読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
この相談に対して、社会保険下関厚生病院院長である沖田極先生は次のようにお答えになっています。
原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis;PBC)は、肝内の小葉間および隔壁胆管など中等大の胆管の破壊、消失により、慢性の肝内胆汁うっ滞を示す疾患です。中年女性に好発する慢性進行性の胆汁うっ滞症であり、慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC:chronic non-suppurative destructive cholangitis)などの特徴的な病理所見を示します。
皮膚掻痒感を初発とし、黄疸が出現すると消退することは少ないです。皮膚掻痒感、黄疸など肝障害に基づく症状を欠く場合は無症候性原発性胆汁性肝硬変、これらがある場合は症候性原発性胆汁性肝硬変といいます。
原発性胆汁性肝硬変の病初期には肝不全症状はみられませんが、病変の進行とともに黄疸の出現がみられ、肝不全状態を呈します。
検査所見としては胆道酵素(アルカリホスファターゼ[ALP]、γ-GTP)の上昇が特徴的で、AST、ALTの上昇はみられないか、軽度です。本症の病因は自己免疫的機序によると考えられ、自己抗体として抗ミトコンドリア抗体(AMA)が90%以上に陽性となります。
中年女性に好発すること、自己抗体の一つであるAMAが高頻度に陽性であること、関節リウマチなどほかの自己免疫性疾患を合併する頻度が高いことなどから、本症の発生機序には自己免疫が関与しているものと想定されています。
また、本症が中年女性に高頻度にみられることから、本症を妊娠の合併症の一つとする仮説も提唱されています(男性胎児のリンパ球が母体に移行して、胆管上皮の障害を起こすと考えられていますが、十分に立証されてはいません)。
診断基準としては、
治療としては、以下のようなものがあります。
胆石症に対する治療薬であるウルソデオキシコール酸(UDCA)が広く用いられており、本疾患の肝機能を改善します。UDCA の作用機序として利胆作用、疎水性胆汁酸との置換効果、免疫調節作用などが挙げられます。胆道系酵素の改善を目安に投与します。1日量として600 mgから開始し、900mgまでの投与が保険で認められています。
UDCA の副作用として、低頻度ではあるが下痢・悪心・食欲不振が認められます。きわめて低頻度ですが間質性肺炎も報告されており、注意が必要となります。消化性潰瘍や胆管内胆石を有する患者にはUDCA は慎重に投与します。
UDCA で効果のみられた例では長期間の投与を行いますが、高度黄疸例ではかえって肝機能を増悪させる場合もあるので注意が必要です。また、UDCA 投与後血清ビリルビン値の上昇がみられた場合には、投与の中止が必要です。UDCA 投与による組織学的改善の有無や長期投与による生命予後の改善については、現在検討中となっています。
胆汁うっ滞に伴い皮膚そう痒感を認め、そうした場合は抗ヒスタミン薬やイオン交換樹脂製剤が用いられます。また、胆汁うっ滞に伴うビタミンD欠乏による骨粗鬆症や、それに伴う骨折は深刻な問題となります。予防のためには、乳酸カルシウム、ビタミンD製剤、ビタミンK2製剤などの投与を行います。
進行例では、門脈圧亢進症に伴い食道静脈瘤を合併することがあるため、上部消化管内視鏡検査を定期的に施行し、出血の危険性が高い食道静脈瘤は治療します。肝不全に陥った場合は、肝移植などを行います。
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「原発性胆汁性肝硬変」と診断されました。将来、肝硬変になる恐れがあると聞き、心配です。どんな病気なのでしょうか。(51歳女性)
この相談に対して、社会保険下関厚生病院院長である沖田極先生は次のようにお答えになっています。
原発性胆汁性肝硬変は、肝臓から十二指腸に胆汁を送る胆管のうち、肝臓内の小胆管が壊れ、脂質の消化・吸収を促す胆汁の流れが悪くなる病気です。閉経期前後の女性に多くみられます。
体外から入った細菌やウイルスを攻撃する抗体が、自分の胆管の細胞を攻撃してしまうために起こると考えられています。しかし、病気の詳しい原因は分かっていません。
症状がある場合とない場合があります。症状がある場合、最初のうちは、多くの人が全身にかゆみを訴え、進行すると、赤血球中のヘモグロビンが壊れてできる色素のビリルビンが増え、黄だんが出ます。
無症状や症状がかゆみだけの人は、それほど病気は進行しません。
黄だんの症状が進んだり、長期にわたり胆汁の流れが悪い状態が続いたりすると、肝硬変になる場合があります。この病気は病状によって1~4期に分けられますが、肝硬変になるのは最も重症な4期の場合で、ごくわずかです。肝硬変になると肝移植が必要になることがあります。
原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis;PBC)は、肝内の小葉間および隔壁胆管など中等大の胆管の破壊、消失により、慢性の肝内胆汁うっ滞を示す疾患です。中年女性に好発する慢性進行性の胆汁うっ滞症であり、慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC:chronic non-suppurative destructive cholangitis)などの特徴的な病理所見を示します。
