読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
検診で「副腎腫瘍」の疑いがあると言われました。どのような病気か教えてください。(51歳女性)

この相談に対して、東北大病院・泌尿器科准教授である石戸谷滋人先生は、以下のようにお答えになっています。
副腎は、背中の左右に一つずつ、腎臓の上部についている臓器です。大きさは子供の耳たぶぐらいと小さいのですが、血圧などを正常に保つホルモンを分泌する大事な役割を担っています。

副腎腫瘍とは、この副腎の一部が2〜3センチ程度に腫れたものです。ほとんどの場合は良性で、体に異常がなければ、様子を見るだけで治療の必要はありません。

しかし、副腎腫瘍がホルモンの過剰分泌を引き起こす場合があり、様々な病気の原因となります。

代表的なのは、血圧を上げるホルモン「アルドステロン」が多く作られる「原発性アルドステロン症」です。高血圧患者の1割弱を占めるとも言われています。

また、「クッシング症候群」や「褐色細胞腫」という病気も多く見られ、高血圧や糖尿病などを引き起こします。


副腎腫瘍とは


副腎腫瘍は、ホルモンを過剰に産生する機能性腫瘍とホルモン活性のない非機能性腫瘍に分類されます。

機能性腫瘍には、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫などがあります。非機能性腫瘍には、皮質腺腫、骨髄脂肪腫、嚢腫、転移性腫瘍などがあります。

健康診断や他疾患の検査中に偶然みつかる副腎腫瘍においては、約半数が非機能性かつ良性の副腎皮質腺腫と報告されています。一方、その中にはおのおの5〜10%の頻度でプレクッシング症候群と無症候性の褐色細胞腫が発見され、また1〜2%に副腎癌が含まれるといわれています。したがって治療法決定のためには、機能性腫瘍との鑑別と良・悪性の鑑別が重要となります。
 
機能性腫瘍との鑑別には基本的な内分泌学的検査のほか、各種誘発試験や副腎シンチグラフィなどが行われるため内分泌内科医との連携が重要となります。

良・悪性の鑑別で留意すべきは転移性の副腎悪性腫瘍です。肺癌、乳癌、大腸癌、腎癌などの悪性腫瘍の既往がある症例では、転移性副腎腫瘍の可能性を念頭に入れる必要があります。

原発性の副腎癌は、通常 6cm 以上の大きさで、約半数で男性化、女性化、Cushing症候群などの内分泌活性を示します。悪性の診断には被膜への浸潤と血管浸潤が重要であり、血行性転移が多く予後不良であるといわれています。

副腎腫瘍の治療とは


副腎腫瘍の治療としては、以下のようなものがあります。
高血圧や糖尿病になって、原因がホルモンの過剰分泌であると考えられる場合、副腎を摘出する手術を受けることをお勧めします。

手術は、腹部を切らず、小さな穴を開けて行う「腹腔鏡手術」が主流です。約1週間の入院で済み、副腎を摘出すれば、高血圧や糖尿病の薬はかなり少なくなり、場合によっては全く飲む必要がなくなります。

また、副腎腫瘍の大きさが4~6センチを超えた場合は、悪性(副腎がん)になる恐れがあります。この場合も摘出手術を受けた方がいいでしょう。

まずは、内科で腫瘍の大きさやホルモンの分泌量を調べることが必要です。

非機能性で悪性が否定的である副腎腫瘍は基本的には定期的な画像診断による経過観察を行います。最初の1〜2年は6ヶ月間隔のCTによる形態変化と腫瘍内部の造影効果の変化を観察し、あとは超音波による定期検査などを行っていったりします。

無症候性であっても機能性と診断されれば、治療対象となります。プレクッシング症候群に関しても、定まった治療方針はないですが、基本的には外科的治療の対象と考えられています。

手術には、上記のように体腔鏡下手術や開腹手術などを行います。体腔鏡下手術は非機能性副腎腫瘍の標準術式であり、径7 cmを超えるような大きな腫瘍、無症候性褐色細胞腫、または(原発性および転移性)副腎癌に関しては、術者の経験と力量によって適応を判断します。

悪性腫瘍の頻度(約1〜2%の確率)は低いですが、5 cmを超えるような大きな腫瘍では悪性の可能性が高くなってしまい、注意が必要です。

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