昭和30年代前半はロカビリー全盛期。きょう登場の田代みどりさんはそんな時代の34年、「パイナップル・プリンセス」を歌って爆発的な人気を得た。その後は日活の青春映画のヒロイン女優として活躍。“つなき&みどり"の夫婦ユニットで歌った「愛の挽歌」も懐かしい。さて、今どうしているのか。

「フツーの主婦をしておりまして、取り立ててお話しすることはないんですよ。でも、せっかくだから、きょうは性同一性障害、ジェンダーですね、それについてちょっとお話ししたいんですが、よろしいでしょうか」

田園都市線青葉台駅からクルマで10分ほどの喫茶店で会った田代さん、こう切り出した。

「実はウチの麻美が体は女性ながら頭の中は男性というジェンダーで、これについていろいろ勉強したところ、まだまだ理解が足りないようなんです。で、我が家のことが参考になればと思い立ちました」

この日は“ひとり息子"の麻美クン(26歳)も一緒。現在、神奈川県下のさる会社で営業マンをしているそうで、ビシッときめた背広姿が凛々しい。その麻美クンが語る。

「幼稚園の頃から女の子として扱われることに違和感がありましてね。中学3年のとき、授業で性同一性障害のことを知り、医学的には高1のときに埼玉医科大で検査を受け、そう診断されました。別にショックはありませんでしたね。むしろモヤモヤ感が取れてスッキリしたというのが正直な気持ちです。もちろん、周囲に隠し立てしてません。自分がこうして男性として歩むことができるのは家族や仲間、それと多くの方の理解があってのこと、感謝するばかりです」

続いて田代さん。
「打ち明けられたときはさすがにビックリしましたが、その一方、よくぞ話してくれたと麻美の覚悟をうれしく思いました。私がいったのは“強くなりなさいよ”ってアドバイスだけ。それで十分でした」
(あの人は今こうしている 田代みどりさん)

性同一性障害とは


人には生物学的性としての男性・女性のほかに、性の自己意識としての心理・社会的性(gender)があります。一般には男性・女性は自らを男・女と意識し疑いません(性同一性)。しかし自らの生物学的性は明らかであるにもかかわらず、その性に違和感を覚え、なじめない、しっくりしないと感じる人がいます。

性同一性障害とは、生物学的性と性意識(gender)についての自己認識が一致していないことによる障害を指します。古典的な性分化異常の概念とは異なり、染色体・性腺・性器に矛盾はないですが、心と体の性別が解離している状態です。

特徴としては、
1)反対の性になりたいという欲求や自分の性が反対であるという主張を強く持続的に述べる。
2)反対の性の服装を身につけたいと主張したり、実際にしたりする。
3)自分の性に伴う性別役割に不適切感や違和感を覚える。

といったことがあります。

こうした感覚は、幼少の頃から自覚されているケースが多いようです。ですが、医療機関を訪れるのは思春期以降が多いです。診断される時期の多くが未成年であるので、慎重な対応が望まれます。

小児の場合、男の子では自分の性器を嫌悪し、なかった方がよかったと主張したり、女の子では座って排尿するのを拒絶したり、二次性徴を迎えることを嫌悪したりします。

反対の性の典型的な遊びや友達を好むため、年齢相応の同性との仲間関係を発達させることができないといったことがあります。孤立し、いじめや登校拒否などの原因となってしまうこともあります。上記のケースでは、学校の同級生たちの理解があり、その点は救いになっていたように思います。

基本的には生物学的性に自己認知を合わせたいという希望がないため、いかに自己認知の性に生物学的な性を合わせていくかが治療の基本となります。治療法としては、以下のようなものがあります。

性同一性障害の治療


性同一性障害の治療としては、以下のようなものがあります。
治療としては生物学的性を性意識に近づけるか、苦悩を減弱させるかにあります。前者に対してはホルモン療法や性転換手術、後者には精神療法が主体となります。

FTM(female to male:女性から男性へ)の場合、男性ホルモン製剤であるエナルモンデポーを1回250mg、4週ごとに筋注します。MTF(male to female:男性から女性へ)の場合、卵胞ホルモン製剤であるペラニンデポーを1回10mg、2〜3週ごとに筋注します。上記のように副作用がみられることもあります。

男性から女性への性転換術では陰茎切断術、精巣摘出術、造腟術、豊胸術、喉頭軟骨形成術、脱毛術などが行われます。女性から男性への性転換術では子宮、卵管、卵巣の摘出術、陰茎再建術、乳房切断術などが行われます。

性の不一致に対しては根本的な治療法がなく、診断される時期の多くが未成年であるため、慎重な対応が望まれます。家族、特に母親の協力を得ることも重要であると考えられます。

具体的な治療などに関する説明は、初診から診断の過程を通じて信頼を築いた後、本人の疾患への理解と受容が可能であると考えられる時期に段階的に行っていきます。

上記のケースでは、周囲の理解もあり、社会にしっかりと適応できてらっしゃるようです。こうした障害に関する理解が浸透していくことが望まれます。

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