成人T細胞白血病(ATL)とは


成人T細胞白血病という記事に、以下のような内容が掲載されていました。
前宮城県知事の浅野史郎氏(61歳)が成人T細胞白血病(ATL)を発症し、都内の病院に入院した。浅野氏を襲った成人T細胞白血病の病名を聞いて、どのような病気かすぐにわかった人は少ないだろう。

成人T細胞白血病(ATL)は、病名に白血病とあるように“血液のガン”である白血病の一種である。血球には赤血球、白血球、血小板があり、白血球には顆粒球やリンパ球などがある。

成人のリンパ性の白血病はB細胞によるガンがほとんどだ。ところが、ATLの場合はT細胞によるガンなのである。そのため、成人T細胞白血病と名付けられた。

1976年、京都大学の高月清医師によって、ATLは発見された。患者は鹿児島県の出身者だった。ATLは、ウイルス感染によるガンで、その原因ウイルスが80年に米国のギャロ博士によって発見され、「HTLV-1」と命名された。

ATLのキャリア(感染者)は世界に2000万人、日本には120万人いると推測されている。キャリアが多いとされているのは、九州、沖縄、四国南部、東北のほか、台湾、フィリピン、マレーシア、ハワイ、インド、スウェーデン等々である。

発症するのは20代から70代だがピークは50代、60代である。発症率は毎年1000〜2000人に1人程度。

感染経路には
1)母児間の母乳を介しての感染
2)性交渉での感染
3)輸血による感染があるが、
3)は86年以降問題はなくなり、(2)も発症することは極めてまれと考えられている。残るは(1)だが、母児間の感染率は20〜30%あるものの、これも授乳をしないことで感染を防止できるのである。地域によってはキャリアの母親の母乳を乳児に与えず、人工栄養を与えている。

発症した場合、初発症状には倦怠感、腹痛、下痢、咳、痰、肺炎のほか、頸部・わきの下・脚のつけ根等のリンパ節の腫れなどがある。

ATLは、たまたま定期健診の血液検査で発見されることもある。

血液のガンが疑われる場合には、まず血液検査で血液細胞数やその内容、HTLV-1への抗体の有無、そして最終的にはリンパ節生検が行われ、ガン細胞の有無が調べられる。

さらに、ウイルス遺伝子の検査を行うこともある。
ATLと診断されると、ガンの広がりを調べるために全身の検査が行われ、治療方法が検討される。

診断を確定するためには、サザンブロット法によるHTLV-Iプロウイルスのモノクローナルな組み込みの証明が必要となります。逆に言えば、抗HTLV-I抗体が陰性であればATLは否定されます。陽性であっても、異常細胞にHTLV-Iの組み込みがなければATLではないとされます。

鑑別診断としては、Sezary症候群、慢性リンパ性白血病、Tリンパ腫(特に皮膚型)があります。Sezary症候群では、細胞形態はATLと類似しますが、マーカー上CD25が陰性となります。

慢性リンパ性白血病であれば、核の異常に乏しく、通常B細胞由来です。Tリンパ腫(特に皮膚型)であれば、抗HTLV-I抗体が陽性の場合、サザンブロット法以外での鑑別診断は困難となります。

また、ATLは急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型に分けられます。診断基準によりこうしたタイプに分けられ、それぞれにあった治療を行います。

治療の対象となるのは急性型、リンパ腫型ですが、慢性型でも、急激な末梢血の異常細胞数の増加、血清LDH値、可溶型IL-2レセプター値の上昇、リンパ節、肝臓、脾臓の腫大、消化管や肺、皮膚への細胞浸潤の増強がみられた場合には急性型、リンパ腫型に準じて治療を開始します。

成人T細胞白血病(ATL)の治療


治療としては、以下のようなものがあります。
ATLと診断されると、ガンの広がりを調べるために全身の検査が行われ、治療方法が検討される。

治療は一般的には抗ガン剤を使った化学療法。通常、数種類の抗ガン剤を使う「併用療法」だが、これによって寛解(症状が安定し、完治する可能性もある状態)となる患者は40〜70%あるものの、多くは再発する。今、注目を集めているのは、七種類の抗ガン剤を組み合わせた治療で、治療成績は倍以上良くなっている。もちろん、副作用については十分に理解しておくべきである。

治療が難しいATLにあって、最も期待されている治療法は造血幹細胞移植。これには「骨髄移植」「末梢血幹細胞移植」「臍帯(さいたい)血移植」がある。

骨髄移植はドナーから骨髄液を採取し、患者に移植する方法だ。造血幹細胞移植では第一に考えられる方法で、浅野氏もこの治療法を考えていると思われる。

末梢血幹細胞移植はドナー、もしくは患者自身の血液中から造血幹細胞を採取し、患者に移植する方法。

臍帯血移植は、新生児のへその緒に含まれている造血幹細胞を採取し、患者に移植する方法である。ただし、採取できる量が少ないという問題点がある。

造血幹細胞移植を受ける場合には全身状態など条件を満たさねばならないため主治医と話し合いが必要である。

厳しい話ですが、ATLの予後はきわめて不良といわれています。したがって寛解に至れば同種骨髄移植を常に考慮して本人および同胞のHLAの検査を行います。しかし移植が可能な時期は寛解に達した6ヶ月以内に限られるという制限もあります。

最近は強度を減じた前処置による移植(ミニ移植)が可能になったため、60歳以上の患者さんにも移植が行えるようになってきています。しかしながら、若年者と同様に移植の適応は寛解を得た後の再発前の短い期間しかないといわれています。

是非とも治療が上手くいき、再び元気なお姿を拝見できればと祈っております。

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