4月7日、桜満開の季節にプロ野球・巨人の木村拓也内野守備走塁コーチが、37歳の若さで亡くなり、多くのプロ野球ファンは悲しみに包まれた。

木村コーチは5日前の2日にマツダスタジアムで試合前練習を行っている最中に倒れ、病院に搬送。診断は「くも膜下出血」。以降、意識不明の状態が続いていた。

木村コーチを襲ったくも膜下出血とは、脳卒中の中のひとつ。脳卒中は「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の総称で、死亡者数は年間約13万人で「がん」「虚血性心疾患」に次いで多い死亡者数となっている。死亡者数自体は減少傾向にあるものの、くも膜下出血は多少増加している。

脳は外側から「硬膜」「くも膜」「軟膜」で覆われている。そのくも膜と軟膜の間にあるくも膜下腔に出血が起きるのが、くも膜下出血である。原因の90%以上がくも膜の下の太い脳動脈に瘤ができて破裂する“脳動脈瘤破裂”。

今、日本では人口1万人あたり1.5〜2人にくも膜下出血が起きている。

そして、木村コーチが倒れる前の夜“頭痛があってほとんど眠れなかった”と周囲に話していたことでもわかるように、くも膜下出血には“サインを出す”ケースがある。

実際、くも膜下出血で倒れたものの生還した人々に調査した研究では、約30%の人々に木村コーチ同様に前兆といえるサインがあったことがわかっている。

本格的にくも膜下出血が起きると、“ハンマーで後頭部を殴られたような”といった表現がされる激痛が走る。そこまでいかない“強い頭痛”もある。これは、すでに脳動脈瘤が少しやぶれて出血しているために起きる症状で、人によってはこの症状が何度かあって最終的に―というケースもある。

この頭痛のあるときに自転車で病院へ行き、検査を受けて助かった人もいる。それだけに、木村コーチが頭痛の辛いときに病院を受診していれば……と残念でならない。

治療は「クリッピング術」と「コイル塞栓術」。クリッピング術は開頭して瘤の根元をチタン製のクリップでとめる治療法。一方、コイル塞栓術は脚のつけ根の動脈からカテーテル(細い管)を入れて瘤に届け、そこでプラチナなどでできたコイルを瘤に詰める治療法である。

もちろん、前兆であるサインをキャッチして治療が受けられれば、それはそれでいいのだが、なかなかそのようにうまくことが運ぶとはいいがたい。

できるかぎり、しっかりと予防に努めてもらいたい。40代、50代といった働き盛りに発症することが多いので、40歳くらいで脳ドックを受けるのがいい。

ただ、くも膜下出血は遺伝的要素が強い。血管の弱さが遺伝するので、祖父母、両親、兄弟などにくも膜下出血で倒れた人がいるようであれば、30歳くらいからと、少し早めに脳ドックを受けておくのがよいだろう。

脳ドックで脳動脈瘤の症状がないと診断された場合は毎年脳ドックを受ける必要はなく、その後は3〜5年ごとでいいと思われる。
(くも膜下出血)


くも膜下出血とは


くも膜とは髄膜の一部です。脳と脊髄を覆う3層の膜を髄膜といいますが、髄膜は脳・脊髄の表面に密着した軟膜、その外側にあるくも膜、最外側にある硬膜からなります。この髄膜のうち、くも膜と軟膜との間に存在するやや広い空間のことをくも膜下腔といいます。

くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage;SAH)は、このくも膜下腔に出血が生じ、脳脊髄液中に血液が混入した状態をいいます。

脳卒中の10%前後を占め、原因のほとんどは脳動脈瘤の破裂で、まれに血管奇形やもやもや病、出血傾向など脳動脈瘤以外の原因もあります。原発性くも膜下出血の原因として重要なものは、この脳動脈瘤の破綻と、脳動静脈奇形からの出血です。脳動脈瘤の破綻は、くも膜下出血の75〜90%以上を、脳動静脈奇形からの出血は5〜10%を占めています。

脳動脈瘤破裂に伴うくも膜下出血は、40〜60歳をピークとした成人に多くみられますが、20歳代の若年やまれに小児に起こることもあります。男女差は50歳頃まではほとんどありませんが、高齢者ほど女性の比率が多くなります。人口10万人に対して、10〜20人程度が発症するといわれています。

