読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
22歳の娘は、髪の毛が薄くなったり足がむくんだりします。中学生の時に「甲状腺機能低下症」と言われました。卵巣のう腫の手術も2度受けていますが、関係はありますか。(54歳女性)

この相談に対して、 東京女子医大東医療センター性差医療部准教授である片井みゆき先生は、以下のようにお答えになっています。
首の下の方にある甲状腺は、体の新陳代謝を活発化させるなどの働きを持つ甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺機能低下症は、様々な理由で甲状腺ホルモンの分泌量が減ってしまう病気です。

甲状腺ホルモンが欠乏すると、髪の毛が抜けやすい、むくみが出る、疲れやすい、寒がる、脈がゆっくりになるなどの症状が表れることがあります。

「髪の毛が抜けやすい、足がむくむ」とのことですが、通常は甲状腺ホルモン補充薬を飲めば、症状は改善します。補充量が適切かどうかは、血液検査で血中の甲状腺ホルモンやそれを調節する甲状腺刺激ホルモンの量を測定することで確認できます。

ただ、検査で必要量を設定した後も、体調などによって、必要量は変化することがあります。補充薬を服用しているのに症状が改善しないのであれば、再度、検査を受け、必要量を調べてみてください。

甲状腺機能低下症は、甲状腺による甲状腺ホルモンの合成、分泌が低下した病態を指します。原因はさまざまであり、原発性、二次性、三次性(または視床下部)に分けられます。

原発性は血中TSHが明らかな高値を呈するもので、大部分の機能低下症がこれに相当し、原因は多種多様であるが慢性甲状腺炎(橋本病)による例が最も多いです。

二次性は下垂体TSH(甲状腺刺激ホルモン)分泌細胞の機能低下によるもので、三次性は視床下部TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)分泌の低下によるもので、血中TSHは低値ないし正常値を示します。

甲状腺機能低下症は顔面・手足の浮腫、寒がり、便秘、嗄声、物忘れなどの臨床症状で気づかれることが多いです。日常臨床上最も頻度の高いのは、橋本病(慢性甲状腺炎)による原発性甲状腺機能低下症です。

橋本病の診断は血中TSH高値、free T4低値、甲状腺自己抗体(サイログロブリン抗体、TPO抗体)陽性によりなされます。本症の症状を示し、血中free T4が低値を示しながら、甲状腺自己抗体が証明されない際は、下垂体性・視床下部性甲状腺機能低下症を疑いTRH負荷試験や脳MRI撮影などを行います。

60歳以上の者では8〜17%の頻度で、血中TSH高値、血中freeT4、freeT3正常の無症状甲状腺機能低下症が認められ、約3%ではfreeT4、freeT3低値を示す顕性甲状腺機能低下症が認められます。産後や破壊性甲状腺炎後に生ずる一過性甲状腺機能低下症は、それらの病勢の消失に一致して軽快することが多いです。また薬剤投与や全脳放射線療法後に下垂体性・視床下部性甲状腺機能低下症が出現することがあります。

治療としては、以下のようなものがあります。
チラーヂンS(L−T4) の少量から開始し、徐々に増量します。最初から維持量のL−T4を投与すると、特に高齢者では併存する冠動脈疾患が顕著になるおそれがあります。本症の心電図所見は低電位を示すことが多いので、L−T4投与前に心電図を必ずとるようにするべきと考えられます。

本症による心機能不全者にはノイキノン(ユビデカレノン)やβ受容体遮断薬を併用します。無症候性甲状腺機能低下症では、高コレステロール血症が存在する際は、L−T4投与後にコレステロール値低下や動脈硬化改善が認められます。

ただ、こうした治療でも改善しない場合は、以下のようなことが考えられるそうです。
それでも症状が改善しない場合は、甲状腺機能低下症以外の原因を考える必要があります。

卵巣のう腫の手術を受けられたようですが、この病気は、卵巣の一部に袋状の腫瘍ができ、そこに液体などがたまるものです。2度の手術後に、もし、女性ホルモン剤や抗腫瘍薬を使っていることがあれば、その影響があるかもしれません。

また、何かほかの病気の可能性もあります。一度、内科や婦人科などで総合的な検査を受けてみることをお勧めします。


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