シンガーソングライターのより子さんは2歳で卵巣がんのため右卵巣を全摘出し、幼児期の3年間を病院で過ごした。小児がん克服後も21歳のころ、卵巣腫瘍を患い、左の卵巣にメスを入れた。2度の病を乗り越えた今、「家族のきずな、仕事や生きるありがたみ…それを教えてくれたのは病気」と話す。そんな生への実感を歌に乗せ、聴く人に届ける。

卵巣がんが見つかったのは、おむつ姿の2歳のとき。膨れあがったおなかで激痛に泣き叫ぶ私を、夜間救急に運んだと聞きましたが、痛みを覚えていない。記憶にあるのは手術室にあったぬいぐるみと、麻酔が痛くてわーっと泣いたこと。手術が終わるとベッドの隣でトマトをむいていた母の姿です。

入院での抗がん剤治療は3年間。薬のオレンジ色を見ただけで吐くほど気持ち悪かったけれど、物心ついたときから3度の食事みたいに生活の一部。「なぜ」なんて思うこともなく、耐えました。

がんの病魔はすごい。椅子(いす)に座ってるだけで体力を消耗しました。会話できないほど調子が悪いときもある。私もだったし、ほかの子がそうでも黙ってそっとしておく。病名も知らない子供だけれど、小児病棟の仲間とは独特の通じ合うものがありました。トランプやゲーム、お絵書きをして遊んだり、専門用語が飛び交うお医者さんごっこは今思えばシュール(笑)。入院生活は楽しく、2歳から5歳の間は病院が「わが家」。そんな生活が当たり前でした。

私が「がん」だったと知ったのは小学5年生の春。母から「病院で一緒に遊んだ友達はみんな亡くなった」とも告げられました。ショックでした。「なぜ、私だけ生きている?」って考えて…。たどりついたのが、私は何かを人に伝えなきゃいけない、だから生き残ったんだって、結論。

音楽への道は不思議なほどすんなり開けました。中学生のとき、パソコンで本格的に曲作りを始めると、同じ趣味のクラスメートと仲良くなりました。全然テレビを見ないから知らなかったけれど、それがアイドルグループ「モーニング娘。」の元メンバー(福田明日香さん)で。彼女から私の話を聞いた事務所の方にスカウトされました。

音楽活動を始めてしばらくは「病気の子」っていうイメージではなく、「アーティスト」として自分を見てほしくて、持て余していたものを、やりたいように表現するだけでした。

それが平成18年、「あれ?」と思うほどおなかが張って。「メタボ?」かと運動したけど違う。体調も悪く病院に行くと、診断は「卵巣腫瘍」。医師には「99%、がん」と言われましたが、あの「まっすぐ立っていられない辛さ」じゃない。おなかに3キロ近い水がたまっていたものの、腫瘍は良性でした。

手術後、ホルモンバランスが崩れ、鬱状態で涙が出て辛かったけれど、「何も悲しくないのに人の体ってすごい」と割り切りました。ちょうど母も更年期障害で、2人で「顔がほてるね」って(笑)。

この手術を機に、私は生まれ変わりました。自己表現でしかなかった音楽活動を、これからは人のために生かしたい。チャリティー活動で生きざまを見せるのも、私がやるべきことだと。病気で針を刺されたり身を切られるのは痛い。けれど、病気が伝えるメッセージを受け取ると、生きているありがたみや、仕事のありがたみが分かるんです。今の私があるのはあの「すばらしい経験」があったから。
(2歳で卵巣がんと闘う 生への実感、歌に乗せ)

卵巣癌とは


卵巣癌とは、卵巣に発生する悪性上皮性腫瘍のことを指します。卵巣腫瘍は、悪性と良性、その中間の低悪性(または境界型悪性)腫瘍に分類されます。卵巣にできる腫瘍の85%は良性となっています。

卵巣癌は、悪性卵巣腫瘍の中での76%を占め、組織学的には漿液性、粘液性、類内膜そして明細胞が主として発生します。悪性卵巣腫瘍のうち、卵巣癌の好発年齢は40〜60歳代と、比較的高いと考えられます。

卵巣癌の罹患率は40歳代から増加し、50歳代前半でピークを迎えてほぼ横ばいになり、80歳以上でまた増加します。家族性卵巣癌症候群や乳癌卵巣癌症候群など癌家族集積性を認める場合は、さらに若年発生です。

また、悪性胚細胞腫瘍の場合は20〜30歳代に好発し、妊娠合併例や妊孕性温存に関して問題になります。悪性腫瘍では、胚細胞性腫瘍(卵黄嚢癌、未分化胚細胞腫など)と非胚細胞性腫瘍(顆粒膜細胞腫など)があります。

そもそも卵巣は生殖のための臓器で、ホルモン産生に関与する臓器です。腹腔内でも、骨盤腔の最も深いところに位置しています。そのため、卵巣の腫瘍性病変は良・悪性を問わず、かなり大きくなるまで自覚症状がないことが多いです。

