一般に「盲腸」と呼ばれるが、実際には盲腸の先端に付いた長さ5-8センチほどの管状の袋「虫垂」に炎症が起こって発症する。症状の腹痛は、はじめは胃の辺りに現れるが、半日-1日で右下腹部に移動する。治療が遅れると死の危険性もある。甘くみたら怖い病気だ。

【スイカの種は大丈夫】
虫垂は何のために付いているのか分かっていない。草食動物ほど長く大きいので、進化の過程のなごりともいわれる。

炎症が起こるのは、何かの原因で虫垂の入り口が詰まり、中でバイ菌が増殖してしまうため。よく「スイカやブドウの種を飲み込むと盲腸になる」という話を耳にする。

が、東京・池袋の平塚胃腸病院・外科の佐藤健副院長は「種が詰まって起こるケースはない。便が石のように固くなる“糞石"や腸のむくみなどが原因と考えられている」と俗説は否定する。

男女比や遺伝性はなく、幅広い世代に発症するが10代-30代の比較的若い世代に多い傾向がある。

いずれにしても「便通をよくしておくことは予防につながる」(佐藤副院長)という。

【破裂すれば死亡も】
虫垂炎は手術で虫垂を切除すればすぐ治る(入院4-7日)が、怖いのは右下腹部の痛みを我慢して治療が遅れること。初期では炎症は粘膜だけだが、次第に筋肉層に及ぶ。さらに悪化して膿んでボロボロになる壊疽(えそ)性虫垂炎の状態になると、24時間以内に破裂する恐れがある。

「破裂して孔(あな)が開くと膿や腸液が流れ出して腹膜炎を起こす。重症化すれば死亡するケースもある。だから症状が出たら1-2日以内に受診、3-4日も放置すると危ない」(佐藤副院長)。また、現在はよく効く抗生物質が開発されているので、粘膜だけの炎症なら薬で“散らす"ことも可能。ただ再発も多いので、その後の検査のフォローが必要だ。

【酷似した病気も危険】

早期受診は、とくに中高年では症状が虫垂炎と酷似した「大腸憩室(けいしつ)炎」を早期発見する意味でも重要だ。

この病気は、大腸粘膜の一部が腸管内の圧力でポッコリ袋状に飛び出した状態(大腸憩室)のところに便がたまって炎症を起こす。右側結腸に発症することが多く、右下腹部の痛みは虫垂炎とよく似ている。違うのは胃の辺りからの痛みの移動がないところだ。

佐藤副院長は「中高年になると、30-40%の人は憩室をもっていて炎症を起こす人がいる。薬で治るが治療が遅れると腸切除もありうる。中高年の虫垂炎はこの病気との鑑別が重要」と警告する。

誰に起きてもおかしくない大腸の炎症、下腹部の痛みが半日以上続くようなら要注意だ。

★「虫垂炎」チェックリスト
□ みぞおちやヘソの周囲に差し込むような痛みが急に現れ、痛みが次第に右下腹部に移動した
□ 痛みはじめに吐き気がした

□ 右下腹部の痛い場所を手で押して急に離すと痛みが増す

□ 飛び跳ねると右下腹部の痛みが響くように増す

□ 痛くてお腹を抱えるような姿勢をしてしまう

□ 37度台の発熱がある

※3つ以上該当するようなら可能性が高い。平塚胃腸病院(東京・池袋)・外科/佐藤健副院長作成
(「虫垂炎」便通をよくすることが予防に)

虫垂炎とは


虫垂は盲腸の下端に位置し、一方は盲端に終わる管腔臓器です。虫垂炎とは、この虫垂に原発する化膿性炎症を指します。

虫垂炎は細菌感染によって発症するものですが、特定の病原菌は発見されていません。最近では好気性菌、嫌気性菌の混合感染が一般的であることが明らかとなり、抗生物質選択の指針となっています。

しかしこれらの菌の多くは腸内に常在し、化膿性炎症を起こすには各種の要因が必要です。その要因の一つは虫垂内腔の閉塞であるといわれています。

内腔閉塞の原因の多くは虫垂結石ともいわれる糞石です(腸管内細菌の二次感染や腸管壁の血行障害が引き起こされて生じると考えられています。糞石などが閉塞の原因になります)。

