鎌状赤血球症とは


「鎌状赤血球」とは、ヘモグロビンSの線維状析出により変形した赤血球のことを指します。種々の形態がみられますが、典型的には三日月状の西洋鎌に似ていることからこのように呼ばれます。

「鎌状赤血球症」とは、こうしたヘモグロビンの、β鎖のN末端から6番目のグルタミン酸がバリンに変わった異常Hb(HbS)の産生による常染色体劣性遺伝性疾患です。

HbSは赤血球内、特に酸素分圧の低い状態では溶解度が低下することによりゲル化し、赤血球は鎌状化します。その結果、ホモ接合では慢性溶血性貧血と全身の血流障害をきたします。ちなみに、ドラマでもみられましたが、鎌状赤血球症患者の血液から酸素を奪うと、赤血球は徐々に鎌状変形し、これを鎌状化試験sickling testといいます。

この遺伝子をもつ人々を地理的に考えると、アフリカの熱帯地方で最も頻度が高く、ギリシャ、イタリア、イスラエル、アラブ、アメリカ、南米の西部と広く分布しています。このように、HbS遺伝子の保因者は、マラリアの多い土地に分布しているそうです。

その理由は、HbSを有する赤血球中ではマラリア原虫の発育が困難であることや、ヘテロ接合heterozygote(HbAS)の赤血球はマラリア原虫の寄生により鎌状化しやすくなり、血中から除去されるために、マラリアに対して正常人より抵抗性が強いことによるそうです。

ちなみに、アメリカ黒人では約8%と高頻度ですが、日本人にはまだ発見されていません。

鎌状赤血球症の診断


HbSは、脱酸素状態では溶解度が低下し、線維状の束となり、赤血球膜を内側から突き上げて、赤血球形態を鎌状に変化させます。この鎌状化は酸素、HbSの濃度、温度、HbAやHbF量の影響を受けて赤血球の硬直化をきたし、毛細血管内で血流障害をきたすことにより、諸種の臨床像を呈します。

還元薬による赤血球の形態変化をみる鎌状化試験や、溶血液に還元薬を加えHbSの沈殿をみる溶解度試験などがあります。確定診断は電気泳動ないしクロマトグラフィによりHbを分離し、HbSを同定します。

ドラマでは患者さんをあえて低酸素状態(走らされてました)にしていましたが、検査法の確立された現在、あのような行為で患者さんを危険な状態に陥らせる必要はないと考えられます。

症状としては、貧血は赤血球変形能の低下、血管内皮への付着、単球やマクロファージによる赤血球貪食などによって起こります。

血管閉塞性発作をきたすと閉塞部位の疼痛発作を招き、手や足の疼痛、胸痛、虫垂炎を思わせる腹痛、腰痛、骨関節痛などが認められます。慢性の臓器障害により発育、成長は10歳以後低下し、心、肺、肝、腎、脾、中枢神経系、骨、筋肉および眼などの障害をきたします。

ちなみに、ドラマでは、どうして幼少期の症状が起こっていないか、などといったことは触れられていませんでしたね。

また、脾ないし網内系の機能低下により易感染性をきたし、多くの場合、感染が死因となります。パルボウイルス感染により骨髄の低形成発作をきたすと一過性に貧血は増悪します。

さらに、ドラマでは腎性尿崩症が合併症として登場していました。これは、腎の働きが低下してしまい、本来は体内に貯留されるべき水分が、尿として出ていってしまうため、尿量増加をきたします。

鎌状赤血球症の治療


治療としては、以下のようなものがあります。
血管閉塞性発作は感染、発熱、腹水、アシドーシス、低酸素状態および寒冷により誘発されるので、これらができるかぎり起こらないようにして発作を防止することが第一となります。

ただ、予後は悪く、50%は3歳までに死亡し、40歳以上生きることはまれです。cyanateをはじめとする抗鎌状化薬の開発が試みられていますが、現在安全でしかも長期に使用できるものはないです。azacytidineやhydroxyureaなどによりHbFの産生を促し鎌状化を抑える方法や、骨髄移植が試みられていますが、未だ検討段階となっています。

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