悪性の場合、進行例として発見される症例が約半数を占めるということで、早期発見が難しい疾患といえると思われます。無症状のことが多いですが、比較的みられる症状としては、下腹部痛、腹部膨満、腹部腫瘤、不正性器出血、異常帯下などがあります。

大部分がぼんやりした不特定の症状、たとえば消化不良、腹部の膨隆、すぐに満腹感を覚える食欲不振、ガス痛、腰痛などをもっています。腫瘤の増大に伴い、下腹部痛や圧迫感も訴えることがあります。

最も一般的な初期発見は付属器の腫瘤で、腫瘤はしばしば固く不規則で固定されている状態になっているそうです。新生児頭大以上になると、自分で下腹部腫瘤として触れます。臨床進行期?期・?期の進行癌で発見される場合、癌性腹膜炎による腹水や腸閉塞症状、胸水による呼吸困難を訴えて来院することがあります。

卵巣癌の診断


主な症状は、下腹部痛、腹部膨満、腹部腫瘤、不正性器出血,異常帯下などがありますが、その解剖学的位置関係から無症候のことも多いです。

さらに、全症例の約半数が臨床進行期III期・IV期の進行癌で発見されるため、癌性腹膜炎による腹水の貯留やイレウス症状、胸水貯留による呼吸困難を主訴に来院することもしばしばあります。

検査としては、血清腫瘍マーカー値などがあります。表層上皮性卵巣癌の場合はCA125、CA602、CA72-4、CA546、STN、CA19-9、CEAなどが、性索間質性腫瘍の場合はEstradiol(E2)が、悪性胚細胞腫瘍の場合はα-フェトプロテイン(AFP)、hCGなどが上昇してきます。またGAT(癌関連ガラクトース転移酵素)は表層上皮性卵巣癌と子宮内膜症性嚢胞との鑑別に有用です。

超音波断層法も簡便かつ診断的価値が高いです。卵巣腫瘤を発見した場合、腫瘤は嚢胞性か充実性か、単房性か多房性か、片側性か両側性か、腹水の有無などに注意します。特に嚢胞性腫瘤内の充実性部分や乳頭状部分の有無(ドプラ法で豊富な血流の存在)、多房性腫瘤の隔壁の不正および肥厚の有無は悪性を示唆する重要な所見です。

MRI検査は、卵巣腫瘤の質的診断および周囲臓器との関連の評価において極めて有用な画像診断です。またガドリニウム(Gd)による造影所見は癌組織で認められるhypervascularityの裏づけです。

CT検査は、卵巣腫瘤の診断に有用であると同時に後腹膜リンパ節腫大の評価、腹膜播種の評価、腹水量の評価、さらに遠隔転移の評価にも有用です。

また、子宮頸腟部細胞診および子宮内腔細胞診で発見されることもあります。また、体腔液(腹水・胸水)細胞診は原発巣の組織型の推定に有用です。さらに、腹水細胞診や腹腔内洗浄液の細胞診、また胸水細胞診の評価は臨床進行期を決定するうえで必須項目となっています。

卵巣癌の治療


卵巣癌の治療としては、以下のようなものがあります。
早期癌症例の場合、卵巣癌根治手術と補助化学療法が基本となります。進行癌症例では、腫瘍減量手術と寛解導入化学療法が基本となります。

早期癌に対する卵巣癌根治手術としては、原則として「子宮全摘術+両側付属器切除術+大網切除術+骨盤および傍大動脈リンパ節廓清術」となります。

また、進行癌症例に対してはこれらに加え、できるだけ多くの腹腔内腫瘍を除去する「腫瘍減量手術」を行い、場合によっては腸管をはじめとする他臓器の合併切除を行います。

卵巣腫瘍疑いと診断した場合は、原則として腫瘍を摘出することになります。術中迅速病理診断が境界悪性、または悪性となった場合は、基本術式として単純子宮全摘術、両側付属器切除術、大網切除術を行います。

また、進行期の確定のために横隔膜下面以下の腹腔内の視触診、腹腔細胞診、腹腔内生検、後腹膜リンパ節の郭清術または生検を行います。次に、腹腔内に腫瘍が広がっている場合は、可及的腫瘍縮小術を行います。

化学療法にて腫瘍を縮小させ、その上で卵巣癌根治手術が行われることもあります。胚細胞性悪性腫瘍に対する標準的寛解導入・補助化学療法としては、BEP療法が行われています。

BEP療法の「B」とは、ブレオマイシン(ブレオ)であり、「E」はエトポシド(ランダ)、「P」はシスプラチン(ランダ)のそれぞれの頭文字をとっています。これを3週間隔で3コース以上行います。

より子さんは、卵巣癌を克服し、現在はシンガーソングライターでご活躍されているそうです。今後もご自愛なさりながら、頑張っていただきたいと思われます。

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