ほかにも、異物(果実の種子、魚骨など)や、ウイルスや細菌感染など、なんらかの原因により虫垂管腔の閉塞が起こり、さらに虫垂管腔閉塞下での粘液分泌が管腔内圧を上昇させ、それにより血行障害、浮腫をきたす(カタル性虫垂炎)といわれています。

これの急性炎症は急性腹症のなかでも頻度の高い疾患です。小児・老人では典型的な症状を欠くことがあり、処置の遅れが重篤な病態を招くことがあり、速やかな対応が要求されます。

虫垂炎の診断


虫垂炎の典型例では上腹部痛、臍上部痛で始まり、次第に右下腹部に移行し同部に限局した痛みになることが多いです。腹痛は持続的なことが多く、歩行による痛みの増強を認めることもあります。

悪心、嘔吐、食欲不振などの消化器症状を伴いますが、便通に関しては症状に応じて便秘や下痢を生じることもあり、一定の傾向はあまりありません。。また発熱を伴うことが多いですが、その大半は37℃前半です。進行例では38℃を超える場合もあります。

また、急性虫垂炎では腹部所見が診断の決め手となることが多く、手術適応を決める際には特に重要です。所見としては右下腹部(McBurney点:臍と右上前腸骨棘を結んだ線の外側1/3の点)に限局する痛みが特徴的ですが、虫垂の存在部位により症状の発現部位も移動することがあります。

特に、虫垂が盲腸背部に位置するときには所見が不明瞭となり注意を要します。炎症が高度になるにつれBlumberg徴候(腹壁を圧迫し急に離したときに生じる痛み)、筋性防御(軽度の触診の刺激で反射的に腹壁の筋緊張を生じること)といった腹膜刺激症状を呈するようになります。穿孔を生じた場合、その多くは限局性腹膜炎症状を呈しますが、汎発性腹膜炎を呈した場合には腹部全体に腹膜炎症状がみられます。

検査では、採血検査、腹部X線検査、超音波検査、CT検査などを行います。採血検査では白血球の増加、核の左方移動、CRPの上昇などを認めます。重症例では白血球の減少をきたしている場合もあります。腹部X線検査では糞石を認めることがあり、この場合の診断は比較的容易です。また本症により回盲部に炎症が波及した場合、回腸部のガス貯留を認め、これは本症の診断の参考になります。

超音波、CT検査は、虫垂の腫大、壁の肥厚、糞石、腹水、膿瘍の有無などの診断に有用であり、また虫垂炎の診断のみならず他疾患との鑑別にも有用です。超音波、CT検査とも中等症以上の症例で特に有用となっています。

虫垂炎の治療


虫垂炎の治療としては、以下のようなものがあります。
腹膜刺激症状が軽度な場合などは、入院、絶食、十分な補液と抗菌薬投与で慎重に経過観察を行います。症状や検査結果の増悪がみられた場合は直ちに手術を行うことが望ましいです。

腹膜刺激症状が明らかな症例は、原則的に外科的治療の適応となります。虫垂炎を繰り返している症例も手術を考慮すべきです。また筋性防御や腹膜炎症状を呈している症例は緊急手術が必要となります。

手術は全身麻酔または腰椎麻酔で虫垂切除術を行う。症状に応じて交叉切開法(muscle splitting approach)や傍腹直筋切開法(pararectus approach)のいずれかを選択することが多いです。腹腔内の状況に応じて洗浄、ドレナージを加える。最近は整容性、低侵襲性、低創感染性などの利点から腹腔鏡下虫垂切除術も増加してきています。

急性虫垂炎は初期の段階で適切な診断と治療を行うことにより比較的短期間に治癒する疾患であるといわれています。しかしながら、初期段階の判断を誤ることにより容易に重症化するため治療方針の決定には慎重であるべきと考えられます。

上記のチェックリストを参考にして、まずはしっかりと、食物繊維を多く摂るなど、食生活を見直すことなどを心がけてはいかがでしょうか。

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