読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
先日、75歳の妻が、自宅で呼びかけに反応しなくなり、救急車で運ばれたところ、「症候性てんかん」と診断されました。2年前に脳梗塞(こうそく)を患っており、心配です。(82歳男性)

この相談に対して、天使病院精神科・神経科科長である伊藤ますみ先生は、以下のようにお答えになっています。
脳は複雑な電気信号のやりとりを行い、体をコントロールしています。しかし、何かの原因でこの電気活動が乱れると、いろいろな症状が起こります。これをてんかん発作といい、体の一部がけいれんしたり、意識を失ったりします。

症候性てんかんは、脳の一部に何らかの病気があり、その場所の電気活動が乱れて起こる発作です。子供に多い病気ですが、60代以上の高齢者にも多いことが、最近わかってきました。

てんかん発作を起こしたことのない高齢者が突然、発病した場合、脳梗塞や脳腫瘍(しゅよう)などの病気が関係していることが多く、奥さんも以前に患った脳梗塞が関係していると考えられます。

ただ、はっきりした病気がなくても、症候性てんかんを起こすことは少なくありません。医師に症状を詳しく話し、脳の電気活動を測る脳波検査や脳の内部を調べるMRI(磁気共鳴画像)検査を受けて、原因が何なのか調べてみてください。

てんかんとは、「種々の原因によってもたらされる慢性の脳疾患で、大脳ニューロンの過剰な放電に由来する反復性のてんかん発作を主徴とし、それに変異に富んだ臨床ならびに検査所見が伴う」とWHOでは定義されています。

てんかん発作とは、「大脳ニューロンの過剰な放電に由来する、一過性の神経学的異常」と定義される。したがって、急性疾患に伴う一過性のてんかん発作は厳密にはてんかんとは呼びません。

てんかんの中で脳腫瘍、脳炎などの病因が特定されるのが症候性てんかんです。発作の目撃情報を含む病歴、診察・脳波所見からてんかん発作型を診断します。

次に、発作型と脳画像などの検査を総合して、てんかん症候群診断を行います。発作型とてんかん症候群分類は国際抗てんかん連盟による分類を用います。成人の症候性てんかんは局在関連性てんかん(部分発作)がほとんどであり、病因の診断を行います。

てんかんの診断および治療に不可欠な検査は脳波検査です。脳波は常に覚醒時脳波、過呼吸と光刺激による誘発脳波と睡眠脳波を記録すべきです。

複雑部分発作を呈す側頭葉てんかんでは、通常の頭皮上電極による記録では発作性放電がとらえられないため、特殊な蝶形骨誘導、鼻咽頭誘導を利用するのがよいとされています。

本症の脳波所見としては、発作性放電と局所性異常、背景となる基礎波の異常がある。てんかんの特徴である発作性放電には、棘波、鋭波、棘徐波結合、多棘徐波結合、鋭徐波結合、高振幅徐波群発およびヒプスアリズミアがあります。局所性異常には部分てんかんの発作焦点を示唆する局所性棘波、鋭波があり、また症候性部分てんかんの局所性破壊病変を示唆する局在性徐波もみられます。

特発性全般てんかんでは画像検査が異常となることはまずないですが、潜因性、症候性全般てんかんや局在関連てんかんでは、しばしば画像検査で異常がみられます。部分てんかんのうち、側頭葉てんかんはその内側海馬に病変をもつことが多く、冠状断で海馬のT2高信号域の有無を検査する。SPECTやPETでは発作時や発作間欠期の脳血流や脳機能の評価を行います。

さらに、血液学的検査、生化学検査(血糖、電解質、Ca+2など)、血液ガス異常値の有無から症候性てんかんの鑑別を行い、また髄液検査で細胞数増多、蛋白上昇などから感染の有無を検索します。

病歴、てんかん発作からてんかんが疑われ、脳波で明らかな発作性放電があれば本症の診断は確定します。そこで局在関連てんかんか全般てんかんかを診断します。さらにその病因を考慮し、特発性てんかんか症候性てんかんかを推定することが治療前に不可欠です。

治療としては、以下のようなものがあります。
治療は、発作を止める薬を飲むことです。抗てんかん薬などいろいろな種類があり、症状や検査からその人に合った薬を選ぶことが大切です。

ほとんどの人は、比較的早く発作が治まりますので、必要以上に心配することはありません。ただ、再発することがありますので、発作がなくなってもしばらく薬を飲み続けて下さい。

また、寝不足や過労は発作を起こしやすくします。規則正しい生活を心がけるようにしましょう。

抗てんかん薬は、単剤投与が基本です。発作を抑制できないときは投与量を徐々に増量し、副作用のため増量が困難な場合に次の薬剤を追加します。てんかん原性(てんかん発作の起こりやすさ)は患者個人によって異なります。例えば、少量の抗てんかん薬で発作が消失する患者もあれば,高用量が必要な患者さんもいらっしゃいます。

部分発作、二次性全般発作ではテグレトールが、部分発作の第1選択薬として行われます。テグレトールで副作用がある場合は、デパケンかアレビアチンで治療を行います。

テグレトールの投与初期には、皮疹、血球減少、血小板減少などのアレルギー反応に注意を要します。高用量ではめまい、ふらつきが出現しやすいです。アレビアチンでは、蛋白結合を競合する薬剤との併用は、遊離型フェニトインが増加するので総血中濃度が一定でも副作用が出現します。

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