としては、標準体重=(身長m)2×22(kg)を計算し、これに25〜30kcalを乗じて1日の摂取カロリーとしますが、これは患者の生活活動度や肥満度、年齢によって適宜変える必要があります。栄養素のバランスをとるように指導し、脂肪の比率を25%以下とし、ショ糖摂取を減らし、食物繊維を十分に摂取します。

また、継続的な運動は肥満の軽減、インスリン感受性の改善、基礎代謝量の増加をもたらします。ウォーキングなどの有酸素運動は内臓脂肪燃焼に有効であり、1回20分以上週3回、できれば毎日行うようにします。

薬物療法は、十分な食事・運動療法を行っても血糖降下が不十分な症例において考慮します。αグルコシダーゼ阻害薬(ベイスン、グルコバイ)、速効型インスリン分泌促進薬(ファスティック、スターシス、グルファスト)などを用います。

インスリン抵抗性の存在が疑われるものとしては、インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン誘導体アクトス)、あるいはビグアナイド剤(メルビン、グリコラン、ジベトスB )を用います。また、インスリンの基礎分泌が低下して,空腹時高血糖をきたしているものについては、インスリン分泌刺激薬であるスルホニルウレア(SU)剤を服用します。

生活指導や経口剤投与を十分に行っても、高血糖が持続する場合、手術前や感染症時には、インスリン投与を考慮します。食後のインスリン追加分泌を補う速効型あるいは超速効型を各食前に、加えて早朝血糖が高いものには夜間のインスリン基礎分泌を補う中間型インスリンを眠前に行う1日3〜4回投与を行います。

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