最近では、脳ドックを受けられる方も多くなり、未破裂脳動脈瘤の発見頻度が増加して、約2%の発見率(未破裂脳動脈瘤は成人の約5%に存在していると考えられている)といわれています。そうした場合、破裂してくも膜下出血を起こす前に手術を行うことができます。

くも膜下出血の診断とは


診断としては、以下のようなものがあります。
くも膜下出血は、特徴的な症状である「(バットで殴られたような)突然起こる激しい頭痛」で起こる、といったことでも有名です。今までに感じたことのないような頭痛がみられます。さらに悪心・嘔吐を伴い、頭痛が持続します。

約半数が意識障害を起こすといわれています(一過性のことが多いようですが)。約20%が初発で亡くなってしまいます。重症なものでは5分以内に急死することもあります。上記のように、いつもとは感じの異なる頭痛(突然の激しい頭痛)や、持続性の頭痛があった場合、やはり受診されることが望ましいと思われます。

出血が激しければ意識障害を伴い、昏睡や呼吸停止となり即死する場合もあります。意識障害は約半数近くにみられますが、多くは一過性で、数分ないし1時間以内で回復します。しかし錯乱や健忘が1〜2日持続することもあります。発症時は昏睡でも、救急車の中であるいは入院後に意識が清明となることもあり、刻々と症状は変化したりします。軽微な出血では軽い頭痛のために歩いて受診することもあり、感冒や緊張型頭痛、片頭痛などと診断されてしまうこともあります。

診断はくも膜下腔に出血を証明することで、発症当日や2〜3日以内ならCTでくも膜下腔や脳槽に出血の高吸収域を認めます。軽い出血の数日後には、CT上異常を認めない場合もありますが、くも膜下出血は否定できないので腰椎穿刺による髄液検査を行います。

頭部CTの後、脳血管造影によるSeldinger法で両側の内頸動脈、椎骨動脈撮影(4vessel study)を行い、破裂脳動脈瘤を発見します。約20%の症例では動脈瘤が2個以上発見されますが、動脈瘤の大きさ、形、CT所見を総合すれば、破裂動脈瘤(責任病巣)の診断はほぼ100%可能となります。

また、キサントクロミー(黄色調)髄液ならSAHであったことを示唆します。血性(赤色)の時は腰椎穿刺による血管損傷と区別するため、遠心分離してキサントクロミーの有無を調べます。疑わしければ、脳動脈瘤を直接証明できるMR angiography(MRA)や3D-CTAなどの非侵襲的検査を行います。

CT angiography、MR angiographyなどは脳血管撮影より非侵襲的な方法であり、画像の精度もよくなってきていますが、未破裂動脈瘤の診断(スクリーニング的検査)に用いられる場合が多く、くも膜下出血例ではいまだ一般的な検査とはいえない状況にあります。

脳動脈瘤に関しては、昔はサイズによらず予防手術が行われていたようですが、未破裂頭蓋内動脈瘤国際研究(ISUIA)による発表で変わりつつあります。

その内容としては、5年間の破裂率が内頸動脈・前交通動脈・中大脳動脈など前方循環に発生するもので、直径7mm未満で0%、7〜12mmで2.6%、13〜24mmで14.5%となっています。後交通動脈・椎骨脳底動脈系に発生するものでは2.5%、14.5%、18.4%と発表されました。つまり、サイズの小さいものでは破裂率はきわめて低い、ということです。

一方で、治療合併症は死亡1%以下、後遺症5%であるということもあり、「サイズが小さいものは、破裂する心配は少ない。それより、手術による合併症のリスクの方が高い」ということが考えられます。よって、サイズが小さいものは手術を行わないところが多いのではないでしょうか。

具体的には、日本脳ドック学会のガイドラインで「70歳以下で5mm以上、治療に支障を生じる合併症がないこと」が治療の適応となり、10mm以上では積極的に治療が勧められます。3〜4mm未満または70歳を越える場合は、平均余命、大きさ、形態、部位、治療リスクなどを考慮し個別に判断します。

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