「大関の相撲を取れないのなら辞めるしかない」-。3年前、脳梗塞発症の恐れがあると、30歳の若さで現役にピリオドを打った大相撲の元大関、栃東関。その後、玉ノ井部屋を継承し、親方として後進の指導にあたる。自身の経験を教訓に「体を休ませるのもけいこのうち」と語り、現役力士が一日でも長く相撲が取れることを願ってやまない。

平成19年3月、春場所を勝ち越し、かど番を脱出してホッとした直後でした。それまで経験したことのない強烈な頭痛に襲われました。12日目から途中休場し、病院で精密検査を受けたところ、過去何年間かにできた脳梗塞の跡が見つかったのです。

立ち合いで頭からガンガン突っ込む相撲取りにとって、首の痛みや頭痛はよくあること。高血圧も職業病みたいなものと考えていましたが、医師から「脳梗塞」の言葉を聞かされたときは、さすがにゾッとしました。

「このまま相撲を取り続けることは考えられない」。医師の宣告後、1カ月ぐらいは現役続行か引退かで悩みました。しかし、若い衆のけいこを見ているうちに、土俵にカムバックしたいという気力が切れている自分に気付き、区切りをつけるなら今かな、と決心しました。やるだけのことはやったという思いで悔いの念はありませんでした。

それに、不安があるのに土俵に上がるのは相撲ファンに申し訳ない。引退表明を自分のブログで「きょうで土俵から下ります」と真っ先に伝えたのは、ずっと応援してくれたファンのことが頭に浮かんだからです。けがで苦しんで出場できない時期でも温かく見守ってくれましたから。

引退してからは、3カ月に1度のペースで血液検査を受け、降圧剤や血液をサラサラにする薬を服用して再発防止に努めています。食生活もだいぶ変わりました。気をつけているのは、炭水化物を減らすことと、野菜を多く食べること。もともと温野菜たっぷりのちゃんこは、体に良いと言われています。

相撲取りは引退後、食事療法などで減量に励みますが、私の場合も引退してすぐに検査入院して、7、8キロ落ちました。今は110キロ前後に減りました。現役時代は最大160キロはありましたから、3年間で約50キロやせた計算になります。

血圧も正常値になりました。場所中は精神的に高揚していますので、普通に200を超えることがありましたが、今は上が120から130。同年代の男性と変わりません。あれだけ悩まされた頭痛もほとんどありません。
(休息も稽古のうち…脳梗塞判明し引退決意 元栃東・玉ノ井太祐さん)

脳梗塞とは


脳梗塞とは、脳動脈閉塞などによる虚血により、脳組織が不可逆的な変化(壊死)を起こした状態を指します。

脳梗塞の発症率は10万人に対して100〜150人、死亡率は10万人に対して約70人であり、救命率もさることながら、患者さんの生活にも大きな影響を与えるため、重要な疾患です。また、脳梗塞は脳卒中全体の約60%を占め、最も頻度の高い病型です。年齢が高くなるほど、脳梗塞の占める比率は上昇します。

脳は虚血に最も弱い臓器の1つであり、血流に富んだ組織(約50ml/100g脳/分)です。脳代謝の面からみると、代謝が50%以下になると脳神経機能が障害され、15%以下になると梗塞に陥ってしまうと考えられています。

症状としては、壊死した領域の巣症状(その領域の脳機能が失われたことによる症状)で発症するため症例によって多彩な症状を示します。

脳梗塞の代表的な症状としては、麻痺(運動障害)、感覚障害、失調(小脳または脳幹の梗塞で出現し、巧緻運動や歩行、発話、平衡感覚の障害が出現)、意識障害(脳幹の覚醒系が障害や広汎な大脳障害で出現)がおこることもあります。

神経症状としては、片麻痺、半側感覚障害が多くみられます。神経症状は障害される部位、閉塞血管によって異なります。

たとえば、前大脳動脈領域の梗塞では、下肘に強い片麻痺(感覚障害を伴うこともある)を示すことが多いです。時に筋固縮、バランス障害(失立、失歩)、記銘・記憶障害、性格の変化などが起こりえます。

中大脳動脈領域の梗塞では、顔面を含む片麻痺を示すことが多いです。半側(麻痺と同側)の感覚障害を伴うことと伴わないことがあります。

優位半球の梗塞(大脳には右半球と左半球があります。通常利き手についていわれ、右利きの人にとっては、左半球が優位半球と定義されます)による障害ならば、言いたい言葉が出ない、他人の話が理解できないなどの失語症、失行症(道具を使った簡単な動作ができない)、左右失認、手指失認、計算ができないなどが起こりえます。

劣位半球(優位半休の反対側)障害では、左にあるものを無視する(半側空間無視)、病態失認(自らの麻痺の存在を認めない)、着衣失行などが起こりえます。これらの巣症状は、病変の部位、広がりによって左右されます。

後大脳動脈領域の梗塞では、起始部閉塞では皮質枝領域の他に、視床が障害されるので反対側の感覚障害をきたします。

特に、深部感覚が高度に障害されやすく、運動失調も伴いやすいです。皮質枝領域の梗塞では、同名半盲(両眼とも病巣と反対側の視野の欠損)が起こりやすいです。その他、記銘・記憶の障害、優位半球の梗塞では失読、視覚失認を認めることもあります。

「命あっての物種」という言葉もありますが、まさにその通りだと思います。何かに固執するあまり、今後の自分の生活のことを忘れがちであるからこそ、たまには自分のカラダと向き合うことも必要であると思われます。

【関連記事】
脳梗塞で入院していたが、早期治療・軽快へ−蜷川幸雄さん

脳梗塞後のリハビリを語る−西城秀樹さん

脳梗塞により記憶障害と言語障害の状態に−大山のぶ代さん