皮膚掻痒感を初発とし、黄疸が出現すると消退することは少ないです。皮膚掻痒感、黄疸など肝障害に基づく症状を欠く場合は無症候性原発性胆汁性肝硬変、これらがある場合は症候性原発性胆汁性肝硬変といいます。
原発性胆汁性肝硬変の病初期には肝不全症状はみられませんが、病変の進行とともに黄疸の出現がみられ、肝不全状態を呈します。
検査所見としては胆道酵素(アルカリホスファターゼ[ALP]、γ-GTP)の上昇が特徴的で、AST、ALTの上昇はみられないか、軽度です。本症の病因は自己免疫的機序によると考えられ、自己抗体として抗ミトコンドリア抗体(AMA)が90%以上に陽性となります。
中年女性に好発すること、自己抗体の一つであるAMAが高頻度に陽性であること、関節リウマチなどほかの自己免疫性疾患を合併する頻度が高いことなどから、本症の発生機序には自己免疫が関与しているものと想定されています。
また、本症が中年女性に高頻度にみられることから、本症を妊娠の合併症の一つとする仮説も提唱されています(男性胎児のリンパ球が母体に移行して、胆管上皮の障害を起こすと考えられていますが、十分に立証されてはいません)。
診断基準としては、
1)自覚症状このようになっています。
皮膚掻痒感で初発することが多い。黄疸は出現後、消退することなく漸増することが多く、門脈圧亢進症状が高頻度に出現する。原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis、以下PBC)は臨床上、症候性(symptomatic)PBC と無症候性(asymptomatic)PBC に分類され、皮膚掻痒感、黄疸、食道胃静脈瘤、腹水、肝性脳症など肝障害に基づく自他覚症状を有する場合は、症候性PBC と呼ぶ。これらの症状を欠く場合は無症候性PBC と呼び、無症候のまま数年以上経過する場合がある。
2)血液・生化学検査所見
症候性、無症候性を問わず、赤沈の亢進、血清中の胆道系酵素(アルカリホスファターゼ、γGTP など)活性、総コレステロール値、IgM 値の上昇を認め、抗ミトコンドリア抗体(antimitochondrial antibody、以下AMA)が高頻度に陽性である。
3) 組織学的所見
肝組織では中等大小葉間胆管ないし隔壁胆管に慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis、以下CNSDC)あるいは胆管消失を認める。連続切片による検索で診断率は向上する。
4)合併症
高脂血症が持続する場合に皮膚黄色腫を伴う。シェーグレン症候群、関節リウマチ、慢性甲状腺炎などの自己免疫性疾患を合併することがある。
5)鑑別診断
慢性薬物起因性肝内胆汁うっ滞、肝内型原発性硬化性胆管炎、成人性肝内胆管減少症など
6)診断
次のいずれか1つに該当するものをPBC と診断する。
・組織学的にCNSDC を認め、検査所見がPBC として矛盾しないもの。
・AMA が陽性で、組織学的にはCNSDC の所見を認めないが、PBC に矛盾しない(compatible)組織像を示すもの。
・組織学的検索の機会はないが、AMA が陽性で、しかも臨床像及び経過からPBC と考えられるもの。
治療としては、以下のようなものがあります。
しかし、そこまで重症でなければ、胆汁の流れをよくする「ウルソデオキシコール酸」や脂質異常症に使われる「ベザフィブラート」を服用することで、進行をかなり遅らせることができます。
肝臓に詳しい消化器内科医を受診し、まずは、肝臓の状態が4段階のうち、どの段階なのかを調べてみてください。
胆石症に対する治療薬であるウルソデオキシコール酸(UDCA)が広く用いられており、本疾患の肝機能を改善します。UDCA の作用機序として利胆作用、疎水性胆汁酸との置換効果、免疫調節作用などが挙げられます。胆道系酵素の改善を目安に投与します。1日量として600 mgから開始し、900mgまでの投与が保険で認められています。
UDCA の副作用として、低頻度ではあるが下痢・悪心・食欲不振が認められます。きわめて低頻度ですが間質性肺炎も報告されており、注意が必要となります。消化性潰瘍や胆管内胆石を有する患者にはUDCA は慎重に投与します。
UDCA で効果のみられた例では長期間の投与を行いますが、高度黄疸例ではかえって肝機能を増悪させる場合もあるので注意が必要です。また、UDCA 投与後血清ビリルビン値の上昇がみられた場合には、投与の中止が必要です。UDCA 投与による組織学的改善の有無や長期投与による生命予後の改善については、現在検討中となっています。
胆汁うっ滞に伴い皮膚そう痒感を認め、そうした場合は抗ヒスタミン薬やイオン交換樹脂製剤が用いられます。また、胆汁うっ滞に伴うビタミンD欠乏による骨粗鬆症や、それに伴う骨折は深刻な問題となります。予防のためには、乳酸カルシウム、ビタミンD製剤、ビタミンK2製剤などの投与を行います。
進行例では、門脈圧亢進症に伴い食道静脈瘤を合併することがあるため、上部消化管内視鏡検査を定期的に施行し、出血の危険性が高い食道静脈瘤は治療します。肝不全に陥った場合は、肝移植などを行います。
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